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5夜 手荒なチュートリアル

「エルルさんが何故『増える』のか。彼女が何者なのかはさておき、本題に入りましょう。『ヒュプノクラフト』について、お話しします」
「『夢魔法』とかぁ『夢見の技』って呼ぶこともありますよぉ!」

まるで天使と悪魔みたいな関係の、エルルちゃんと道化人形。どっちが天使で、どっちが悪魔なのかは、まだ謎だけど。

(この首飾りも、ヒュプノクラフトだと言ってましたわね。あの道化)

胸元の首飾りに視線を落とすユッフィー。気のせいか、大粒の赤い宝石から見つめ返すような視線を感じた。

「アナタたちが見ているこの夢は、すべてが『ヒュプノクラフト』です」

そう指摘されて、一同があたりを見回す。現実では薄暗い真夜中のロビーを明るく照らしているのは、ヒュプノクラフトで作られたランプの明かり。

「外に生えてきたアニメっぽい木とか、ルーン文字の光の柱も全部ヒュプノクラフトか」
「ええ。アナタがたにお渡しした仮面や、変身したアバター、着ている服もヒュプノクラフトです。それらを生成、加工、操作する技術もまたヒュプノクラフトと呼ばれます」

新規プレイヤーのひとりが、相槌を打った。

「要するに、サンドボックスゲームみたいなやつだな」

まるで、ゲームのような夢。しかも自由度が高そうだと察した地球人たちは早くも興味津々で。

「そして、ご注意ください。アナタがたの無意識の不安や、内に溜め込んだ負の感情も『無意識に発動するヒュプノクラフト』となって、悪夢の怪物を生み出すのですから」

わざと不安を煽るような道化の語りに、ユッフィーも警戒の色を強くする。

「まるで『イドの怪物』ですわね。けれど、ヒュプノクラフトは魔物に対抗する武器にもなる」
「理解が早くて助かります。仮面なしでいることは、丸腰にも等しい」

詳細を知るまで、仮面の受け取りを保留していたユッフィーも。ここで道化から仮面を受け取った。まだかぶらず、手に持つにとどめてはいるけど。

「さて、ここでひとつ。みなさんにもヒュプノクラフトを体験してもらおうと思って、悪夢のゲームに恨みのミッション『デイリーうらミッション』を実装してみました」
「何だよ、そのネーミングセンス」

道化の悪趣味なセンスに、プレイヤーたちから思わず苦笑が漏れた。

「操作は簡単です。一晩に一回、アナタが『憎い』『許せない』と思うものを、ご自分の口からハッキリ声に出して教えてください」

人によっては、勇気がいるかもしれない。憎しみの告白。

「それで、どうなるんだ?」
「ミッション達成で『ヘイトパワー』を入手します。これは戦闘力の一時的な大幅強化に役立つ他、通貨『ニクム』に交換して買い物に使えます」
「ヘイトって、そっちのヘイトかよ」

MMORPG用語でのヘイトは、モンスターがプレイヤーを狙う際の優先順位。防御力に優れたタンク型のキャラは、敵を挑発するなどヘイトを高める手段を持つ場合が多い。回復スキルの使用がヘイトを買うこともある。
でも道化の言うヘイトパワーは、要するに暗黒面ダークサイドのチカラだ。

「憎しみを課金、か。皮肉がきいてるな」
「よし、なら試しに言ってやるぜ!」

地球人プレイヤーのひとりが、一同の前で堂々と憎しみの宣言をした。

「DJPのガチャはクソドケチ、福引きじゃなくて『呪い足し』だ!」

すると、彼の頭上に「ヘイトパワー:+3000」の文字が浮かび上がる。

「ガチャを呪う言葉で、またガチャでも回すのか?」
「ガチャの永久機関!ヘイトパワーばんざい!!」

「DJPのガチャはクソドケチ、福引きじゃなくて呪い足し!」
「DJPのガチャはクソドケチ、福引きじゃなくて呪い足し!」
「DJPのガチャはクソドケチ、福引きじゃなくて呪い足し!」

プレイヤーたちの頭上に、次々と現れる「ヘイトパワー:+3000」の文字。
地球人たちの異様な盛り上がりに、道化はしてやったりとほくそ笑み。

「ユッフィーさぁん、ナニコレぇ!?呪いのじゅもぉん??」
「いろいろと、闇が深いですの…」

脳内に、国民的RPG「竜騎士の旅ドラグーンジャーニー」で有名な「呪いのBGM」が流れた人も多いだろう。

デロデロデロデロ、デロデロデロデロ、デッナイ?
おきのどくですが。

特定個人への殺意でないだけ、まだマシなのかもしれない。
DJPのガチャは、一定回数で必ず最高レアが出る「天井」の補償も無いし。そこはホントにクソだと思いつつも、ユッフィーがまだ「憎しみの宣言」をせずにいると。

「とんだ茶番じゃな」

唐突に、声が聞こえた。声変わり前の、少年の声だった。
しかし同時に、地の底から響くような深い闇を感じさせる声。
魔王の声だと言われても、通じるような。たちまち、あたりは静まり返る。

「何者ですか、アナタ」

ただならぬ気配を察した道化が、謎の声に向かって問いただすと。

「そうやって地球人から負の感情を搾り取り、悪夢のチカラで『災いの種』を育てて、またどこかの世界を『剪定』と称して滅ぼすのか」
「オグマ様ぁ?」

エルルは、声のあるじに心当たりがあるようだ。
ユッフィーは、その声を胸元から聞いていた。あの首飾りだ。

「憎いのは、おぬしらガーデナーじゃ。ワシらの故郷『アスガルティア』を滅ぼした宿敵ゆえ、許すことはできんな」

次の瞬間、奇妙なことが起きた。

「あっ、首飾りが…!」

ユッフィーが首からかけてる首飾りの宝石が赤く光って、怪物みたいに大きな口を開けたかと思ったら。裂け目から舌がベロンと伸びて、ユッフィーの手から白い仮面を奪い取り、一気に飲み込んでしまった。

「あの首飾り、モンスターだった!?」

道化からも、周りの地球人からも驚きの声が上がる。

ヘイトパワー:計測不能。危険域を超過、暴走します。
ユッフィーの頭上に出たメッセージに、思わず逃げ腰になる地球人たち。

「お、おい!?」
「ヤバいぞ、逃げろ!」

その時、エルルちゃんズが動いた。

「エルルちゃんズはぁ、勇者候補を守る戦乙女ヴァルキリー!」

とっさに各自のパートナーである地球人プレイヤーを、それぞれかばう姿勢に入る。いつものマイペースからは想像もつかない、決然たる勇姿。

「オグマ様ぁ、やめてくださいよぉ〜!」
「止めるなエルル!わしはもう、ヴェネローンの掟には縛られぬ!!」

最初にユッフィーとハグを交わし、ユッフィーの担当になったエルルちゃんが必死に訴えかけるも。

「身体が…!わたくしの右腕、鎮まるですの!!」

まさに、悪夢。

ユッフィーの身体は、どす黒い闇のオーラに飲み込まれて。中の人の意志に反して勝手に動き、道化人形たちを次々と素手で粉砕。動きに無駄がない。拳で砕き、手刀でなぎ払い。頭突きでダウンさせ、足で踏み潰す。

「ヘイトパワーの暴走…あれが、戦闘力の一時的な大幅強化か?」

幸いにも、人形たちを全滅させた時点で暴走は止まった。

「もしやアナタは…」
「ふん」

首飾りの宝石から、見下すような冷たい視線が突き刺さると。
それだけを言い残し、首だけの道化人形は砕かれて機能を停止した。

庭師ガーデナーは、自分の庭の手入れはする。じゃが地球人のことは、庭で飼ってる無知な家畜ぐらいにしか思っとらんよ」

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夢を渡る小説家イーノ
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