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商人のDQ3【58】竜の女王と卵の見る夢

「ぬわあぁぁ〜っ!!」

 ここはどこでしょう。見知らぬ夜の城下町に、大の男の悲鳴が響きます。海をはさんだ対岸には、禍々しい気配を放つ城が見えます。

「オルテガ様!」

 全身包帯だらけでベッドから飛び起き、荒い息をついているマッチョメンに駆け寄るのは、小柄な青い髪の娘。背丈も頭身の低さも、シャルロッテと似ています。となるとドワーフでしょうか?

 奇妙なことに、オルテガは小人サイズのベッドをふたつ横につなげた上で寝ていました。

「また、火山の火口に落ちる夢を見たのですね」

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『ケルベロスブレイド』(C)イーノ/めいさ/トミーウォーカー

「心配かけてすまんな、ユッフィー王女」
「お気になさらず。わたくしがしたくて、していることですから」

 オルテガの看病をしていたのは、どこかのお姫様のようです。

「ここ、どこでちか?」

 そしてなぜか、部屋にいるシャルロッテとクワンダとマリカ。

「オルテガ、これはどういうことかしら?」

 マリカから、オルテガに険しい視線が向けられます。どうやらムオルでの件とは別に、また不倫疑惑をかけられている模様。重傷を負った勇者を姫が看病しているうちに…?

「どうして、お前が怒る」

 不思議そうな顔をして、クワンダがマリカを見ます。

「だって、あたしの義父になるかもしれない人じゃない」
「マリカしゃん、いつの間にっ!?」

 これには、オルテガも面食らいます。息子に恋人がいたのかと。

「あなたがたは…?」

 いつの間にか、突然現れていた三人に。ユッフィー王女と呼ばれた青い髪の娘も驚いています。

「ここは、地下世界アレフガルドのラダトーム城だ」

 はたして、現実なのか夢なのか。道化のメアルーラで悪夢の彼方へ飛ばされたアッシュ少年を探して、オルテガを含めた四人は夢渡りでランシールの洞窟から先に進んだはずでした。それがどういうわけか、こうなっていて。

「かつて私は、ネクロゴンドの火山の火口に落ちて生死の境をさまよった。その際、どこを通ったのか分からぬが下の世界に落ちていたのだよ」

 オルテガが、試しに包帯をとってみると。傷はすでに癒えてました。ここはどうやら、まだ夢の中みたいです。

「道化め、またあのときの悪夢を繰り返し見せるとは」
「これは夢でしたのね」

 すると、ユッフィー王女がポンと手を叩きます。どうやら彼女も、寝ている間に無意識の夢渡りでここへ来ていた模様。

「わたくしはユッフィー。ドワーフたちの国アレフガルドの姫です」
「ドワーフでちか?」

 背丈の近いシャルロッテとユッフィーが、正面から向き合います。どちらも子供に見えますが、立ち居振る舞いからどちらもオトナのようです。

「シャルロッテちゃんは商人で、びしょうじょ神官でち。こっちの傭兵はクワンダしゃんで、魔法使いはマリカしゃんでち」

 初期ドラクエのキャラ絵って、頭身低めのドットですね。この世界では、ホントにそのまんまの頭身で人々が暮らしているのでした…!

「上の世界にもホビットを名乗る者がいるが、地上に上がってきたドワーフの末裔らしい」

 そういえば、オルテガにはホビットの旅仲間がいましたね。

「マリカ様、わたくしはオルテガ様を見つけて介抱しましたけど、あなたが想像するような関係ではありませんの」

 確かに素敵なおじさまですけど。ユッフィーは冗談めいた微笑みを浮かべながら、マリカからの不倫疑惑を否定します。

「そう、ならいいんだけど」

 ほっと安心した様子のマリカですが、すぐに大事なことを思い出して。

「そうだわ、アッシュ! 勇者アッシュの行方を探さなきゃ」
「アッシュは私の息子で、将来有望な若き勇者だよ」

 オルテガが、目覚めないアッシュの件についてユッフィーに説明します。

「そうでしたか…アッシュ様は、マリカ様にとって大切な方なのですね」
「そ、そうよ」

 顔を赤くしながらも、マリカがハッキリと口にします。隣でニヤニヤしながら見てるシャルロッテ。

「でしたら、ボクちゃん。聖竜ボルクスのチカラを借りましょう」

 ユッフィーが何かを召喚する素振りを見せると。七色の鱗を持つチビ竜が現れて、ユッフィーに抱きついてきました。よほど懐いてるのか、相当な甘えっぷりで…意図的に胸元に顔うずめてませんか? ぱふぱふぱふ。

 あっ、今度は顔をなめた。くすぐったそうな顔をするユッフィー。

「まさか、そのチビ竜が全員乗れる大きさになったりするのか?」
「その通りですの」

 クワンダは適当に予想を言ってみただけですが、やはりここは夢の中。不思議なことばかり起きますね。

「いまのは、おばばが言ってた『夢召喚』?」

 寝ている者の精神を、使い手の前に呼び出す術。もしそれができるなら、いますぐアッシュに会えるのにと。マリカは、王女とチビ竜を羨望のまなざしで見ていました。

 一同がラダトーム城の屋上庭園に出ます。そこはちょうどヘリポートにも似た飛竜の発着場でした。

「それでは、お願いしますの」

 ユッフィーが聖竜ボルクスと呼ぶチビ竜に、ちゅっとキスして発着場の真ん中へ降ろします。するとどうでしょう、みるみるうちに姿が大きくなり、オトナのドラゴンになりました。翼を広げた幅は10mにもなるでしょうか。

「しゅごい、おおきいでち…!」
「これでも、現実でのボクちゃんはまだ卵なんですの」

 すべての夢を見る者は、眠っている間に無意識の夢渡りをしています。卵であっても、胎児であっても。

「卵の見る夢…」

 マリカが、ベナンダンティでも信じられないという風に。目の前の飛竜を見上げます。

「ユッフィー王女。上の世界の、竜の女王から連絡がありました」

 そのときです。現代人から「精霊」とあがめられる古代アリアハンの科学者ルビスのアバター体が、不意に姿を現します。本体はゾーマに石にされていますが、精神だけなら行動は自由。

「ルビス様!」
「我が城から近い、世界樹の南に『バラモス』が現れました。いま勇者アッシュが単身で戦っています」

 竜の女王からの中継音声に。まだそんな秘境があったのかとシャルロッテにマリカ、クワンダの三人は驚きますが。アッシュがピンチとなればすぐに気持ちを切り替えます。

「私がドリームゲートを開きます。みなさんは救援に向かってください」

 ルビスが、発着場の上空に旅の扉にも似た転移ゲートを開きます。

「さあ、みなさま!」

 一足先に飛竜にまたがったユッフィーが、一同に背に乗るよう促します。

「夢の中でバラモスを倒せば。おそらくアッシュは、目覚めるだろう」
「行きましょう! あたしたちのアッシュを取り返すの」

 オルテガとマリカを先頭に、続いてシャルロッテとクワンダも飛竜の背に乗って。七色に輝く鱗の飛竜は、オーロラ揺らめくゲートの彼方へ力強く羽ばたいてゆきました。

 ところで。竜の女王の城にある卵といえば、のちの…?


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夢を渡る小説家イーノ
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