商人のDQ3【39】アッサラーム・アライクム
「呪文封じだからってぇ!せ〜すいは意地でも使わないでちからね!!」
1瓶200Gもする聖水は、ヨーロッパ人教会の大きな収入源。その売上金は宣教師の派遣費用に回されて、彼らは神の教えを植民地支配の足場にする。シャルロッテの信仰する女神アウロラは、少なくともそれをよしとする存在ではないようです。
マミーたちに囲まれたシャルロッテが、数珠のような音を鳴らす珍妙な杖を構えます。クワンダはゾンビキラーを振るい不死者どもを斬り伏せ。ランプを持ったおばばを中心に他の3人で円陣を組んで守る形です。そして組み技系の武闘家でもあるアントニオじいさんは。
「十字固め!腕ひしぎ逆十字ーッ!!」
なんと、つかみかかってきたマミーの腕を逆につかみ、地面に引き倒して組み技でHPを0にし、同時に浄化してとどめを刺しました。そりゃ、名前に十字とかクロスの付く特技や呪文はアンデッド特効なことが多いけど。
「無茶苦茶だな、おい」
これには戦闘経験豊富なクワンダも、度肝を抜かれます。武器や呪文によらずして、アンデッドを倒す。何らかの除霊手段なしでは延々と復活されるからこそ彼らは脅威なのですが、これでは形無しでしょう。
「で〜ちっ!せ〜ぎのそろばん、受けるでちっ!!」
シャルロッテは短いリーチを、ヒップアタックで大きく踏み込んで補い。よろけたマミーへ奇妙な杖でアッパースイング。先端のゾウさん飾りが直撃して吹き飛ぶと、まるでニフラムでもかけられたように浄化され消えてゆきます。
「はて、正義のそろばんとはあんなモノじゃったかの?」
後ろから、シャルロッテの小さいながら派手でコミカルな戦いぶりを見ていたアミダおばばが、首をかしげます。自分は船の見張りで上陸しなかったけど、あのとき手に入れたものかと記憶をたどります。
※ ※ ※
奇妙な杖は、シャルロッテが道中で偶然会ったモスマンの商人からエルフの武具と交換にもらったものです。人間でエルフの隠れ里と取引できる者は極めて少なく、道具屋のハティから買い付けたアイテムは一行の貴重な資金源ともなっていました。なので、自分たちで使わない分もいくらか常備してあります。
アッサラームの街から来たこの行商人は、アルスラン王の野営地に物資を届ける酒保商人で、注文を受けた品以外にも多くの商品を馬車に積んでいました。船を走らせていると遠くに商人の馬車が見えたので、手を振って声をかけたのです。
「アッ=サラーム・アライクムでち」
「ワ・アライクム・ッ=サラーム、小さなお嬢さん」
先日のアルスラン王との会見で覚えたのか、シャルロッテがモスマン流のあいさつをすると。相手もにこやかに、決まり文句で応じてきました。
それぞれ「平安があなたたちの上にありますように」「あなたたちの上にも平安がありますように」を意味します。そして、イッツ商談タイム。
おお! わたしの ともだち!
おまちしておりました。
うっているものを みますか?
→はい いいえ
「ゾウしゃん?」
商人が並べた品の中に、シャルロッテは風変わりな武器を見つけます。おそらくは、僧侶か魔法使い用の杖。ヨーロッパではまず見ない意匠。シャルロッテも知識だけはありますが、ゾウの実物を見たことはありません。
おお! おめがたかい!
78000ゴールドですが
おかいになりますよね?
はい →いいえ
「なんでちか、その杖は」
「やめとけ、吹っかけられてるぞ」
おお おきゃくさん
かいものじょうず。
わたし まいってしまいます。
では 39000ゴールドに
いたしましょう。
これなら いいでしょう?
はい →いいえ
シャルロッテとクワンダの警戒する様子に、モスマンの商人はオーバーなリアクションをしながら値切ってきます。
おお これいじょうまけると
わたし おおぞんします!
でも あなた ともだち!
では 19500ゴールドに
いたしましょう。
これなら いいでしょう?
「ん〜、武器の性能とか、産地とか、いろいろ詳しく聞かせてくだしゃい」
「おい、買う気か?」
興味を示したシャルロッテに、商人はこんな話をしてくれました。
「これは商人全ての憧れ、正義のそろばんのバハラタ限定モデルで〜す」
「ふむ、アッサラームには黒胡椒の産地バハラタから船が入るんじゃな」
珍しい異国の品に、アントニオじいさんも興味を示します。
「で、このゾウとやらは結局なんなのじゃ」
アミダおばばも、不思議そうに眺めています。ゾウはドラクエ3の原作にもいませんね。
「これはゾウの神様ガネーシャ、バハラタ地方の商売の神様で〜す」
障害を取り除き、財産をもたらす神。その説明を聞いたとき、シャルロッテの脳裏にある人物が浮かびます。魔王バラモスの呪いという極めてハードな障害と戦っている、アッシュ少年。彼を元気付ける役に立つのなら。
「バハラタの寺院で清めてもらいましたから、不死者にも有効で〜す」
「シャルロッテちゃんも、相応の品を出すから。物々交換ちまちぇんか?」
今度はシャルロッテが、エルフの隠れ里でお酒と交換で買い付けた妖精の武具についてモスマンの商人に語ります。これには彼も本気で驚きました。
「おお、あなた いいともだち!」
「取引成立でちね!」
満面の笑みで握手するふたりに、護衛のクワンダは珍しく感心して。
「血がつながらなくても、お前は間違いなくオティスの孫だな」
「へへ〜んでち♪」
オティス翁は名前の通り、シャルロッテの属するオティス商会の創業者で伝説の冒険商人です。そして「勇者の酒保商人」の異名を持っていました。傭兵クワンダにとっては、頭の上がらない取引先です。
シャルロッテは、珍しい象頭の杖を手にして無邪気に喜んでいます。象人間がそろばんを持ってるデザインは、オリジナル以上により珍妙ですが。
ガネーシャの持つ杖は「アンクーシャ」と呼ばれます。その意味するものは「自分を信じ、自分で指揮を執ることで自由になる」。シャルロッテは、まさにそうした行いで運を引き寄せたのでした。
ちなみに、これも同じ由来。
※ ※ ※
「ふむ。呪文は使えずとも、道具に込められた魔力は発動可能じゃな」
3人の戦いを観察していたおばばが、それならこれでと。出港時にマリカから預けられたいかずちの杖を見ます。戦いはすでに決着がつき、ピラミッドの地下は元の静けさを取り戻していました。
なお、マミーたちの後方にいたあやしいかげたちは。戦いに加わらず変な踊りを踊っていたり、チューチュートレインごっこをしてましたが。いつの間にか姿が見えなくなってました。いったい何だったのか。
余談ですが、ドラクエウォークのフィールド上で「あやしいかげ」系の敵シンボルが縦に並ぶと、まさしく下の動画みたいなあやしい動きに見えることがあります。
「あれは、隠し階段か」
さっき、山彦の笛の反応があった方へ行ってみると。誰かが壁のスイッチを押して仕掛けを起動させたのか、ピラミッドの床下にさらに下の階に続く階段が見えました。ヒミコとクレオパトラは、この先にいるのでしょうか?