商人のDQ3【71】ソルフィンとアーサー
「くそっ、まるでオオカミだな」
ヴィンランド近くの、夜の森。ソルフィンが単独で、エジンベアの国家勇者アーサーの乗る白いキラーマシンを相手取って機敏に逃げ回っています。まさしく、ダンスウィズウルブス。
森の中では、さすがのキラーマシンも小回りが効きません。武装を全開にすれば障害物などなぎ払えますが、それがエネルギー切れを狙った策だとしたら。装甲は強固でも、稼働時間には限りがあります。
「ソルフィンは俺だ。反乱のリーダーを討ちたいなら、ついて来るんだな」
「自ら名乗り出るとは、やはり勇者だな!」
(私とて、無抵抗の市民を虐殺などしたくない。ボストン茶会事件は、前の虐殺事件への報復だろうからな)
相手を威圧し、できる限り不必要な血を流さず、反乱を制圧するために。アーサーはワザと高圧的に振る舞っていましたが。それは彼の本心ではありません。実は、とても苦労人。
お金に厳しいDQ3よりも、現実の歴史のほうがもっとお金に厳しいです。当時の紅茶は、ただの嗜好品ではなく。飲料水の殺菌を目的に使われていました。お茶はカテキンを含みますからね。要するに生活必需品だからこそ、紅茶への課税に強く反発したのです。軽減税率にせんかい!ってね。
「どうしたアーサー! 俺はヴィンランド最強の男。かつて怪力無双のバイキング、のっぽのトルケルとも一騎討ちで渡り合った俺が怖いか」
生身の人間相手にキラーマシンなど使って、恥ずかしくないのか。今度はソルフィンがアーサーを挑発します。
「おっと、その手は食わないよ」
(マシンから降りたら、負け確定だからね)
アーサーも、なかなか慎重なタイプ。お互い手の内を探りながら、森の中の追っかけっこは続きます。
「…魔王軍か!」
茂みの中で目を光らせるモンスターに、アーサーが操るキラーマシンのサーベルが一閃。すると、エリミネーターもどきが胴体を真横に両断されて、中の金属部品を露出させながら前のめりに倒れます。そこへ胴体を縦に両断するとどめの一撃。
「オリハルコンのサーベルか!?」
以前、スーの村で戦ったとき。そのしぶとさに恐怖すら覚えた機械の骸骨をたやすく斬り捨てる切れ味のサーベル。残骸の鋭利な断面に、ソルフィンも背筋に寒気を覚えます。
「勇者同士の一騎打ちに水を差す、無粋な魔王軍め」
(やっぱり、変だ。その気になれば生身の人間など簡単に殺せるだろうに、妙に正々堂々にこだわる。さっきも街に直接火を放たなかった)
話し合いを求めるヴィンランド側を、圧倒的な武力で押さえ付ける。王の命令は非道極まりないが、実行する騎士に気の迷いがあるのか。ソルフィンの戦士としての嗅覚が、アーサーの人物像を浮き彫りにします。本当の彼は根っからの悪人ではないのかも?
「あんた、何でエジンベアの国家勇者なんかやってるんだ」
暴力と略奪を嫌うソルフィン。その彼が、敵として対峙するアーサーにも近いものを感じて、思わず問いかけます。
「いくら綺麗事を掲げようと、チカラが無ければ絵空事に過ぎん」
吐き出すように告げてきたアーサーに、ソルフィンは確信します。目の前の男は、かつてバイキング戦士団で暴力と略奪の日々に明け暮れてきた過去の自分そのものなのだと。
ソルフィンに向けて、キラーマシンが巨大なサーベルを振るいますが。その大振りな一撃は簡単に太刀筋を読まれ、最小限の動作でかわされてしまいます。
白い巨体の左胸には、オリハルコン製でない小窓らしきものが。的は小さいものの、直撃すれば弱点となるその部位を。木陰から狙撃せんとする小柄な人影がありました。
構えているのは、銃床のない奇妙な銃でした。弓と似たフォームで狙いを付けられる工夫がされたそれは、ポルトガから伝来した火縄銃をジパングで魔改造した最新鋭の逸品。
エルフ弓術の構えから放たれた必殺の一射は、キラーマシンの左胸の小窓を正確に撃ち抜くかに見えましたが。寸前で銃弾を感知した防弾シャッターに弾かれて鋭い金属音を響かせました。
ダイの大冒険では、そこを集中攻撃して攻略できたのに! 惜しいっ。
「お見事、お嬢さん! だけど、その弱点は対策済みでね」
「な、なぬ〜!」
長身の男に抱えられ、狙撃地点からすぐ距離をとる小さな人影の正体は、シャルロッテでした。一緒にいるのは、観測手を務めていたクワンダ。
「銃声でバレバレなんだよ!」
一瞬遅れて、ふたりのいた場所をキラーマシンのボウガン型ビーム砲が焼き払います。ベギラマに相当する熱線が、空気を焦がして。
「ひゅ〜っ、しぬかとおもったでち」
「エジンベアのアーサー、アッシュに匹敵するメカオタクらしいな」
火縄銃は、銃声で射手の位置がバレる。狙撃に使うなら、撃った後は素早く退避しなければならない。ヴェニスで緊迫するヴィンランド情勢に備えていたシャルロッテたちの「準備」には、火縄銃の特訓も含まれていました。
「シャルロッテ!」
「ソルフィンしゃん、遅くなったでち!」
「後から、アッシュたちも来るはずだ」
グズリーズは、きちんと安全な場所に退避して。夢渡りで、シャルロッテたちを呼びに行ってくれたようです。
「今回は、夢渡りじゃないのか?」
「ジュウみたいなヤヤコシイぶきは、せ〜しんたいじゃイメージをねりにくいでち」
ソルフィンとシャルロッテが、久しぶりに直接会って言葉を交わします。どうやらキメラのつばさでスーの村に飛んで、獣道を抜けてきた模様。
スーの村とヴィンランドは交流がありますから、徒歩のルートはもともとあったのです。
「ソルフィンしゃん、パパしゃんになるんでちね。シャルロッテちゃんも、ヒトハダぬぎまちゅよ!」
ソルフィンが大変なんだ、助けておくれ。お腹の大きくなったグズリーズの姿が、シャルロッテの脳裏に浮かびます。夫婦の幸せを守ろうと奮起し、腕まくりする愛らしい姿が、戦場の仲間たちをなごませました。
「ウワサのじゃじゃ馬侯爵に、山育ちのハイランダーか」
エジンベア北部の山岳地帯に暮らす、戦士の一族。その特徴的なキルト姿を見て、キラーマシンの顔がクワンダのほうを向きます。中の操縦席から、アーサーがこちらを見ているのでしょう。
「悪いが、もうこいつの祖父に雇われてるんでな」
勇者同士の対決に、ハイランド傭兵の勇者クワンダも参戦。戦いの行方ははたしていかに?