商人のDQ3【25】眠り姫、目覚める
「おばばには分かる。おぬしら二人とも、あの男に」
ソルフィンを見送った後。アミダおばばがホホホと笑みを浮かべながら、シャルロッテとマリカに「人生の先輩面」しようとすると。
「む、むぐ〜!?」
顔を真っ赤にしたふたりに、全力で口をふさがれました。アッシュ少年とクワンダが、何事かと目を見開きます。
「ゲホッゲホッ!年寄りはもっと、大事にせんかい」
まあ、そうなるのも無理はない。このおばばも若い頃は…とアミダおばばが心の奥で青春時代を振り返ります。
「ソルフィンさんがいなくなるのは寂しいですけど、僕たちの冒険もだいぶ佳境に入ってきたと思います」
「今まで借りてた船が無くなったのは、デカいと思うぞ」
クワンダの指摘に、アッシュ少年をはじめ一同がハッとします。確かに、これまでの航海でソルフィンのバイキング船と、彼自身が身につけていた航海術の果たした役割は絶大でした。
今後ソルフィンと船の代わりをどうするか、シャルロッテが思案します。
西の国ポルトガでは船という物をつくっているそうだ。
「夜、寝てる間にロマリアへ夢渡りして、住民のみなしゃんの夢を見て回ったときにそんな話を聞きまちた」
彼女は立派なロマリア領主。冒険の最中も、しっかりリモート領地経営に励んでいたのです。経験不足で判断に迷ったときは、先輩であるカルカスの女領主に相談しながら。
「シャルロッテちゃんも商人、おっきなお船がほしいでち!」
この機会に、自分の船を持ちたい。一介の冒険者が外洋航海船を個人所有するなど非常識ですが、商人としてならごく当たり前の発想でした。
「領地経営で得た収入を、船の購入にあてるんですね」
アッシュ少年が、シャルロッテの商人としての成長に拍手を送ります。
「勇者アッシュと持ち上げられていますが、ここまで来れたのは全てシャルロッテさんたちのおかげですから」
「あまり調子に乗るなよ。民に反乱を起こされて、牢屋に入れられたりしないようにな」
アッシュの謙虚さを見習うよう、保護者のクワンダも一言付け加えます。
「だいじょぶでちよ、シャルロッテちゃんはびしょうぢょでちゅから!」
ホントに大丈夫なんでしょうか。
「装備の方は、エルフの里で魔法の武具を見繕うとして。ポルトガで大きな船を発注したら、完成まで当座の船はノアニールの船大工さんに、今までと同じ型のバイキング船を依頼できるかしら?」
マリカが一同に提案します。持ち運べるバイキング船の利便性や、大型船の完成までには時間がかかることを考慮してのことです。中古の船を買う選択肢もありますが、適した船が見つかるかは未知数。
「とりあえず、ノアニールの人たちを起こしに行きまちゅか」
※ ※ ※
シャルロッテは目覚めの粉を手のひらにのせた。
なんと村人が目覚め始めた!
エルフの女王からもらった、目覚めの粉の効果は抜群。今まで何をしても起きなかった住人たちが、あくびをしたり背伸びをしたりしながら動き始めます。街全体が眠りから目覚めました。
「コレって量産できるなら、ザメハ代わりの道具として売れそうでちね」
シャルロッテが、そんな感想を口にしていると。いきなり街外れの方から、若い娘の素っ頓狂な叫び声が聞こえてきます。
「はわっ!?ジパングのぉ、おしゃけぇ〜!!」
いったい、何があったのでしょうか。
「あっちは、酒蔵『ヘイズルーン』のある方だぞ」
「寝てる間に、パンやチーズがネズミにかじられてたり。畑が草ぼうぼうになってるんだが…エルルちゃんとこも何かあったのか」
そもそも、ジパングとはどこのことでしょう。興味を覚えた一行は、酒蔵を訪ねてみることにしました。