FF3女子旅【6】光の少年少女たち
「聞こえておるかの? おぬしらは選ばれた…」
クリスタルから聞こえる、謎の老婆の声。4人の少女は静かに、その声に耳を澄ませます。
「おぬしらの世界とはそっくりじゃが、別の世界において。クリスタルより啓示を受け、世界を救った4人の少年に…」
少女たちの脳裏に、異世界の光景が流れ込んできます。今いるクリスタルの祭壇とまったく同じ部屋で、同じように不思議な声を聞いた少年たちは…光の戦士として旅立ち、やがて浮遊大陸を飛び出して海に沈んだ大陸を浮上させ。水晶の塔で魔王を打ち倒して世界を救いました。
「そちらの世界を救う新たな光の戦士として、おぬしらは選ばれたのじゃ」
海に沈んだ大陸。その言葉が、アリサの失われた記憶を刺激します。
「そうじゃ! わらわは何者かの手で…ここへ逃がされた!?」
エルルちゃんのほうは、まったくわけが分からない様子です。
「わたしぃたちがぁ、ヒカリモノの戦士さぁんですかぁ?」
「もしかして、手からビーム! みたいな?」
マリス船長、それは光の巨人です。
「召喚獣たちは、異世界から呼び出されると聞きますの」
「人の住む世界もまた、無数に存在するのじゃ」
チョコボだけしか喚べないとはいえ。召喚魔法の心得があるユッフィー姫はかろうじて、パラレルワールドの概念を理解したようです。
そう、FF3女子旅の世界とは、ファミコン版FF3の並行世界にして後日談でもあったのです…!
「オレたちが、クリスタルの声をやるなんてな」
「あのときの声も、別世界の光の戦士からのメッセージだったのかな?」
「別にカッコつけんでもええ。おぬしらの言葉で伝えればよかろう」
クリスタルから聞こえる声は、明らかに年の近い少年のもの。彼らを母親のように見守る老婆の声に、エルルちゃんとユッフィー姫も自然となごやかな空気になります。
「なんだか、かわいいですの」
「こっちはぁ、いつでもオッケーですよぉ!」
マリス船長とアリサ様も、話の続きを楽しみに待っています。
「ボクたちがヒーローなんだよね? カッコいい!」
「もしや、わらわはこの日のために…?」
場が静まります。少々たどたどしい感じもしますが、少年のひとりが静かに語り始めました。
「オレたちの世界で起こった、光と闇のバランスの乱れ。それは同じようなクリスタルのある世界すべてを襲っていたんだ」
「自分たちの世界だけ平和になって、ハッピーエンドじゃなかったんだ」
FF3のパラレルワールドは、遊ぶ人の数だけ存在しますね。
「世界がメチャクチャになる前に、4つのクリスタルからチカラを」
「希望という名の光を、受け取ってほしいんだ」
先日、村を襲った大地震。クリスタルの祭壇は地中深く沈み、魔物たちが地の底から湧き出しました。あれこそ、世界破滅の前兆。
「光を受け取ったら、クリスタルから勇者たちのチカラを取り出せるよ!」
「たまねぎ剣士だけじゃなく、いろんなジョブになれるんだ」
「少し、説明しておこうかの」
ジョブのことについて、老婆の声が語ります。
「おぬしらは『自分自身のチカラ』と『クリスタルのチカラ』を同時に扱えるようじゃな。心強いことじゃ」
「え〜、それってズルくない?」
少年のひとりがあげた声に、少女たちも思わず吹き出します。原作では、一度にひとつのジョブにしかなれませんでしたね。最初からFF5っぽい。
「クリスタルから借り受けたジョブのチカラは、その扱いに熟練するうち、おぬしら自身のチカラへと変わっていくことじゃろう」
4人とも、すでに個性的な能力を身につけていますね。これからどんな風に成長していくのでしょうか?
「オレたちだけじゃ、とても全部の世界は救えない。だから頼みたいんだ」
「キミたちの世界を、どうか消さないで」
「クリスタルの加護を得たら、うしろの魔法陣から外に出られるよ」
「さあ旅立って! 新たな光の戦士たち!!」
4人の少女たちが、まるで変身ヒロインのように光に包まれます。ということは、少年たちが見てる前で裸に…!?
光の中に、少年たちの姿が見えます! 彼らも素っ裸。
どうやらクリスタルを通して、投影された精神体のようです。
「こんなカッコでわりい! そっちのことはまかせた」
「エルルちゃんたちにぃ、おまかせですぅ!」
4人の少女たちは光の中で、異世界の少年たちと心を通わせます。エルルちゃんは元気いっぱいに、少年たちの頼みを引き受けます。
「そっちの世界のサラ姫か! 旅に出るなんて、もっとおてんばだな」
「わたくしはユッフィー。あなたの世界にも、違う私がいるのですね」
もうひとりの自分。状況から察して、光の戦士に選ばれず少年たちの帰りを待つのはさぞや悔しかったろうと、ユッフィー姫が微笑みました。
「ごめん、クリスタルを通して水浴びとか見ちゃってた」
「いいっていいって! ボクはマリス。キミって正直だね」
祭壇の洞窟内での冒険は、少年たちにのぞかれてたようですが。ボーイッシュなマリスは、友達が増えたような楽しさを感じていました。
「もしそっちの世界にも、水の巫女エリアがいるなら。彼女がクラーケンの呪いで命を落とさないように、守ってほしいんだ」
「このアリサ、心に留めておこう。おぬしらの想い人だったのじゃな?」
おそらくは、世界を救う旅の途中で犠牲となった薄幸のヒロイン。せめて別の世界では生きてほしい…その切ない想いを、アリサは優しく抱きとめ。その名を忘れまいと、胸に深く刻みました。
「さあ、闇を振り払い、ふたたびこの世界に光を取り戻すのじゃ…」
少年たちと老婆の声が、遠くなっていきます。そして光は、4人の少女の胸へ吸い込まれて。
「なんだかぁ、チカラが湧いてきましたぁ!」
「これが、クリスタルに記憶された勇者のチカラ…!」
「冒険の始まりだぁ!」
「長い旅になりそうじゃな…」
まさかの原作クロスオーバーでした。4人娘の世界を救う旅が、いよいよ幕を開けます!