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商人のDQ3【54】ドリームタイム

 オーストラリアの先住民、アボリジニの世界観には。現実と夢、過去と未来の区別が無いと言われます。それらをまとめた独特の思想を、ドリームタイムと呼びます。「君の名は。」にも少しそれっぽいところがあったかも。

 豊作を願い、夢の中で夜の合戦に臨むベナンダンティの世界観にも通じるところがありますね。現実と夢はつながっている。

「もう気付いておると思うが、夢渡りには二種類あるぞい」

 今回はアッシュ少年を探しに行くのと、テドン近辺でのオーブ探し両方のルートで夢渡りが重要なため、ベナンダンティの中でも経験を積んだアミダおばばが改めて授業をします。

「エルルがジパングに渡って『おエル』の姿になったり、俺がジパングからテドンやロマリアに渡る以外にも、何かあるのか?」

 エルルの独特な教え方の成果か、最近になって不安定ながら意識的な夢渡りをできるようになったヤスケが興味ありげな顔で、おばばに訪ねます。

「そぉそぉ、おじいちゃんでもぉピチピチギャルになれますよぉ♪」

 それ、ダーマ神殿の名物じいさんに教えてあげたらどうでしょう。精神体の状態でイメージを練るアバター変身なら、性別も種族も越えられますね。

「こういう風にのう、ホッホッホ」

 おばばもノリがいいのか、先日見せた「魔法おねえさん」の若返った姿をエルルやヤスケの前で披露します。これにはふたりともびっくり。

「すごいですぅ!」
「おエル以上だな、これは」

 これはこれで楽しいが、まずは遠隔地への夢渡りが最優先じゃと。おばばが元の姿に戻って話を続けます。

「第一の夢渡りは、ルーラにも似ておる。目的地をイメージする感覚は同じじゃからの、ルーラのできる魔法使いなら難しくはない」
「寝ながら精神だけのルーラ、実は毎晩みんな無意識にやってるの。意識してないと、どこに飛ぶか分からないけどね」

 魔法使いの素質があるマリカは、一行の中で最初から「ルーラ型夢渡り」を覚えていました。それをシャルロッテたちに教えて、一行の行動範囲は大きく広がっています。領地経営と冒険者稼業を両立できるくらいに。

「エルルはエルフの呪いで寝てる間、無意識のランダムな夢渡りでジパングまでたどり着いて。そこから長い間おエルとして過ごして、ルーラの行き先に選べるくらいイメージが定着したってことか」
「極めて、まれな例じゃろうな」

 ヤスケが、今までにエルルから聞いた身の上話と。おばばやマリカの説明を頭の中で整理して、謎が解けたとうなずいています。エルル自身もよく分かっていなかった模様。

「そういや、バハラタで捕まったあと。シャルロッテちゃんの故郷の夢を見たと思ったら、オリビア岬の夢の中でマリカしゃんに会いまちたね」
「あれは、単純なルーラ型の夢渡りじゃないわね。夢から夢へ渡り歩く?」

 今度は、シャルロッテとマリカが顔を見合わせます。

ダイブ型夢渡り、とでも呼べるかのう。まさしく胡蝶の夢の如く、誰かの見ている夢に入り込む。対象の場所に強く染み込んだ、思念や記憶の場合もあるぞ。今回、アッシュの行方を追うのはこれじゃ」

「夢の中にダイブすると、常識はずれなことが起こるでち。危ないでちよ」

 自分の涙で街が水没して溺れかけたと、シャルロッテが大変そうな表情で一同に話せば。

「それならぁ、夢の中で酒池肉林とかもできますねぇ♪」

 ジパングにいる間に覚えたのか、エルルが突拍子もないことを言って一同を笑わせました。どんだけお酒好きなんですか。

「シャルロッテの言う通り、他人の夢に潜るのは危険を伴う。ましてやメアルーラで悪夢の彼方へ飛ばされた者を追うのじゃからな」
「あたし、それでも行くわよ」

 今もベッドで目覚めないアッシュ少年を見つめながら、マリカがハッキリ断言します。

(恋する乙女は強し、じゃな)

 今まで親友同然だった少年と、こんな形で急に引き離されて。マリカの胸にアッシュ少年への想いが募っていることは、おばばだけでなくシャルロッテやエルルにもバレバレです。ふたりとも好物はコイバナですから。

「アッシュしゃんは、勇者アッシュはみんなの希望でちから!」

 ここでマリカをからかってもしょうがないので、シャルロッテが表現を変えて決意を口にします。かわいい弟分だったけど、勇者として遠いところに行ってしまうのかなと…一抹の寂しさも感じながら。

(さすがに、リーダーの自覚が出てきたか。それでこそだ)

 シャルロッテの成長ぶりは、お目付役のクワンダも認めるところです。

※ ※ ※

 夜になり、シャルロッテたちはアッシュ少年の心を探す夢渡りに入りました。夢の中でランシールの大神殿に来たかと思えば、入り口で神殿の柱に寄りかかっていたのは怪傑カンダタ。

「やあ。待っていたよ」
「ここが、アッシュの見ている夢なのか?」

 クワンダが問えば、怪傑カンダタは難しい顔をします。

「どちらかと言えば、私とアッシュくんが共有する記憶を追体験している。そう説明した方が、適切だろう」

 怪傑カンダタが指差す先には、神官の前に立つアッシュ少年の姿が。

神父「良く来たアッシュよ! ここは勇気を試される神殿じゃ。
たとえ一人でも戦う勇気がお前にあるか?

「もちろん。今日こそブルーオーブを持って帰りますよ」

「では私について参れ!

 神官の案内で、アッシュ少年は神殿の奥に進みます。

「アッシュ、もう立派な勇者よね」
「そうでちね!」

 アバター体で、自分の足で立って歩く少年。もう、バラモスの呪いなど解けてしまったかのような姿に。マリカの胸は高鳴りました。

では行け! アッシュよ!

 神殿の裏口から、聖地「地球のへそ」へ歩みを進める勇者アッシュ。その様子を守護霊のごとく、誰にも察知されることなく見守る4人。

 クワンダに教えられた通り、周囲を油断なく警戒しながら。安定した様子でアッシュ少年がダンジョンを進んでいきます。これまでにハードな冒険を繰り返してきただけあって、そこらのモンスターなど相手になりません。

「アッシュも、冒険者がさまになってきたな」

 キラーマシンの下半身を改造した「車椅子」に乗っていた頃は、どちらかと言えば発明家のイメージでしたが。今は師匠のクワンダも認める冒険者。

「ここまでは、順調だったのだが」

 怪傑カンダタの言葉から、一同はこの先で何かトラブルがあったことを察します。

引き返せ!

 場面は変わり、長い回廊の壁に並んだ仮面がアッシュ少年に警告を発しています。

引き返した方がいいぞ!

「これも、古代アリアハンの遺産ですね」

 おそらく何らかの試練なのだろうと、注意はしつつもアッシュ少年が恐れず前へ進みます。すると。

「引き返して頂けませんか? さもないと…」

 仮面のひとつが、これまでと違う口調で声をかけてきました。デザインも他と違います。ハーレクインの面。

「あなたは…魔王軍!?」

 アッシュ少年が見ている前で、壁からすり抜けるように人形のような手足の道化が姿を現しました。手にしているのは、ガーデニング用の大きな刈り込みバサミ。仮面のふりをして待ち受けていたのです。

(ここまで来て、オーブを渡すわけには…!)

 不意に、アッシュ少年が駆け出しました。単独行動で魔王軍幹部と戦うなど無謀とばかり、一目散にブルーオーブの入った宝箱へ急ぎます。頭脳派の勇者ならではの機転ですね。


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夢を渡る小説家イーノ
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