商人のDQ3【72】もうひとつの勇者親子
「それは…ガイアのつるぎ!」
エジンベアの勇者アーサーが、キラーマシンの操縦席から信じられないものを目にして動揺しています。剣をかざしているのはクワンダ。
「その剣、どこで父から奪った!」
「ロマリアの東、ほこらの牢獄で彼から託されただけだ!」
冷静さを失ったアーサーに、クワンダが原作通りの回答をしますが。この世界では、事実はだいぶ異なります。
「あんたしゃん、やっぱりサイモンしゃんの息子だったんでちね」
勇者サイモンは死後、魔王軍のヒミコの手で地獄の騎士に姿を変えられ。本人の意思に反して、ネクロマンシーの呪縛に強いられて悪事に手を染めている。そんな残酷な真実を、どうして彼に伝えられましょうか。
※ ※ ※
「エジンベアの勇者アーサーに、ガイアのつるぎを見せてください!」
「サイモン本人から、頼まれたのよ」
グズリーズが夢渡りで、ヴェニスのシャルロッテたちへ助けを求めに飛んだとき。ちょうどアッシュとマリカも、夢渡りでヴェニスへ連絡に来ていました。
「サイモンしゃんに、あったんでちか?」
「ネクロゴンドの洞窟は、魔王軍のお膝元。ダイヤ鉱山の坑道がそことつながってまして」
灯台もと暗し。バラモス城に極めて近い場所でありながら、今までダイヤオーブが魔王軍の手に渡らなかったのには、相応の理由がありました。
「坑道で、宝石が大好物の巨大な魔物ジュエルワームが暴れててね。魔王の精神支配も効かないらしくて、そいつがオーブを食べちゃったの」
「そりは、災難でちたね」
思わず、額に汗を浮かべるシャルロッテ。
「山彦の笛を持たせといて、正解だったな」
何かトラブルが起きても、笛を吹けばオーブの行方を探れます。クワンダもホッと一息ついて。
「僕たちは、サイモンさんと一時的に共闘し。鉱山を荒らすジュエルワームをどうにか討伐することができました」
「魔王軍もかなり被害を受けていたし、何よりサイモンへのヒミコの支配が弱まってたのが大きいわね」
鉱山のボスで巨大なワームと言えば、たぶんこんな感じだったのかも。
「そうか。あいつは元勇者だからな、魔王軍がアッシュの成長を脅威に感じて動き出した隙を上手くついたか。今まで操られた分の借りもあるだろう」
クワンダが、サイモンの内心を察して快哉の声をあげます。
すでに死んだ身だからか、外部からの攻撃が効きにくいジュエルワームに対しサイモンは、相手の口の中に飛び込んで6本の剣で激しく斬りつける命知らずな戦法で、獅子奮迅の活躍を見せたとアッシュが語ります。
「でも、アッシュまでジュエルワームの腹ん中に飛び込んで暴れ出したときには心配したわよ」
「あの場合、刃の鎧の特徴を活かしつつ敵に有効打を与えられる合理的選択でしたから」
マリカやおばばはシバルタ系呪文でワームを拘束し、エルルは背中の光る蝶の羽を宝石と間違われて追い回され、結果的にオトリとして貢献。そしてヤスケは、エルルをしっかり守りました。それぞれがチカラを合わせたからこそ、なし得た戦果。
「私が協力できるのはここまでだ。最後にひとつ、恥を忍んで頼みがある」
「助けてくれたお礼です。喜んで聞きますよ」
ジュエルワームの体内からダイヤオーブを奪還したアッシュたちに、地獄の騎士サイモンはこれまでの人生を語ります。
「国家勇者はしょせん、大国の都合で利用され捨てられるコマだ。結局私もその運命をたどった。息子には、同じ道を歩んでほしくない」
サマンオサの勇者として、民を従わせる道具として利用された末。都合が悪くなればピサロに捕らえられ、ほこらの牢獄で朽ち果てたサイモン。
「もし息子が、難民として逃れた先で不本意な生き方を強いられていたら。そのときはガイアのつるぎを見せて、己の心に従って生きてほしいと伝えてくれまいか」
「必ず、お伝えします」
※ ※ ※
ここで、場面は冒頭につながります。クワンダがガイアのつるぎを降ろすと、シャルロッテがそっと刀身に手を触れます。その小さな手からあふれるのは、心を暖めるオーロラのゆらめき。
「我が息子よ…最後の願いだ。心に従え」
アウロラの神官として成長したシャルロッテが、女神から授かった新たな奇跡。それは持ち主に縁の深いアイテムを通じて、本人からのメッセージを相手に届けるチカラでした。この場合は、サイモンの形見ガイアのつるぎ。
ダイの大冒険で、ヒュンケルに養父バルトスの声を届けた「魂の貝殻」に相当する役割のスキルです。
「参ったね、これは」
キラーマシンの白いボディから、アーサーの困ったような声が聞こえてきました。
「分かったよ、私はヴィンランドに投降する。その代わり、人質になってる母を助け出して、私と一緒に亡命させてもらえないか?」
頭部のコクピットハッチを開けて、シャルロッテたちに素顔を見せたエジンベアの勇者アーサーは。想像通り、挫折と苦難に満ちた人生を生きてきた者の優しさに満ちていました。
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