商人のDQ3【8】カンダタはワイン泥棒?
「あり?夜の戦いに行くんじゃ、ないんでちか!?」
フリウリ村には旅人向けの宿が無いため、村の少女マリカの厚意で民家に泊めてもらったシャルロッテとクワンダ。マリカの母親に素朴な郷土料理の「フリコ」でもてなしてもらった後、マリカの部屋に案内されました。
民家なのでシャルロッテはマリカと同じベッドで添い寝、クワンダは窓の外に見える納屋でいつも持参している寝袋に包まります。けれど、これから戦いに出かけるという雰囲気ではありません。
「ベナンダンティは、夢の中で悪い魔女と戦うのよ」
マリカが言うには、ベナンダンティの男女は夜眠っている間、精神が身体から抜け出して「アバター体」となり。夢の中で家畜や野菜の使い魔を従えて、魔女に対抗するチカラを得るのだという。
「夢の中でやられたら、どうなるでちか?」
「悪い夢からさめた扱いになって、特に怪我を負ったりはしないわ」
「それは凄いな」
普段冷静なクワンダも珍しく、驚きの表情を見せます。いわゆる夢オチ。多少寝不足になったりする者も出るらしいが、冒険者がモンスターに倒された場合の末路を考えれば、何とものんきなものです。
こうして一同は眠りにつき、マリカの不思議なチカラで夢の中へ。
※ ※ ※
「ハッハッハッ!私は盗賊カンダタ。冒険者諸君のチカラ、ここで試させてもらおうッ!!」
お前絶対違うだろ? な! な!というくらい、違和感丸出しのマッチョメンが魔女たちに混じってあらわれた。どうやら向こうも「アバター体」であるらしい。緑の覆面とマント姿に、ブーメランパンツ一丁なのは原作と同じだ。
「先祖を侮辱されたような気がしなくもないが…油断は大敵か」
夢の中の戦場で、クワンダが注意深く槍を構える。彼は誇り高き戦士一族の出身で、クワンダという名も伝説の勇者にあやかっているらしい。決してカンダタ、クワンダタ、クワンダ…のような「なまり」ではない。
「いけっ、フェンネルちゃん!」
村娘マリカは、家畜の豚にまたがりながらウイキョウの妖精たちに指示を出している。
「昼間、畑で世話した野菜たちがね。夜の戦いにチカラを貸してくれるの」
どことなく、引っこ抜かれた相手を主人と見なして付いていくマンドラゴラめいた謎植物たちが。わちゃわちゃ騒ぎながら魔女たちへ一斉に突っ込んでいった。
ある者は魔女の放ったベギラマに焼かれたり、なぜか持ってるモロコシの茎でしばかれたり、あるいは踊り食いで食べられたりするも。負けずに根性で頭突きをかましたり、フェンネルの種を飛ばして魔女にぶつけたりして必死に戦っている。
そして、アリアハンを脱出したばかりのシャルロッテにも容赦無く飛んでくるベギラマの熱線。なおこの世界におけるギラ系呪文は火炎でも電撃でもなく「閃熱」の字面から、スターウォーズのブラスターみたいな熱線攻撃として扱ってます。マジンガーZのブレストファイヤーだって、ギラ系攻撃。
「アウロラしゃま!」
シャルロッテが、仕える女神に加護を願うと。まるで光の剣が熱線を弾くようにベギラマが弾かれた。少女神官の全身からは、オーロラのように揺らめく緑の光があふれ出している。反射されたベギラマの直撃を受けた魔女がたまらず地面に墜落して、空飛ぶほうきに乗り直して逃げていく。
「なかなかやるじゃない、シャルロッテも」
「マリカしゃん、これはオーロラヴェール。アウロラ神官のとくぎでちよ」
気がつけば、一対一で激しいバトルを展開していたクワンダ対カンダタの戦いも引き分けに終わっていた。
「ハッハッハッ!まさか冒険者にこれほどの手練れがいようとは。今夜は、ここまでとしようッ!!」
またしても、ヒーローのごとくさわやかに去っていくカンダタ。戦いは、見事ベナンダンティたちの勝利だ。一方、クワンダの表情は浮かなかった。
「あの強さ…そこらの盗賊風情のものではなかったぞ。まるで国家勇者か」
謎を残し、フリウリ村の夜が明けてゆきます。
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