
商人のDQ3【56】遊牧民とポカパマズさん
夢の中で目覚めたら、どこまでも広がる青空と大草原のど真ん中でした。アッシュ少年が、夏の日差しのまぶしさに手でひさしをつくります。
「どこだろう、ここ…?」
少年の手には、しっかりとブルーオーブの感触。
「よかった、ちゃんとありました」
だいじなものをなくさないよう、きちんと背負い袋にしまいます。
しばらく、あてもなく大草原を歩いていくと。遠くに変わった形のテントが見えました。冒険者が野営に使うものより、かなり大きいです。
「ここは、ムオル族のテント村。最果ての地の遊牧民です」
あれ? この世界では、ムオルはどうやら現実世界のモンゴルに相当する場所のようです。しかも遊牧民のテントが集まった村なので、移動します。たぶんこんな感じ。ドラクエ7にも遊牧民のテント村がありましたね。
ドラクエ3の世界地図で言うと、こっちはムオル近辺と世界樹のある森林地帯が陸続きになっていて、なおかつ南半分は大草原になっている模様。
森林地帯の奥には、飛び抜けて巨大な天にも届きそうな大樹が見えます。世界樹です。
「あのピエロ人形の唱えた呪文、悪夢に関するものだったはずです」
なのになぜ、こんなのどかな場所へ飛ばされたのか。アッシュ少年が首をかしげます。
「とにかく、村を散歩してみましょうか」
そう思った、矢先のことでした。
いよう! ポカパマズ! ポカパマズじゃないか!
いきなり、村人に声をかけられるアッシュ少年。しかも、古くからの知り合いであるような口調で。
「僕の名前は、アッシュですが…?」
え? 違う? でも似てるなあ……。
不思議に思いながらも、少年が散歩を続けていると。今度は、たくさんのテントが立ち並ぶバザーの前を通りかかりました。
「ムオルのバザーに、ようこそ。あんたも世界樹に挑む冒険者かい?」
「世界樹って、ダンジョンか何かなんですか?」
いかにも冒険者風な身なりの…実際そうですが。遠くに見える大樹が冒険者の関心を引くようなものだとは、初耳です。
「世界樹の頂上には、すごいお宝があるってウワサでね。それで冒険者が、バザーで装備や必要なものをそろえていくんだよ。おかげで商売繁盛!」
ロマリアに無事帰ったら、仲間と改めて探索に来ようか。そんなことに思いを馳せていると。
おお良く来られた、ポカパマズ殿。
これはポカパマズさんいらっしゃい!
え? 違う? でも似ているなあ……。
わーいポカパマズさんだ!
え? 違う? でも似ているなあ……。
またです。あちこちで、謎の「ポカパマズさん」と間違えられるアッシュ少年。謎は深まります。
「ポカパマズさんって、どういう人なんですか?」
逆に、疑問を感じたアッシュ少年が聞き込みを開始しました。自分によく似ている人といえば、まさか。
あなたはもしやアリアハンの御方では?
とあるテントの中で、その答えは見つかりました。
「ええ。僕はアリアハンを旅立って、行方知れずの父を探していました」
やはりそうでしたか。 ポカパマズさまもそこから来たと申しておりました。
「ということは…!」
アッシュ少年が、思わず手に汗を握ります。
確かアリアハンでの名前はオルテガ……。
まだ赤ん坊の息子を残してきたのが心残りだと、そう申しておりました。
「父さん、ここに来てたんだ」
ほっとした様子で、少年が胸を撫で下ろします。道化のメアルーラとやらで、ここに飛ばされた理由はいまだ不明ですが。
ぼくポポタ。
お兄ちゃんポカパマズさんに似ているから、これあげるよ!
話を聞いていたのか、小さな男の子がアッシュの前に走ってきて。何か、変わった形の兜を差し出しました。
「それはね、行き倒れになってたポカパマズさんが助けてもらったお礼にと預けていったものだよ」
「なんでも、オリハルコンなるとても珍しい金属でできてるらしくてね」
オリハルコンの武具! アッシュ少年に、衝撃が走りました。ちなみに、オルテガの兜が初登場したリメイク版ドラクエ3では、材質にまでは触れていません。
「オリハルコンって、確か加工がすごく難しいはずです」
いざないの遺跡を抜けるとき、シャルロッテが壁からひっぺがそうとしてクワンダに止められた、あの金属です。アッシュもその話は聞いてました。
もしシャルロッテが持ち帰りに成功したとしても、並の職人では装備品の素材にできなかったでしょう。せいぜい、そのまま鎧の下に忍ばせる程度。火縄銃の弾くらいは簡単に防ぎそう。
「これを、僕が使っていいんですか?」
大変な貴重品を、なぜ僕のためにと。アッシュ少年がポポタに問います。
「お兄ちゃん、ポカパマズさんのホントの子供なんでしょ? なら僕には、お兄ちゃんがホントのお兄ちゃんみたいなものだよ!」
ちょ、ポポタくん! その言い方は誤解を招くッ!!
この男の子は、もしかしてアッシュ少年の異母弟!?
余談ですがSaGa2秘宝伝説の主人公と父親の関係は、ドラクエ3の勇者とオルテガのそれを強く連想させます。リンは、ガーディアンの大佐である父が出先で娘のように可愛がってた女の子。一時は主人公の異母妹かと思われましたが…?
「ポポタはいたずらっこ。でも、村で療養中のポカパマズさんはね、まるで息子のようにポポタを可愛がってくれたのよ」
「そういうことだったんですね…ははは」
アッシュくんも、思わず額から冷や汗。父オルテガが旅先で不倫してて、子供まで作ってたなんてお母さんに言えませんものね。もしこれが、道化のメアルーラによる悪夢なのだとしたら。そんな考えまで、浮かんでしまっていたようです。
「ポポタくん、ありがとう。僕もきみのことを、弟と思うことにするよ」
「わ〜い!」
オルテガの兜をかぶせてくれたポポタを、アッシュ少年が抱き上げます。相変わらず五体満足なアバター体のままなので、それこそひょいと。
まわりの誰もが笑顔になるような、微笑ましい光景でした。ですが。
「勇者アッシュ、こんなところにいましたか」
突然空が暗くなって、道化の恐ろしい声がムオルの村人たちを震え上がらせました。よりにもよって、こんなときに…!
いいなと思ったら応援しよう!
