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商人のDQ3【26】エルルの酒

「わたしぃはぁ、いままで夢の中でぇお酒をつくっていたんですぅ」

 冒険者たちの突然の訪問に、酒蔵「ヘイズルーン」の後継ぎ娘エルルは笑顔で応じて。彼女を含めたノアニールの住人がエルフの呪いで眠っていた間の話をしてくれました。

エルルーン・レギンレイヴ_100

以前moricさんに描いて頂いた、エルルちゃんのアイコンです。

「もしかして、寝てる間ジパングって異国にいたんでちか?」
「そぉなんですぅ!」

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シャルロッテちゃんのアイコン。
現在、個人が「うちの子」を使って無料で書いてるので問題ないでしょう。
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『第六猟兵』(C)イーノ/めいさ/トミーウォーカー

 この子は、どうして夢のことを知ってるのか。なぜ夢だからと、笑わないのか。不思議に思いながらも、エルルは話を続けます。

「夢の中ではぁ、わたしぃは黒髪に茶色い瞳の女の子でぇ。向こうでも酒屋の娘だったんですぅ。ジパングではぁ、お米を使った独特のお酒づくりが盛んでしたぁ」
「こっちで米料理って言ったら、リゾットとかパエリアよね」

 マリカが興味深そうに、エルルの話す異国の文化に耳を傾けています。

「ワインやエールとも違う、米のお酒。こっちに持って来れたら、同じ重さの黄金と等しい価値がある『くろこしょう』並みの高値になりそうでちね」

 シャルロッテがさっそく、商人らしくジパングの酒に注目します。

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以前りーた・伊賀さんに描いて頂いた、クワンダのアイコンです。
カンダタじゃないよ!

「ポルトガ、スパニア、エジンベアの各国が外洋航海船を建造する理由は。海外に植民地をつくり、そこから人や資源を搾取するためだと聞いている」
「あなたはぁ、エジンベアの北にあるハイランドの出身ですよねぇ?」

 未知なる世界に想いを馳せるのは、冒険者として胸躍ることだが。その影には奴隷貿易の闇もあると、クワンダが語れば。彼の特徴的なキルトの起源を知っているらしいエルルが、興味を示してきました。

「わたしぃ、ハイランダーの方を見るのは初めてですぅ!」
「ハイランドは土地が険しく、古来より傭兵を生業とする者が多い。俺も、そのひとりだ」

 エルルがクワンダの故郷について知っている理由は、趣味で吟遊詩人の真似事をしているからだと話してくれました。ハイランダーは伝説に名高い、勇者の一族でもあります。

「もしかして、アリアハン以外の国家勇者って…」
「魔王討伐を名目に、植民地支配を進めるのが狙いかもしれまちぇん」

 父さんはどう思ってたのだろうと、アッシュ少年が父オルテガのたどった困難な道を想像します。

「わたしぃはぁ、長い間戦乱の続いたジパングが『ジパング大公国』として平和にまとまることを願いながらぁ、お仕事を頑張ってきたんですけどぉ」

 ちょうど、できたお酒の試飲をする直前に目が覚めてしまったと残念そうにエルルは語ります。

「あぅ、ごめんなちゃい」
「シャルロッテさぁんはぁ、面白い子ですねぇ♪」

 もう少し待ってから目覚めの粉を使えば良かったかと、シャルロッテがそんなことを考えているとは知らず。エルルは屈託の無い笑顔を一同に向けてくれました。

「エルル、実はね。あなたが夢だと思っていた出来事は夢じゃないかもしれないの」
「ほぇ?」

 マリカから唐突に、ベナンダンティの「夢渡り」についての話を聞いて。エルルは、きょとんとした表情になります。

「あなた、素質がすごいから。少し訓練すれば、きっとまたジパングでお酒づくりの続きをできると思うの。代わりに、夢の内容をもっと詳しく聞かせてほしいのだけど…いいかしら?」
「ジパングの詳しい情報が分かれば、列強諸国による植民地化を防げるかもでち!」

 なんだかよく分からないけど。要するにジパングが平和になって、好きなお酒づくりを続けられるならと。エルルはマリカの申し出を受けて今夜から夢渡りの練習を始めることにしました。

「その前にぃ、今晩は街のみなさぁんにお酒を振る舞いますぅ!」
「街が十数年ぶりに目覚めた、お祝いですね。僕は未成年ですから、飲めませんけど」

 アッシュ少年が、ノアニールの現状を考察します。街が長い眠りについていた間、住民たちはエルフの不思議なチカラで年を取らずにいましたが。建物や貯蔵してあった食料などはそうもいきません。荒れてしまった街の再建に、人手も必要でしょう。

「まともな食料が街に届くまではぁ、ビールがパン代わりですぅ♪」

 同じ小麦が原料とはいえ、エルルは考えることが前向きです。お酒だけは熟成が進んで美味しくなっているのかも。

 その後、シャルロッテたちは船大工の工房を訪ねますが。

「ダメだ、寝てる間に道具がサビちまった。いったい何年寝てたんだか」

 他にも住民が生活必需品の不足に悩む場面をたびたび、シャルロッテたちは目にします。

「こりは、エルフの里やカルカスの領主しゃまにも相談してみまちゅかね。もちろんロマリアの冒険者しゃんたちにも声をかけて、街の復興を手伝ってもらうでち」

 ジパングへの道のりは遠いけど、自分たちは海を渡って北米大陸を縦断しルビスの建てた塔にまでたどり着いた。ソルフィンたちもきっと、向こうで困難に立ち向かっている。
 そう思うシャルロッテたちの心には今、闇夜を照らすオーロラのような希望が灯っているのでした。


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