FF3女子旅【7】辺境の村ウラナイ
「なにか うってくれるのかい?」
うる 👉うらない
エルルちゃん、ユッフィー姫、マリス船長、アリサ様の四人が、祭壇の洞窟から無事にウラナイ村へ帰ってきました。行き交う村人はもちろん、少女たちに何が起こったのかなど知りません。
原作では「辺境の村ウル」なのですが、変なところで名前が逆ですね。
「お〜い、エルル!」
「ニーナとパパが呼んでたよ」
村へ入るとすぐ、エルルちゃんより少し年下の少年二人が4人を見つけて手を振ってきました。
「ルーネスさぁん! アルクゥさぁん!」
エルルも明るく、手を振り返します。
…おや、あのふたりは?
DS版リメイクのFF3で主人公だった少年たちじゃありませんか。彼らが光の戦士に選ばれるのは、また別のパラレルワールドでのお話。この世界ではただのワルガキとして、普通の幸せいっぱいに育っていきそうです。
たとえ光の戦士じゃなくても、本人の努力次第で冒険者として名をあげることだってできるでしょう。彼らなら。
「ふたりとも、何かありましたの?」
ユッフィー姫が少年たちに声をかけます。エルルとは幼なじみで、お城を抜け出してよく一緒に遊ぶ仲でしたが。ルーネスやアルクゥを含めた4人で森へ探検に出かけることもありました。何しろ、おてんば姫ですから。
FF3女子旅の世界では、本来交わることのないファミコン版とDS版両方の主人公と接点があることになります。FF3限定のクロスオーバー。
こんなこともできる二次創作小説には、家庭料理のような気軽さがありますね。商業作品=外食だけが世界のすべてじゃありません。
「さあな、オレたちもただ探して来いって言われただけで」
「とりあえず、行ってみない?」
マリスの一声で、4人は村の集会所へ向かうことにします。興味を持ったルーネスとアルクゥも付いていこうとしますが。
「お前たちは、向こうへ行ってなさい」
少女4人の面倒を見てくれている、農夫のパパに追い出されてしまいました。名前がパパで、役割もパパさん。エルルは彼から農業を教わりました。
「ちぇ〜、なんだよ。話くらい聞かせてくれたっていいじゃないか」
「やめようよ、ルーネス」
ルーネスはワルガキですから、もちろんこんなことで諦めたりしません。内気なアルクゥが止めるのも聞かず、集会所の窓からのぞこうとします。
(あのふたり、のぞいてるね)
その様子は、集会所の中にいるマリスたち4人にはバレバレでしたが。
(まあ、止めても無駄じゃろ)
このあたりでは珍しい、ウサ耳獣人のアリサも耳を左右別々に動かして。ワルガキたちの会話を聞いていました。そこへ、4人の母親代わりニーナが話をはじめます。母性あふれる彼女は、霊感の強いシスターでもあります。ニーナとパパで、僧侶とパパの二人組…!
「あなたたち。祭壇の洞窟へ行ったようね」
「エルルちゃんたちぃ、光の戦士に選ばれたんですぅ!」
あらら、自分から言っちゃいましたね。これには大人たちもびっくり。
「わたくしたち4人は、祭壇の洞窟の最深部。クリスタルの間で、別世界の光の戦士だという少年たちの声を聞きました」
「ユッフィー姫まで!?」
シスター・ニーナは、とても心配そうな顔をしています。幼い頃に、母を亡くしたユッフィー。村へよく遊びに来る彼女がエルルと親しくなったのを知ったニーナは、よくユッフィーにミネストローネやフリコなどの郷土料理を振る舞い、娘のように面倒を見たものです。おてんば姫は味覚も庶民派。
当初の同行理由がお目付役で、一番冷静なアリサが静かに語ります。
「これは偶然の選択ではない。わらわが浮遊大陸のこの村へ飛ばされてきたことも、少年たちからこの世界での光の戦士に指名されたことも…」
ちょ、アリサ様。それ長老のセリフですよ!?
「記憶喪失の状態で保護されて、半年ほど。ふたりには世話になったのう」
アリサが丁寧に、ニーナとパパに感謝のお辞儀をします。どっちが年長者なんでしょうか。
「ボクも、シドじいさんに話してこなきゃね!」
大地震のせいで、パルメニ山脈の内外をつなぐネルブの谷で崖崩れが起きて。南のカナーンから行商に来ていたシドと養女のマリスがウラナイ村に出入りするようになったのも、おおよそ半年前のことでした。
まず、よそ者同士のマリスとアリサが親しくなり、それからエルルとユッフィーも村に来たふたりの面倒を見るようになって、仲良し4人組ができあがりました。ルーネスやアルクゥは逆に、女子4人の輪に入りにくくなってしまったみたいですが。
「光の戦士だって…!」
「し〜っ! 聞こえちゃうよ」
エルルたち4人は、この世界を救う光の戦士としてクリスタルに選ばれ、旅立たねばならない。そう聞いたら、冒険少年の血が騒ぎますね。
(くそっ! なんでアイツらなんだ!!)
(女の子ばっかりって、ちょっと心配だよね)
話し声に聞き耳を立てる、ルーネスとアルクゥ。こうなったらもう、少年たちに「何もしない」選択肢は存在しませんでした。
「よ〜し、オレたちで先回りして世界を救っちまおうぜ!!」
やっぱり、ワルガキならそう来ますよね。4人の少女の知らないところで、密かにライバル誕生の巻でした。