商人のDQ3【74】ヴィンランド沖の怪
「ヴィンランドに上陸されれば、街への被害は避けられない」
「よって、海上でエジンベア艦隊を迎え撃つでち!」
ヴィンランド側でまともに戦えるごく少数の者を前に、ソルフィンとシャルロッテが作戦の方針を説明しています。
「グランマが援軍に来てくれて、大助かりね」
「これまで、ピサロ率いるスパニアと戦ってきたんだ。なんてことないよ」
7年に1日しか上陸できないマリスたちのために、今回の作戦会議は幽霊船フライング・ダッチマン号の船長室で行われていました。
あたりは濃い霧が立ち込め、マリスを慕う海賊たちの船が周囲を巡回しています。それらに加えシャルロッテたちの外洋船レイフ・エリクソン号と、アーサーの翼を持つキラーマシン。これがヴィンランド側海上戦力の全てでした。
「エジンベア人は、ある意味とても信心深い。魔法と妖精の国だね」
アーサーもまた、会議に参加しています。彼はいまや、ヴィンランド側の期待の星。キラーマシンの整備に関してはエジンベアでも十分な設備に恵まれませんでしたが、シャルロッテとソルフィンの口利きで科学者ルビスから許可をもらい、アミダくじの塔の地下にあった整備ドックを借りることができました。おかげで運動性能や安全性が大きく向上。
「なら、幽霊船を見ただけでも怖がりそうね」
マリスが悪戯っぽい笑みを浮かべて、アーサーに話します。
「ルビスさんと約束した通り、出来る限り大きな犠牲や破壊を伴わずに。濃霧や幽霊船、キラーマシンによる威嚇で相手を追い返したいところですね」
古代アリアハンの遺産を戦争に用いる覚悟を問われ、アーサーは自らの手で機体に隠されたある武装を外していました。自分自身と、戦う相手の命を大事にするために。
「エジンベア艦隊も、対魔王軍の諸国連合艦隊に組み込みたいでち。ホント人間同士で争ってる場合じゃないでちよ」
だいぶ、物語冒頭の人類連合軍の結成に近付いてきましたね。
※ ※ ※
「霧が濃くて、陸地が見渡せません!」
ヴィンランド近海にて。アーサーが帰らないことを不審に思った国王は、威力偵察のための部隊に出動を命じていました。
(アーサーは帰らず、人質に取った母もいつの間にか姿を消した。厳重な監視下に置いていたというのに…!)
哀れ、エジンベア軍。いまだにレムオルや消え去り草対策を確立できていないようです。サマンオサでは問答無用でバレるのにね。
「ん、なんだ?」
甲板上で、不意に転がってきたタルに水兵が首をかしげます。どうにか元の位置に戻すと、今度は船の帆をまとめていたロープが勝手にほどけてしまいます。
「誰だ! いい加減な結び方をしたのは」
航海士が部下を怒鳴りつけますが、今度は大砲が勝手にズドンと火を吹きました。
「敵襲か? 船内に何かいるぞ!」
「どうやら空砲のようです!」
急に、船上があわただしくなります。その後も、船内では謎のトラブルが次々と発生。もしや、ポルターガイスト現象!?
「背筋が寒いな」
「ぎゃあっ! お前うし、うしろ!!」
少女の霊を見たと、水兵がパニックを起こし仲間に取り押さえられます。そこへ、濃霧の中に急に浮かび上がる不気味なシルエット。
「ゆ、幽霊船だあっ!!」
連続して起こる怪奇現象に、とうとうエジンベア海軍の威力偵察部隊は、尻尾を巻いて逃げ帰りました。フライング・ダッチマン号の甲板では、レムオルによる透明化を解除したマリカとおばばが、お腹を抱えて大笑い。
「あっははは! おもしろ〜い!!」
「愉快痛快じゃったな!」
ふたりを見て、マリスや一同もそれぞれに笑います。クワンダを除いて。
「マリカしゃん、ひさびさに悪戯っ子でちたね」
「アッシュ、彼女があんな子で大変そうだね」
「可愛いのは確かです」
シャルロッテにアーサーも打ち解けた様子を見せると、アッシュも穏やかにうなずきました。
「今回は上手くいったが、次は本気で来るだろう」
「次の一手で、戦意を喪失させたいところだな」
クワンダとソルフィンが顔を見合わせます。果たして、可能な限り犠牲を減らしながらもエジンベアに勝利することはできるのでしょうか?