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商人のDQ3【52】天空への道筋

 シャルロッテたちが北米大陸の「アミダくじの塔」で出会った、古代アリアハンの科学者にして、地下世界アレフガルドの創造主ルビスの思念体。彼女が語る、異世界を渡る巨鳥ラーミアの復活に必要な6つのオーブ。魔王軍はなぜか7つあると思っているようですが。

 勇者一行はまだ、ひとつも入手できていません。そこで一同は、オーブ確保のための作戦会議を開いていました。場所はロマリア、領主シャルロッテの執務室。ポルトガから帰って数日、十分に休みをとって旅の疲れも癒えたところです。

「ピラミッドでヒミコに奪われたパープルオーブは、奴の妹を復活させる媒体に使われてしもうた」
「おそらくは、ジパングにあるのだろう。だがあの国は今、外国人が立ち入るだけで即捕まるような状況だ」

 アミダおばばとクワンダが「ジパングルート」について、簡単に触れました。執務室の机には、6つの宝石飾りが付いた山彦の笛が台座に立てかけられています。きらりと光るアメジスト。

「入手難度、至難でちね。とりあえず他のルートから先に行っていいかも」

 シャルロッテがそう判断するのも、無理はないでしょう。大公ヒデヨシの監視をごまかしながら、ヒミコの妹を倒す。それがどれだけ困難なことか。

「逆に、ブルーオーブの入手は目前ですよ」

 アッシュ少年が、今日の会議のために日程を合わせてくれました。普段は夜間に夢渡りでランシールへ飛んで、たったひとりで迷宮を攻略する試練に挑んでいます。

「怪傑カンダタさんみたいに、僕もアバター体の実体化を使いこなせれば。もはや車椅子も不要となり、バラモスのかけた呪いは無意味となります」

 身体が思うように動かせないことで、勇者として旅立つことさえできないでいたアッシュ少年。けれどもマリカやシャルロッテの励ましもあり、頭脳派勇者として存在感を示すようになりました。あとは精神体だけでも自由に実体化できれば、自力でオーブのひとつを持ち帰れる。

「アッシュしゃん、ガンバでち!」
「いつでも、あたしたちが側にいると思ってね」

 両手に花のアッシュ少年。少し照れ臭そうにしながらも、元気いっぱいに笑顔で応じます。

「そして、レッドオーブはモスマンのアルスラン王が持ってまちゅね」

 砂漠の民の象徴とされる、赤い月のオーブ。うわさでは何度か魔王軍のスパイに狙われたようですが、その度に「ダーマスパイ」なる謎のヒーローに阻止されているようです。じごくのつかい、ダーマスパイ。

「レッドオーブ、最後でいいんじゃないかしら?奪われる危険を考えたら」

 マリカの言葉に、一同がうなずきました。モスマンで守ってもらう方が、何かと好都合です。

「あとはダイヤと、琥珀色と、緑色でちゅね」

 シャルロッテが言うなり。執務室に竪琴の音色が響きます。

「ロマリアを襲うぅ〜黒い影ぇ!」
「みんなを守れぇ〜勇者たちぃ!」
「戦え戦え、ぼくらの仲間ぁ〜!」
「おお栄光のロマリアぁ ロマリアぁ~♪」

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『ケルベロスブレイド』(C)イーノ/里麻りも子/トミーウォーカー

 なんだか颯爽とした明るく楽しい歌声に、みんな思わず拍手。一部、クワンダとおキクさんを除いて。どうやら、先日ロマリアが魔王軍に襲われたときの戦いぶりをたたえる歌のようです。

「エルルしゃん!?」
「ノアニールの酒蔵ヘイズルーンのぉ、エルルちゃんですぅ!」

 今のとこ非戦闘キャラだけど、抜群の存在感を放つのんびり娘エルル。いつの間にか、会議にちゃっかり参加してました。

「お嬢様、この方は…?」
「いつもお世話になってる、酒蔵のエルルしゃんでち。夢渡りでジパングに通って、向こうでもヤスケしゃんとお酒づくりに励んでる凄い子でちよ」

 ヤスケと聞いて、おキクさんの表情が変わります。ジパングでは有名人なのでしょう。

「では、彼女…エルル様も、お嬢様の協力者なのですね」
「そのと〜りでち!」

 エルルに夢渡りを教えたマリカが、テンションの高さにやや苦笑いを浮かべますが。

「何か、新しい情報があったの?」
「そおなんですぅ! ダイヤと緑のオーブぅ」

 するといきなり、エルルの隣に背の高い褐色肌のたくましい男性が姿を現します。夢渡りによるアバター体ですが、まだ不安定らしくときどき姿が乱れます。

「あなたがヤスケさん?」
「ああ、そうだ」

 マリカの問いに、ややぶっきらぼうに答えるアフリカ系の青年。以前に、エルルから話を聞いていたのです。

「この前、おエル…エルルに夢渡りを教えてもらって、一緒に故郷のテドンへ飛んでみたんだが」

 ヤスケの言うテドンに心当たりがあるのか、頭の上に電球でも灯ったような顔をするシャルロッテ。

「テドンでちか。バスコダしゃんも確か、ぷれすてしょんのお城を探してたとか言ってまちた。ヨーロッパ人と同じ神様を信じる人たちの国だとか」

「プレステジョアン城、だ」

 すかさず、クワンダがツッコミます。

「今は、バラモス城と呼ばれておるよ」

 そう言うおばばを見て、ヤスケが表情を変えますが。

「おばばはね、あたしたちベナンダンティの同族なの。元魔王軍だったけど今は立派な仲間の一人よ」
「そうか。ワケありってことだな」

 元魔王軍のまほうおばばに、ジパング人のメイド。アミダおばばとおキクさんの姿を見て、ヤスケが静かにうなずきます。どうやらおキクさんの過去についても知っているようですが、話題にしないことを選んだようです。

「…ヤスケ様、お気遣いありがとうございます」
「大したことじゃないさ」

 かつてジパングにいた者と、海の外からジパングにやってきた者。興味をひかれる二人ですが、今はまだその物語を語るときではなくて。

「グリーンオーブは、確かテドンの囚人がどこかに隠したと聞いたよ。隠し場所は彼しか知らない」
「そしてダイヤオーブはぁ、テドンの鉱山にあるって聞きましたぁ!」

 現実世界でも、ちょうどテドンに当たる位置にたくさんのダイヤ鉱山が。原作でのシルバーオーブに相当するオーブです。

「琥珀色の…イエローオーブはね、場所は分かっているけど。とても厄介なところで、魔王軍も簡単に手出しできないと思うわ」

 最後にマリカが、幽霊船について調べている間に得た情報をみんなに話しました。実は全部、だいたいどこにあるかの見当はついていたのです。でもそれぞれに、入手が困難な理由がある。

※ ※ ※

「では、オーブゲット一番乗り…頑張ってきますね!」

 会議が終わって、日が落ちて。アッシュ少年が車椅子の車輪を回して、意気揚々と自分の部屋に戻ります。この後あんなことが起きるなんて、この時点では誰にも予想できませんでした。


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