ノベル発注型PBWの可能性
TRPGになり損ねた、PBMとPBWの黒歴史
テーブルトークRPGにおける良いシナリオ運営とは、何だろうか。
おそらく、以下のような項目が挙げられるのではないだろうか。
・プレイヤーとマスターの間で、やりたいことを事前に相談しておく
・プレイヤーの反応を見ながら、マスターがシナリオの内容を微調整する
・参加キャラ全員に、ワンシーンは活躍の場を用意しておく
ところが、テーブルトーク風のRPGをリモートで楽しめると称しながら、運営の仕組み上これらの配慮が極めて困難で。結果的にプレイヤーにただひたすら、ゲームマスターと運営者への服従だけを強いた暗黒のRPGがあった。
2000年代初頭に絶滅した商業PBMと、その旧弊を引きずる多くのPBW。
MMORPGの無い時代、それを郵便と人の手で実現しようとした、現代の基準から見れば「正気とは思えない」マニアたちの修羅場。私はそこで万年負け組の立場にいた。誇大広告に踊らされて、ただ搾取されていた。
郵便チェスほど明確なルールを持たず、日本語の文章という曖昧な入力装置で、本来対面のコミュニケーションで遊ぶテーブルトークRPGをリモート化しようとすれば、ごく当たり前に誤解やトラブルが山のように発生した。
就職氷河期も真っ青
私が見てきた大半の商業PBM・PBWは、プレイヤーに「サラリーマンの出世競争」をそそのかし、圧倒的な過当競争の中で何を成したか競わせるもの。当然、競争に敗れて脱落する者はあとを絶たない。
キャラクター個人の物語など、無視された。ひとりが全体に何を奉仕するかだけが問われた。品質管理を捨て去った、量をこなすだけの世界。参加者がMMORPG並みの人数ともなれば、個々への配慮などできるはずもない。
現代はガチャによる搾取が大手を振って歩いているけど、その前には別な形の搾取があった。それだけの話だ。
ユーザーとの間に信頼関係を築かず、ただ搾取と隷従を強制するサービスの末路など、いつの時代も変わらない。もちろん良心的な運営も存在したが「好事門を出でず、悪事千里を行く」。
PBWは衰退しました
脱落者の私に残ったのは、世界情勢なんて完全無視。手の届く範囲の交流と交友で季節ごとのイベントを楽しむ、実に平和な一般人・世捨て人プレイ。私だけでなく、PBWのユーザー層はマニアとライトユーザーに二極化していった。多数の新作が乱立しては消えていった。
こうしてPBMは過去のものになり、PBWも「付属サービスだったはずの」イラスト発注が主役の「なりきりSNS」へと、その本質を変化させた。
この黒歴史から目を背け続ける限り、PBWの復興は叶わないだろう。いま、PBWは熱狂を失った冬の時代にいる。コロナ禍でオフ会もできなくなった。
出世争いとは無縁なノベル型PBW「東京怪談」
ところが、こうした不毛な争いとはほぼ無縁な異色のPBWが存在した。
2020年をもってPBW事業をフロンティアワークスに譲渡、イラスト専業に商売替えするクラウドゲートの「東京怪談」だ。2001年に運営を開始し、途中で「SECOND REVOLUTION」と改題・リニューアルしながらも非常に息の長いサービスを続けてきたが、残念ながらFlashのサポート終了に伴い、サービス終了が告知されている。
東京怪談は、ストーリー展開によって参加者を引っ張らない。キャラがどんな生活をし、どんな人生を過ごそうがほぼ自由である。
従って、悪名高き出世競争もない。そもそも怪異は表に出ちゃいけないものなんだから。ゲーム要素のもたらす弊害や害悪とは、まず接点がない。私も東京怪談にキャラを持っていたので、そこはよく分かる。
世紀末の荒野に降り立つアルパカ、百年の計とは?
8月末に正式サービスを開始した、アルパカコネクトのローンチタイトルのひとつ「東京インソムニア」からは、東京怪談の精神的後継作としての空気を濃厚に感じた。ノベル発注型PBWで、シナリオコンテンツなしだからだ。
かなり異色なことに「並行世界の存在を認めている」。従来のPBWはひとつの「歴史」の中で、プレイヤーが何を成したかに焦点を強く当てていた。
なので、歴史上のifはたいてい許されなかったのだ。
いわゆる「歴史的大事件」だけに光を当てた「勝者だけの」極めていびつな歴史観。私たちは多くの歴史小説や映画・ドラマのおかげで、敗者や一般人の視点から見た歴史に触れることができている。
勝ちも負けもなく、その時代を生きた個人の物語が重層的にリンクしているのが本当の歴史だろう。
元気があれば
そしてもうひとつ特筆すべきなのは「100年先もPBWしよう!」という夢を持っていること。この業界に、そんなことを言える元気が残っていたのか。
元気があれば、なんでもできるかも。最初から過大な期待をせず、甥っ子や姪っ子の成長を見守るような距離感でアルパカさんを見守っていきたいと思います。
正直ね、トミーウォーカーさんのときは息子か娘のように干渉しすぎたの。それでダメにしてしまった側面があると思う。反省してます。
最初から完璧な運営なんてない。小さくても「できるようになったこと」をひとつひとつ、楽しんでいきたいですね。