商人のDQ3【13】怪傑カンダタの挑戦状
「ハ〜ッハッハッ!盗賊カンダタがいる限り、この世に悪は栄えない!!」
「きさま、ナニモノだ!?」
どうしてこうなった。それ別人だろ、な!な!
シャルロッテ一行が事前の作戦通り、マリカのレムオルで姿を消して隠密行動でバイキングのアジトへ潜入した頃。玉座の間では予想外の騒動が起きていました。
「ここは盗賊らしく、夢見るルビーはいただいてゆくっ!」
「奴を逃がすな!!」
いつの間にか、お宝を手に入れているカンダタ。団長の号令で、屈強なバイキングたちが覆面の怪傑を取り囲みます。
「我らバイキング戦士団の拠点へ、ひとりで殴り込みをかけるとは…」
「安心しろ、きっちりヴァルハラへ送ってやる!」
勇敢に戦って死んだ者は、戦乙女ヴァリキリーの手で神の世界ヴァルハラへいざなわれ、最終戦争ラグナロクに備える勇者に選ばれる。名誉の戦死を恐れないバイキングたちの信仰です。彼らにとって、戦い以外で死ぬのは不本意なのですから、現代人とは根本的に違う精神性の持ち主でしょう。
「そ〜れ、オノむそう!」
「グワーッ!」
「そんなバカな…!!」
エジンベアにポルトガ。沿岸の国々を恐れさせたはずのバイキングたちがいとも簡単に、コマのごとく回転するカンダタに弾き飛ばされていきます。シャルロッテやマリカがあっけに取られている間に、ソルフィンの母の形見「夢見るルビー」はカンダタに持ち去られてしまいました。クワンダは仕方なく、撤退の合図を出します。
※ ※ ※
「あたしたちが見てる、目の前で!」
「何もできなかったでち…」
グリンラッドを離れた、海の上で。一同が今後について相談しています。マリカは不機嫌そうに頬を膨らませ、シャルロッテは珍しくしょんぼりしながら。ソルフィンの悔しさもよく分かるのでしょう。
「あのカンダタって奴、いったい何者なんだ?」
国家のお墨付きは無くとも、十分に勇者を名乗れる実力者のソルフィンもこれには度肝を抜かれます。
「前にフリウリ村で一度手合わせしたが、各国の国家勇者に匹敵する剛の者だった。正体はいまだに分からんがな」
クワンダが、自分たちの知るカンダタについての情報をソルフィンに説明します。
「諸君らの探し物は、これかな?」
ふと、声がしたかと思うと。バイキング船の船首、ドラゴンの頭上にカンダタが立っているではありませんか。手には夢見るルビーを持って。
「ぎょえ〜っ!?」
「どこから現れた!」
びっくり仰天するシャルロッテに、思わず身構えるクワンダ。
「アバター体ね。持ってるそのルビーは、イメージを練ったフェイクで」
「ご名答、お嬢さん」
神出鬼没の理由を、ベナンダンティのマリカが鋭く言い当てます。
「たぶん、さっきバイキングの拠点で暴れてたのもアバター体。普通は幽霊みたいなもので、同じアバター体になってる人か、心の目が開かれた人じゃないと姿が見えないし。物にも触れないのに、実体化して宝を盗んだ。武芸だけじゃなく、夢渡りの技もかなりの達人ね」
「彼女には、さんざん鍛えられたからね」
謎めいた言葉を口にしながらも、カンダタが余裕の笑みを浮かべます。
「そりで用件は何でちか、カンダタしゃん」
「いわゆるお使いだよ。ただし、壮大なスケールでのね」
気を取り直したシャルロッテが、敵意を見せてない相手なら取引や交渉は可能とばかり、商人らしくカンダタに切り込みます。
「ここグリンラッドから南に船を進めると、広大な大陸がある。東の海岸を南下すれば…ぶどうの豊かに実る地、ヴィンランドだよ」
「…なんだって!?」
憧れに思い描いた土地の名を出され、ソルフィンが動揺します。
「ヴィンランド南西の大河を流れに沿ってさかのぼれば、スー族の村だ」
「ずいぶん、大陸の地理に詳しいでちね」
少なくとも、城塞都市カルカスでは全く耳にしなかった謎の大陸。現実の世界でいう北米大陸です。なぜ、それをカンダタが知っているのか。
「スーの村西部には、高い山脈がそびえる。それを南から回り込めば、古代アリアハン時代の巨大な塔がある。目立つから、すぐ分かるだろう」
「また、アリアハンの遺産か。かつて世界中を支配していたという」
クワンダが、アリアハン脱出の際に通ったいざないの遺跡と。忘れもしないオリハルコンのキラーマシンを思い出します。
「その塔の頂上までたどり着いたとき、君たちを一流の冒険者と認めルビーを返そう。相当の困難があるから装備を整え、己を鍛えながら着実に進むといい」
カンダタは、その言葉を最後に姿を消します。彼は、シャルロッテたちをどこへ導こうというのでしょう。
「どっかで装備をそろえたいでちね。一度カルカスに戻りまちゅか」
「母の形見…必ず取り返すさ」
シャルロッテの提案にうなずきながら、ソルフィンが固く拳を握ります。