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商人のDQ3【67】テドン、夢のあと

 勇者アッシュと仲間たちは、海賊少女マリスの語る「インコの呪われた黄金」にまつわる悲しいエピソードを静かに聞いていました。マリカは自分の出自にも関わる話に涙して、アッシュ少年にギュッと抱きつきながら。

「マリカちゃん、愛されてるね」
「母さん…ラティナは、フリウリ村で平凡だけど幸せに暮らしてるわ」

 マリスの産んだ女の子は、7歳のとき預けられたフリウリ村で元気に育ちやがて年頃になり村の青年と恋をして、マリカが生まれました。

 マリスとピサロの娘ラティナ、そして孫のマリカ。親子三代に渡るドラマに、アッシュも思わず自分と父オルテガの関係を思い起こします。

「マリカさんは、僕に最初の勇気をくれた人。僕もずっと、そばにいたい」

 アッシュとマリカを見ていたエルルは、思わずヤスケに抱きついて。夢渡り中のアバター体を実体化する高度なスキルが、無駄に発揮されてます。

「…エルル?」
「ヤスケさぁん、家族っていいですねぇ!」

 その様子に、マリカも思わず微笑みます。

「さて。ピサロが魔王軍に味方する理由は、呪いの制御が目的じゃろうな」

 血のつながりは無いものの、同じベナンダンティとしてマリカを孫のように思ってきたアミダおばばが、ピサロの思惑を推理します。

「ヒミコのネクロマンシーって、そんなに強力なんだ」

 マリスもまた、ヒミコの率いる幽霊船団と何度も戦ってきました。そもそも幽霊船は怪談から生まれるもので、ネクロマンシーで量産される幽霊船にはロマンも何もありゃしないと、独特の美学を語る海賊少女。

「ネクロマンシーは、死者の想いを歪める。今頃ピサロは、自分を縛る呪いをチカラに変えて魔王にも匹敵する強敵となっていよう」

 そのピサロも、死者を操るヒミコには頭が上がらない。そしてバラモスは先日夢の中で勇者アッシュたちに撃退され、メンツを潰された。となると、見えてくる未来は…

「ヒミコの奴め、バラモスに成り代わり魔王軍の総司令となるやもしれん」
「死者の魂も、もし肉体がないだけで生者のアバター体と変わらないなら」

 おばばの発言から、マリカがふと疑問を感じてつぶやくと。

「それだよそれ! 呪いを解くヒントになるかも。さっすがボクの孫!」

 マリスが表情を明るくして、ポンと手を打ちます。

「夢渡りをはじめとする、夢見の技でネクロマンシーに対抗か。面白い」
「それなら、テドンの亡霊たちも浮かばれるといいな」

 ヤスケが以前、おばばとエルルと三人でテドンへ夢渡りしたときのことを語ります。

「喜望峰に近い鉱山街テドンは、かつてゴールドラッシュならぬダイヤラッシュに沸いた。だがプレステジョアン城を陥落させたバラモスの次の標的となり、住民は全滅。彼らは今も自分の死を信じられず…」

 夜になると、亡霊となって現れる。けれど生者に害なす存在ではないと、ヤスケは説明しました。彼にとっては、故郷の人々。
 余談ですが、現実の地球でテドンのあたりにある国は「ボツワナ」です。

「テドンに行っておいで。ボクは上陸できないけど、海賊のネットワークでピサロの情報を集めておくからさ」

 ここ十数年、マリスたちはスパニアの船を襲って奴隷を解放したり、牢獄の方がマシと呼ばれるほどのブラックな職場から多くの水兵を助けた結果。水兵から海賊に転向した者の間で「海賊王」と呼ばれるまとめ役に収まっていました。本人が上陸できなくても、マリスを母と慕う海賊たちがスパニアの動向を探ってくれる。とんだ「おてんばさん」もいたものです。

「グランマって、そんなにすごい海賊だったの…!?」

 人種差別は皆無で、家柄よりも実力主義で、分け前は格差が少なく。船長もヒラ船員も同じものを食う。何と労災補償までありました。ただし海賊になって3年以上長生きした者は極めてまれだそうです。まさに海の冒険者。世渡りの上手い者は、ある程度稼いだら官憲の追及が及ばないところで隠居でもしたのでしょうか?

 ドラクエ3の原作では、海賊の家にレッドオーブを取りに行くだけでしたが。このあたりはHD2D版リメイクで、もっとシナリオ膨らませてもいいですよね? このお話を書き始めた動機のひとつです。

「この先、ピサロやヒミコと戦うためにも強力な武器が必要ですね」

 アッシュ少年が、刃の欠けたゾンビキラーを見ます。夢の中だったはずなのに、義経にアバター変身したバラモスの一撃で現実の武器まで損傷した。エルフの名工ハティの鍛えた武具ですら、敵の強さに追いつかないなら。
 プレステジョアン城が落城した際、持ち出されて隠された強力な武器防具は、きっと今後の助けになるでしょう。ネクロゴンドの洞窟のアレ。

※ ※ ※

 月明かりの夜。緑に覆われた廃墟を、アッシュたちが歩いています。ここはかつて、鉱山の街テドンがあった場所。

「同郷の者として、墓なり慰霊碑なり建ててやりたいが…」

ようこそ。テドンの村へ!
魔王は北の山奥、ネクロゴンドにいるそうです。
この村が魔王に滅ぼされたじゃと? 冗談もほどほどにせい!

「あの人たちぃ、まだ生きてるつもりですからねぇ」

 苦笑いを浮かべるヤスケの隣を、相方の顔を見上げながら歩くエルル。

「ダイヤラッシュに沸いたテドンが、魔王軍に滅ぼされたのは。場所が地理的に近かっただけじゃなくてな」
「魔王軍の支配下にあったネクロゴンドの洞窟と坑道がつながってしまったからのぅ。あれは当時、魔王軍にいたわしも驚いたわい」

 ヤスケとおばばが、先日の偵察で判明した事実を一同に語ります。それ、ドラクエ4で鉱山街アッテムトが滅びた理由と同じですね。人の欲はときに地下から災いを掘り出してしまうことがあります。ガイアのつるぎも涙目。

「あれは、牢獄でしょうか?」

 アッシュ少年が、廃墟の中に錆びた鉄格子を見つけます。中を見てみるとそこには囚人の白骨と、壁に書かれたメッセージ。時間帯は夜ですが、そこに亡霊の姿はありません。すでに天へ召されたのでしょうか。

返事が無い。ただの屍のようだ。しかし壁に落書きを見つけた。

「生きているうちに私が持っているオーブを誰かに渡したかったのに……。
「生きてるうちにオーブを渡せて良かった……。

 原作では、さいごのかぎで扉を開けてグリーンオーブをもらう場所でしたね。ところが、この世界では様子が違います。壁に描かれていたのは、どこかで見たような気がする大樹の絵

 私の身体は牢獄に囚われながらも、心は自由だった。だから私は、オーブが魔王軍の手に渡らぬよう。あの天高くそびえる大樹の頂にオーブを置いてきた。あれを取りに行けるほどの冒険者なら、必ずや魔王をも…

「ああっと! 世界樹!?」

 驚きのあまり、変な声を出してしまうアッシュ少年。その様子にマリカが隣で、お腹を抱えてくすくす笑っていました。

「そう、世界樹です。ムオルのテント村で見た、大草原の北にそびえる」
「この囚人が、夢渡りであの樹のてっぺんに置いてきたのね」

 アッシュが夢渡りとアバター体の実体化を駆使して、ランシールでの試練を経てブルーオーブを持ち帰ったのと逆の手順で。マリカも、共通の認識に至ってアッシュの言葉に納得します。

「とりあえず、鉱山に隠されたほうのオーブと武具の回収が先決じゃな」
「ここからは、俺たちの出番か」

 アミダおばばに、ヤスケとエルルが一同と顔を見合わせます。勇者一行は周囲を警戒しつつ、廃坑へと歩みを進めていきました。


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