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商人のDQ3【57】アンゴルマの大王

「あ、アンゴルマだ〜っ! 魔王アンゴルマ!!」
「いにしえの征服王が、なぜいま!?」

 夏の日差しから、一転して空は暗雲に覆われ。あたりに雷鳴が轟きます。ムオル族の人たちは、たちまち大パニック。

「みなさん、落ち着いてください!」

 ポポタを抱き上げたまま、アッシュ少年が周囲のあわてる人に声をかけます。その立ち居振る舞いは、腕の中のポポタくんに憧れを抱かせました。

「お兄ちゃん、やっぱりポカパマズさんの子供だね」
「魔王軍の狙いは、僕のはず。僕が出ていけば、みんなは安全だから」

 ポポタを降ろして、周囲の大人に預けると。アッシュ少年はひとりで村の外に出ようとします。

「彼は、紛れもなくアリアハンの勇者オルテガの息子」
「彼こそバガトル(勇者)!」

 単に面影が似てるだけでなく、行動までもが勇者そのもののアッシュに。村人たちも落ち着きを取り戻して、自分にできる限りのことを始めました。

「ランシールで僕たちを襲った道化だな! どこにいる!?」

 暗雲の下で、勇者アッシュのかぶるオルテガの兜は。雷光に照らされひときわ白く輝いて見えました。すでに、村からは距離を置いた場所。

「ここでアナタの相手をするのは、彼ですよ」

 声のする方を見上げると、そこには上空から高みの見物を決め込む道化の姿が。

「彼とは、誰です!」

 アッシュが叫ぶと、それに応じるように。どこからともなく、地の底から響くような声が聞こえてきます。道化は早々に姿を消し、代わって暗雲の中から魔王を思わせる巨大なシルエットが。

「我こそは、アンゴルマの大王。全てをひれ伏させる恐怖の王なり」

 その声を聞いた途端、アッシュを強烈な頭痛と悪寒が襲います。この感覚は、かつて16歳の誕生日にアリアハン城へ謁見に行こうとしたとき感じたもの。少年を絶望の淵に突き落とした、魔王バラモスの呪い…!

「お前は…魔王バラモス!?」
「その名で呼ぶな!」

 アッシュ少年は直感的に、相手がバラモスだと感じていました。それに間違いは無いはずなのですが、当の本人が否定するとは何事でしょう。

「勇者よ。バラモスとは、人間どもが我の真なる名『アンゴルマ』を恐れてつけたあだ名なのだ」

 バラモスさん、あなたは「とても言えないもの」だったんですか。

「アンゴルマ?」
「我はかつてツングスの地に降り立ち、ムオル族を含む遊牧民どもを恐怖で従え、ダーマ神殿を制圧し、遠くジパングやヨーロッパにまで攻め入った」

 恐るべし、モンゴル帝国。植民地主義を掲げる大航海時代の列強諸国など完全に小物に見えてきます。アンゴルモアの大王=モンゴル説。

「大魔王ゾーマは、地上侵攻に際してまず我を復活させた。しかし、アリアハン国王は『アンゴルマ』の名が持つ影響力を封じるため『バラモス』なる偽りの名で、我の存在を人間たちに宣伝したのだ」

 ちょ、アリアハンの王様切れ者ですね! 情報戦略の達人。魔王バラモスとは、人類側がつけた「コードネーム」だった説。

「なるほど。ですが僕は勇者、あなたを恐れてはいられません」

 身体は、あの日のように動きません。アバター体にまでバラモスの呪いが浸透しているかのよう。どうする、勇者アッシュ。

「いかずちを。聖なる雷を呼ぶのです、人間の勇者よ」

 そのとき、どこからか高貴な女性の声が響きました。アッシュ少年も一度だけ、会った覚えがある声の主は。

「エルフの女王様!?」
「アッシュさぁん、ガンバですよぉ!」

 どうやらエルルも一緒のようです。もうアッシュ少年の件で、エルフの女王に相談し協力を取り付けたのでしょうか。ふとしたきっかけで生まれた、ノアニールとエルフの里の交流。

「細かい話は、あとですね」

 思わぬ応援に心の余裕を取り戻した勇者は、空を見上げて人差し指を天にかざします。

「ライデイン…!」

 轟音と閃光を伴って、稲妻がアッシュ少年の身体に落ちます。破邪の雷は勇者の身体を傷つけることなく、その身を縛っていた見えない鎖に亀裂を走らせました。アッシュ少年にかけられた永続デバフの弱体化、とでも言いましょうか。

「バカなッ! 我が呪いを!?」
「僕だけのチカラじゃ、ありませんよ」

 驚くバラモス。一方アッシュ少年は、どこからか彼を元気付ける仲間たちの声を聞き。一歩また一歩と歩きはじめます。

「アッシュ、聞こえるか! 俺たちもすぐに行く!!」
「こちらはユッフィー殿と聖竜ボルクスに加勢してもらった。ルビス殿も、一枚噛んでいてな!」

 クワンダとオルテガです。誰なのか、新たな味方も増えた模様。

「ククク…ハハハ…ここまで我を虚仮にするとは」

 暗雲の中から現れたシルエットが地上に降りて、その姿を大きく変えます。アバター変身でしょうか?
 さすがにこの世界では、バラモスも自分の居城で待ってるだけの存在ではありません。おそらく悪夢のチカラを操る道化の助けを得て、夢渡りで勇者の実力を試しに来たのでしょう。

 やがて現れたのは、ジパングの鎧を身に付け刀を手にした武者の姿。大きさも人間と変わらなくなっています。

「殺してしんぜよう、はらわたをえぐり出してな」

 え〜っ!?
 源平討魔伝めいたセリフを口にする義経=ジンギスカンがこの世界のバラモス???
 ここまでイジられるバラモス様も珍しいのでは。

 刀を構えた武者が、いきなり間合いの外から八艘飛びを思わせる連続ジャンプで距離を詰めてきます。雷電をまとったゾンビキラーを構える勇者。

 戦いのときです!


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