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商人のDQ3【34】マカームの響く地へ

「あれは…モスマン帝国軍!」
「モンスター同士が戦ってるぞ!?」

 ロマリアに援軍を送らせないため。魔王軍は北の城塞都市カルカスにも、同時にアンデッドの軍団を送り込んでいました。堅固な守りを誇るカルカスと、疲れを知らない不死者の戦いは長期戦となりますが。やがて朝日が昇り敵の勢いが衰えたところで。
 西の方から、忘れもしないモスマンの行進曲が聞こえてきて。モンスターたちが魔王軍に突撃。大いに陣形をかき乱して、指揮官のゾンビマスターを討ち取りました。

「すまぬが、我が軍に除霊術の使い手は少ない。そちらでゾンビどもに引導を渡してもらえぬだろうか」

 モスマンの将とおぼしきアームライオンからの呼びかけに、陣頭指揮に当たっていたカルカスの女領主は。これまでと違う相手の態度に驚きます。

「モスマンのアルスラン王とお見受けします。これは一体、どういう風の吹き回しでしょう」
「何、人間もピサロのような外道ばかりでないと知っただけの話よ。我らはこれからシャルロッテ殿に加勢するつもりだ」

 シャルロッテたちの訪問は、モスマンの獅子に大きな影響を与えていました。これまで、直接間接の交流が少なかったせいもあるのでしょう。

「ヒミコという女に気をつけろ。奴は魔王軍の強大なネクロマンサーだ」

 そう言うと、モスマン帝国軍はロマリア方面へ撤退していきます。

「シャルロッテ。またあの子が、何かやらかしたみたいですね」

 年の離れた妹分か、娘を見るような表情で。カルカスの女領主は南の空を眺めます。城下町に響く、勝利の鐘。カルカソンヌの由来です。

※ ※ ※

「あ、ライオンしゃん!」

 ロマリアでゾンビ軍団を押し返しつつあったシャルロッテたちは、敵の後方から勇ましい行進曲が聞こえたのに元気を取り戻します。

「撤退命令だ!イシスへ退くぞ」

 突然挟み撃ちを受け、混乱した魔王軍のゾンビマスターたちはあわてて海岸の幽霊船に乗り込み撤退を始めます。なおゾンビたちは、息をする必要がないのでそのまんま入水して逃げる荒業ぶり。

 そこへ沖合から現れた船が、逃げる魔王軍に砲撃で追い打ちをかけます。どちらも同じ、幽霊船のようですが…?

「…あの船は?」
「もしかして、フライング・ダッチマン号!?」

 ベスビオ火山から戻ってきたマリカとアッシュ少年も、魔王軍の船団と単独で渡り合う謎の幽霊船を目撃します。朝日が完全に昇りきると、その姿は薄れて消えてしまいましたが。

「母さんが昔、幽霊船の話を聞かせてくれたの」

 ロマリアへ帰還するふたりの姿を、朝日の昇る甲板で船長姿の少女が見上げています。

「今の子…もしかしてボクの孫かな?」

 少女の容姿は、どこかマリカにそっくりでした。青い瞳と、豊かな胸元の膨らみを除いては。

※ ※ ※

「アルスラン王、援軍に感謝するでち」
「我らは、ピサロにジブラルタ海峡経由の退路を断たれてな。陸路でアッサラームの都へ撤退中だ。その途中に立ち寄ったまでのこと」

 ロマリアの城壁前に、臨時で張られたモスマンの天幕。今は領主のシャルロッテとアルスラン王が会談中で、状況を確認に来たカルカスからの使者も同席を許されています。
 両者が夢渡りで知り合い、すでに打ち解けていることなど知らぬ末端の冒険者たちは、突然の訪問を新たな敵襲と勘違いした者もいましたが。

「だいじょぶ!ライオンしゃんたちは、悪いモンスターじゃないでちよ」

 シャルロッテの鶴の一声に、ただきょとんとするばかりでした。他国の王たちは彼女ほど素直でなかった…というか、そちらが普通でしょう。むしろシャルロッテの方が、まるで異世界人。この子はいったい、どこの生まれなのでしょうか。エルフの隠れ里と無関係なハーフエルフも、珍しいはず。

「ゾンビ軍団の中に、イシス地方のミイラ男やマミーがいたでち」
「イシスはモスマンの同盟国だが、今ヒミコの軍勢に攻められていてな」

 会談の中、昨夜の戦いで感じた疑問をシャルロッテが打ち明けると。アルスラン王が語ったのは、これまで交流の途絶えていたイシスの意外な現状でした。

「ヒミコの狙いは、おそらくイシスの北にあるピラミッド。そこに眠る大量のミイラやアンデッドを目覚めさせ、戦力に加えるつもりなのだろう」

 墓を荒らす盗掘者とは別の意味で、死者の眠りを妨げる迷惑者ですね。この世界の魔王軍幹部は、旅の扉を積極的に活用するなどただ待ち受けているだけでない者が多いようです。

「だったら、シャルロッテちゃんたちで助けにいきまちゅ」
「おいおい、ロマリアの守りはどうする」

 未知の土地に、冒険者の血が騒ぐシャルロッテですが。城壁は未完成で、今回の襲撃で受けた街の被害も軽視できないとクワンダが釘を刺します。

「それでは、イシスに向かう組とロマリアに残る組を分けましょうか」

 ロマリアの勇者として同席していたアッシュ少年が、一同に部隊分けを提案しました。さあ、これからどうなる。誰がどちらへ?

 旅の目的地は、アラビア音階「マカーム」の響く異教徒の地です。


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