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商人のDQ3【24】ソルフィンとの別れ

ここはエルフの隠れ村よ。あっ、人間と話しちゃママに叱られちゃう。
ひーっ、人間だわ! さらわれてしまうわ!

「エルフの女王に伝えてくれ。王女アンの息子ソルフィンが、夢見るルビーを返しに来たと」

 ノアニールの北、エルフの隠れ里。突然の来訪者にエルフたちは騒然となります。

「あなたたち、エルフなの?」

 ソルフィンとシャルロッテを見たエルフのひとりが、怖さ半分興味半分でふたりの尖った耳に視線を向けています。

「ソルフィンしゃんは、パパが人間で、ママがエルフでちね」
「シャルロッテは、違うのか?」

 そういえば、シャルロッテの両親について詳しく聞いてなかったと。ソルフィンが不思議そうな顔をします。

「シャルロッテちゃんは、パパがイケメンで凄腕なエルフのレンジャーで。ママがびしょうぢょドワーフでち!二人とも冒険者でちたよ」
「それで、同じエルフの血を引いてても背丈が違ったのね」

 長い間の疑問が解けたと、マリカがうなずきます。

「クワンダさんって、シャルロッテさんとはどういうご関係で?」
「いつも世話になってる取引相手の養女、だな」

 アッシュ少年が、普段自分についての話をほとんどしない戦士クワンダに身の上をたずねます。ただの仕事仲間なら、余計な詮索は無用と返されたかもしれませんが。いまやクワンダは、アッシュを勇者の道へ導いた師匠とも呼べる存在です。

その手に持っているのは、夢見るルビーでは…?

 娘に子供が生まれていたこと自体、初耳です。そしてその息子が冒険者と一緒に、ルビーを返しに来た。どうして、娘は来ないのか。それらの真実を自らの目で確かめるべく、エルフの女王はソルフィンたち一行を謁見の間に通します。

「母アンに代わって、夢見るルビーを返しに来た。どうか怒りを鎮め、ノアニールの住民にかけた呪いを解いてほしい」
「なるほど、娘の面影がありますね」

 エルフの女王は、ソルフィンが本当に孫なのかを見定めようと、その顔をじっと見つめます。

「いままで、大変だったんでちよ」

 シャルロッテが、夢見るルビーを取り返すまでの大冒険を語ります。ノアニールで住民が起きない異変の中、ソルフィンと偶然出会ったのを発端に。グリンラッドまで出向いたのに、カンダタに先を越されてルビーを取られたこと。
 さらには西の大陸へ渡り、ヴィンランドでグズリーズと知り合ったりスーの村を襲った異様にしぶといエリミネーターもどきを退治したりしながら、ようやくカンダタの指定した古代の塔へたどり着いたら。
 機械同士でドンパチやってる脇を抜けて塔内に入ったはいいものの、今度は魔王軍での失地挽回を狙うアミダおばばに姿を消して尾行され、勝手に罠を起動されてキラーマシンたちに追われ、危ないところをとっさの機転で切り抜けたこと。

 ドラクエ3の原作だと、ノアニール西の洞窟に行ってルビーを取っておしまいです。攻略上必須でないのは容量の都合で削られたとも言われますが。こちらの世界では、オーブ探しの発端につながる一大イベントに話が膨らみました。HD2D版リメイクでも、これくらいシナリオを膨らませてくれたら面白いですね!

 このお話を読んだ方に本気でお願いしたいのですが、知り合いにスクエニの関係者さんがいらっしゃる方。どうぞ、お金に厳しいDQ3のことを話題に出してあげてください。HD2D版ドラクエ3に何らかの影響を与えたいと、そう願ってドラクエの日の翌日から書いているお話です。

 なお、おばばはエルフたちを怖がらせないために、船の見張りとして里の外で待ってくれています。

「母は、十数年前に病で死んだよ。けれど死ぬ前に、エルフの里にルビーを返してほしいと遺言を残した。形見は幼い頃に奪われてしまっていたけど、ノアニールに来てみたことでシャルロッテたちに出会えたんだ」

おお! 私が二人を許さなかったばっかりに…。
…………………………。

分かりました。さあ、この目覚めの粉を持って村にお戻りなさい。
そして呪いを解きなさい。
アンもきっとそれを願っていることでしょう……。

おお、アン! ママを許しておくれ……。

 ソルフィンからも親子二代に渡る苦難の人生を聞かされて、エルフの女王はとうとう泣き崩れてしまいます。周囲からも、すすり泣きの声が。

「ソルフィン、もしあなたが望めばの話ですが。私の一族として里に住むつもりがあるなら、受け入れるよう善処します」
「償いなら結構です。俺は新大陸に渡って、ヴィンランドに街を作ります。それが、俺の見つけた希望ですから」

 エルフの女王が、ハッと顔を上げます。涙を拭いて、娘の血を分けた孫の前向きな姿に、惜しみない賛辞を贈りました。

「あなたは剣のチカラによらずして、まことの戦士の道を行くのですね」

 女王の言葉に、力強くうなずくと。ソルフィンは、隣に立つシャルロッテの顔を見ます。

「俺がパーティから抜けるとなると、シャルロッテたちが困るだろうから。何か彼女らに便宜を図ってもらえたら、助かります」
「では、エルフの里に伝わる魔法の道具を購入できるよう、道具屋ハティに口利きしておきましょう」
「おおっ、ホントでちか!? ありがとでち!」

 ソルフィンの粋な計らいに、シャルロッテは目を輝かせて喜びます。そのキラキラには、商売上の感謝も含まれているのでしょうけど。

「シャルロッテちゃんはね、ソルフィンしゃんのことをずっと…」

 感極まったシャルロッテが唐突に、愛の告白でもしそうな感じで。その場がしんと静まります。マリカがぴくりと眉を動かしました。内心では、抜け駆けするなとでも思っているのでしょうか。二人ともソルフィンとグズリーズの仲を応援してたのにね。
 夢見るルビーを取り返し、エルフたちに返す。その目的を果たした以上、ソルフィンとはここでお別れです。彼には彼の道があるのですから。

「シャルロッテちゃんはね、ソルフィンしゃんのことをず〜っと、ホントのお兄ちゃんみたいに思ってたでちよ」

「俺も一人っ子だけど、妹がいたらこんな感じなんだろなって」

 多くの冒険を経て、本当の兄妹のように絆を深めたふたりがハグを交わします。シャルロッテのつぶらな瞳からは、喜びとも悲しみともつかない大粒の涙が。

(やれやれ、深入りしすぎるなよ)

 クワンダは、危なっかしいものを見るような表情で。アッシュ少年は麗しい兄妹愛に感動した様子で。マリカは、胸に一抹の寂しさを感じながら。

 グズリーズの待つヴィンランドへ船出するソルフィンを、シャルロッテたちはいつまでも手を振って見送りました。


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夢を渡る小説家イーノ
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