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【羽田空港地上衝突事故 途中経過報告書】悲しい事故から学んだ4つのこと

 投稿時期をかなり逸している記事ですが、あしからず。

 2024年の年初に起きた羽田空港の衝突事故は衝撃的で非常に悲しい事故でした。2025年の年末に途中経過報告書が公開されたので、読みました。
 
 航空事故は第三者が調査に入り、詳細なレポートが一般公開されるというのは、再発防止のために非常に良い仕組みだと思います。航空機事故の確率が非常に低いのは、この優れた仕組みのおかげだと考えます。最近、事故の報道が多いように感じます。ただ、それでも現代において、事故が起きるのは1370万回乗って1回起きるかどうかの確率だそうです。

 他業界の人も、レポートを読むことで事故と失敗防止のために学ぶべきことが多々あるはずです。特に私が勤める製造業、そして医療業界にとっては有用だと考えます。ということで、事故記録から学びを得ましょう。偉そうに言いましたが、こういうレポートを真面目に一から最後まで読んだのは初めてです。リンクは下記です。

https://jtsb.mlit.go.jp/aircraft/rep-acci/keika20241225-JA722A_JA13XJ.pdf


原因究明と責任追及は別ける

 これを読む上でまず頭に入れておくべきことがあります。この報告書は誰かを責めるために作られたものではありません。仕組みやシステムを改善し、このような事故を二度と起こさないために作られています。決して、これを読んで誰かを責任追及してはいけません。原因究明を目的しており、責任追及は別けて考えるべきです(失敗学の考え)。報告書の1ページ目にも強調されている点で、そこは必ず頭に入れたうえで読んで欲しいです。  

事実の時系列化

 読みはじめたら、止まらなかったです。どんなホラー映画よりも怖く、鳥肌が立ってしまいました。事故が起きることを知っている中、事実関係が時系列で羅列されているものを読み進めるのは、中々怖いです。当然ですが、当事者も事故の瞬間まで、そんなことが起こるなんて夢にも思っていないわけで、本当に居た堪れない気持ちになります。
 レポートの書き方が勉強になりました。事故や失敗防止のレポートを書くときには、まずは、事実関係を時系列で収集し、そのまま時系列で文章に起こすこと。最初はなんか分かりづらいなあ、もっと箇条書きとか活用したほうが良いと思いました。でも、事実の時系列が重要なので、事故レポートはこういう書き方がもっとも適切であると理解しました。

事故要因への個人的見解

 私が詳細を述べるまでなく、p.125以降に要因となった項目がまとまっています。忙しい人はここを読むだけでも良いと思います。全てその通りだと思いますし、色んな要素が重なって起きたのだと思います。

コミュニケーションミス

 ここからは私の見解です。ド素人かつ現場を知らない者の個人的見解なので、頓珍漢なことを言っていてもご容赦ください。中尾政之氏の『失敗百選 41の原因から未来の失敗を予測する』によれば、失敗は41の原因に分類できます。その中で、”コミュニケーションミス”という原因の項目があります。私はこの事故も、コミュニケーションミスが当てはまると考えます。主にA機と管制管間のコミュニケーションミスです。
 
 A機に対して、A機が使用する滑走路に先行の着陸機(B機)があることが共有されていないことが一番の問題だと考えます。離陸の優先順位だけでなく、着陸機(B機)の情報も伝える必要があるのではないでしょうか?A機の立場としては、気持ちが早まっていたという背景はあれど、B機が先に着陸するということを知っていれば滑走路に進入することはなかったはずです。
 もちろん、管制管はマニュアル通りの指示をしており、少なくともA機の副操縦士までは復唱もきちんとしています。なので、何が問題なのか?と思われるかもしれません。でも、今回のような、震災対応というイレギュラーな対応をしているときは特に、勘違いというのは起きやすいですし、起こしてしまうのが人間です。"Holding Point C5"で待機というのが非常に重要な指示であれば、その理由も伝えた方が良いと思ってしまいました。
 英語ですし、なるべくコミュニケーションはシンプルな方が良いというとなのかもしれません。でも、重要情報の補足は組み込むようなコミュニケーションマニュアルにできないものでしょうか。

重要情報のやり取りが音声コミュニケーションのみの危うさ

 そもそも、めちゃくちゃ重要な情報のやり取りが音声コミュニケーションのみというのは非常に危うさを感じます。私なんて、口頭だけの依頼/請負をして何度失敗したかわかりません。しかも、母国語以外でのやり取りをするときなんてもってのほかです。なので、依頼内容をなるべく文章や絵として残すように意識はしています。ただ、それは幸い、私の仕事はそこまで即時性が求められていないからできることで、もちろん、管制管と飛行機のやり取りを文章でする余裕なんてありません。では、どうすればいいのでしょうか?

 素人考えでは、車の道路と同様に信号みたいのを置けばいいのではと思ったら、まさに停止線灯というのがあるのですね。ただ、なんとメンテナンス中で機能していなかったとのことです。ほんと、事故というのは、色んなことの複合で起きるものですね。いずれにせよ、この停止線灯の使用は今回のような事故防止には必須だと考えます。

 でも、更に音声に頼らないシステムは他にもあったのです。滑走路の占有状態を色でアラームするシステムです。でも、これも機能していなかったとのことです。機能していなかったのは、物理的にという意味ではありません。システム自体は正常に機能はしているが、人がそれを信用していない状態です。誤検知(問題ないときもアラームが発生する)が多いのが原因だと理解しました。これは本当にあるあるだと思います。
 異常を検知してアラームするシステムというのは本当に難しいと思います。システムを作る側としては、異常を逃すことがあってはならないから保守的に作ります。でも、保守的になりすぎると、実質問題ないときでも、アラームが出て、結局が人が確認しないといけなくて煩わしいだけというのは、私の業界で導入するシステムでも見聞きすることです。これについては、システムの誤検知の改善が必要なことは間違いないでしょう。私はシステム屋さんでもなければ、航空業務にも詳しくないので、改善の具体案を出すことはできないのですが。。


 B機としては、今回の事故は、回避のしようがなかったというのが正直なところだと思います。事故が起きた直後は、着陸する前にA機の存在が見えないものだろうか?と思ったものです。ただ、それは無理難題に近いということが図55-1の画面を見てわかりました。
 
レポートを読んでも、B機の乗客全員が無事だったのは奇跡に近く、本当に紙一重だったことはわかります。奇跡といっても、多く報道されていたように乗務員/乗客の対応が適切だったからだと思います。

自身が学べること

 上述した「失敗学百選」において、失敗ライブラリーの利用心得としては、上位概念に昇り、自分自身が使える特殊回を導くことが重要だと記述しています。この事故レポートから自分自身、今後、失敗回避のための行動をまとめたいと思います。

焦っていることを自覚し、慎重に行動せよ

 めちゃくちゃ普通のことを言ってますね。でも、改めて肝に銘じたいです。重要なのは焦っていることを自覚することだと思います。私の場合は以下のような状況が当てはまります。

  • 現場で緊急の対応をしている

  • 図面の提出期限が迫っている

  • 出発時間が予定よりも遅れてしまったとき

 後者二つは、そもそもそうならないようにしろよという話です。でも、どうしてもそういう時はあります。その時こそ、何か見落としているものはないか?何か忘れているものはないか?ミスを犯していないか?ということを自問自答することにします。

重要情報の見極めと共有

 飛行機の待機場所の指示情報はめちゃくちゃ重要なことがわかります。その情報の取り違えがあれば大惨事に至りうることがわかります。自分の仕事に置き換えた場合、何の情報がそれに当てはまるでしょうか?その見極めと説明をするのが特に経験のある上位者の役目でしょう。
 私の場合は、お客さまへ出す報告者や図面を自分で描いたり、他人に依頼する前に、間違えると、大きな後戻りが発生したり、事故が起きうる項目はなにか?を考えるようにします。自分でわからなければ、上司や有識者に相談します。そして、その結果を絵や文章で伝えるようにします。また、その際、理由も合わせて伝えます。

対応できる仕事量の限界

 依頼内容の結果の確認は依頼者の責任です。今回の事例でいうと、管制管もその責務は果たそうとしています。ただ、監視対象の航空機が多すぎたこともあり、A機の最終確認の優先度が下がり、確認できなかったという風に理解しました。私も、1日にやる仕事の種類が多すぎる場合はミスが増えると思っています。というかそんなにたくさんの種類をやろうとしても結局できないことがほとんどです。1日に計画する仕事の種類は5種類以下に抑えます。そして、図面の最終検図みたいな重要な仕事は、1日に2つが限界だと考えます。

システムとモノは作って終わりではない

 今回の事例で、占有状態をアラームシステムは形骸化していました。モノを作る側の私としての教訓は、担当として納めたものはどういう使われ方をしているのか確認します。いや、モノやシステムなんておおそれたことではなくても、自分の仕事のアウトプットに対して下流側はどういう使い方をするのか?期待した通りの使い方をしてくれているのか?を確認しましょう。一度引き渡したら、もう終わりではありません。
 

 いかがでしょう。この悲しい事故から一人ずつが少しでも仕事や人生に活かすことが、できる最大のことではないでしょうか。そして、私はこのレポートを読んで、毎回飛行機に安全に乗れているのは、プレッシャーが非常に大きい仕事を多くのプロフェショナルがこなしてくれているからだと感じました。飛行機に乗るたびに心の中ですが、感謝したいと思います。

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