琵琶湖と風景の私
先日、友人がロードバイクで琵琶湖周りを走ると最高だというので、琵琶湖の小さいコース一周(約50km)をしてきた。
ちなみに、本気の琵琶湖一周は約210Kmあり素人にはハードルが高い。
通称ビワイチと呼ばれる琵琶湖の外周を回るコースなのだが、仮にママチャリで走ると、一般的な平均速度が大体15Kmぐらいなので14時間もかかる計算になる。
ロードバイクの中上級者が25〜35Kmで走って7時間前後。自分のような初級者へっぽこライダーには恐れ多くてチャレンジを口にすることすら一歩引いてしまう。
という感じなので、今回の50kmぐらいの行程は「ちょうどいい」以外の言葉が浮かばなかった。途中からこのちょうど良さに気分が良くなってビワイチに敬意を表しながらもひとまわり小さいという事実も足して「チビワイチ」と名付けて初心者ご一行様は出発した。
ところで、このチビワイチ、いわゆる都内の街乗りとは全く違い走りにくいという感じがない。通常、車道を走る自転車は左端のさらに端をそれはもう遠慮がちに走るのが常である。
だが、このチビワイチ(もちろんビワイチも)ブルーラインと呼ばれる自転車専用走行路が結構広くとってあり、ロードバイクでの走りやすさが格段に違う。もちろん都内にもブルーラインはあるが路肩駐車がごくごく当たり前に行われているため、ほぼ機能していないのが現状だ。しかし、チビワイチの際には幸いにも一台も路肩駐車でブルーラインをはみ出ることがなかった。
これぐらい走りやすいとかなり見える世界が変わってくる。
のんびり走行しながら、水辺に集まる人たちの表情まで視界で捉えることができた。
その日は日頃の行いの割にはポカポカの日当たりに当たったため、湖のほとりでデイキャンプ、バーベキューに興じる人々。公園ではしゃぐ子どもたち。木陰で静かに読書に勤しむカップル。散歩中の休憩なのかベンチでくつろぐ老夫婦。
実際、夫婦かどうかはわからない。しかし、その湖のほとりには幸せな時間が流れていたことは間違いない。その景観がそう感じさせるし、彼らから見ればロードバイクを楽しむ人々として、その景観の隅っこを自分たちが彩っていたのだと思う。
急に壮大な感じがするが世界の四大文明も水辺であることが大事だった。そう考えると人間にとって水辺で過ごす時間というのは本能的に豊かさを感じさせる時間なのかもしれない。
そんなことを考えている間にチビワイチは休憩も含めて3時間でゴール。
疲労感、走行感、達成感、本当にどこまで行ってもちょうどいい。
日常の風景の一部となることで、ほんのちょっとだけ感動する体験ができた。
風景の一部になる。といえば、自分達がその一部となったこのチビワイチとはある意味、全く逆の「風景の一部となる人」を見かけて感動したことがあった。
それはとある警備会社さんでのこと。その企業様にかれこれ2年ほど研修をさせていただいていて、本来、経営幹部向けで月に1回、半年間のコースなのだが、ありがたいことに社長さんは全社員さんに受けさせる勢いで継続してもらっている。
その日は第3期生の研修で、いつものように会場であるその会社を訪問しようと駅から歩いていた。
すると、現地集合の約束をしていた自社の研修アシスタントさんの車がたまたま到着する場面に出くわした。
アシスタントさんが指定の駐車場に停めようとする際、過去に2期生として受講してくださった警備隊長のSさんが偶然にもそこを通りかかった。
なんとなく歩きながらその光景を見ていたのだが、アシスタントさんの車に気がついたSさんがバック駐車の誘導をごくごく当たり前のように始めたのだ。もちろん業務時間ではないので警備員の制服も着ていないし、そもそも誘導する義務もない。
ところが、その動きの機敏さ、正確さ、堂々とした姿勢、所作には美しさすら感じとることができた。素人のそれとは圧倒的に違う。Sさんがこれまでに培ってきた仕事の全てが体に染み付いているのだ。
あまりにも日常に溶け込んだその風景についぼーっと見入ってしまった自分がいたが、ごくごく自然に「かっこいい…」と独り言が漏れていた。
数ヶ月後になって、そのことをSさんに伝えたのだが、本人にとっては当たり前すぎて覚えてすらいなかった。
日常の中に紛れてしまう風景。少し大袈裟かもしれないが、その全てにその人たちの人生の積み重ねが存在して、それが交錯することでその風景を作り出しているのかもしれない。
そう考えると、自分がどんな風景の一部になれているのか。少しドキドキしてしまう。
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