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日々是レファレンス ちえなみきの読書会

 敦賀駅前に「ちえなみき」という書店がある。最近急に大きくなった敦賀駅の規模にふさわしい、そこそこ大きくておしゃれな書店でお茶もできるのだが特徴はそれだけではない。ちえなみきの最大の特徴はその本のラインナップにある。ある一定の系統立てられたテーマに沿って本が並んでいる。おしゃれなビジュアルは写真でお伝えできても、このラインナップばかりは言葉だけでは分かりにくいと思うので実際に訪れて実感してもらうのがいちばんだ。

おしゃれな本棚。世界樹のイメージらしい
最初この本棚を見たとき「ルンバでの掃除に向いてそうだな」と思った
本の隠れ家感
書店と図書館のあいのこのようなイメージらしく、座って本を読めるスペースがたくさんある
2階にある大きなテーブル。松岡正剛氏が見守っている。ここが読書会の舞台だ

 そしてこの書店の誕生には編集工学者・松岡正剛が大きく関わっている。業界では神と崇められている松岡氏だが、今年の8月に本当に神様になってしまった。残念なことだ。

 さてそのちえなみきだが、さまざまなイベントが開催されていて、その一つに(本屋さんらしく)読書会がある。現在はマルクス・アウレリウス・アントニヌスの『自省録』(岩波文庫版では「マルクス・アウレーリウス」)と宮本常一の『忘れられた日本人』のそれぞれについて開催されている。僕はある日ブックオフで見つけてしまった『自省録』に運命的な導きを感じて(ちえなみきで購入しなくてごめんなさい)『自省録』の読書会に初回から参加している。

 マルクス・アウレリウス・アントニヌスは、言わずと知れたローマ五賢帝最後の皇帝で、そのローマ皇帝としての職務の合間とか遠征の合間とかに書いた(と思われる)ものが『自省録』だ。哲学書にジャンル分けされてはいるものの、ガチガチのものではなく、断章形式が用いられており、その内容もなんとなくつぶやきっぽい(Twitterっぽいというとさすがに言い過ぎか)感じで、案外とっつきやすいのではないかと思う。その一方で、個々の文章が短くて舌足らずなところもあり「これは一体どういう意味だろう」という箇所も多い。そういうところはまさに読書会を開催するにふさわしい書籍なのではないだろうかと思っており、毎回楽しく参加している。

『自省録』
併設の中道源蔵茶舗の割引券がもらえる。ありがたい

 開催されている日程の関係で『忘れられた日本人』の方の読書会には参加していなかったのだが、開催4回目の時点で『忘れられた日本人』にも参加してみた。この本はちゃんと(?)ちえなみきで購入した。そして4回目の範囲だけでなく、それまでのところを読み通してみたのだが、これが面白い。なんともったいないことをしていたものかと悔やんだが、読書会が終わってしまう前に気づけただけまだマシなのかもしれない。これまで読んだところでは、明治以前の村落共同体のあり方が、案外身分制度とは別次元であったのではないかといったことが書かれており非常に興味をそそられる。

『忘れられた日本人』

 さて、他の投稿でも書いているとおり、最近、明治時代に造られた石積みの砂防堰堤を見ることにハマっている。

 石積堰堤は、敦賀市と行政境界を接する南越前町に多く残されているのだが、その一つ、僕が石積堰堤にハマる原因となったアカタン砂防堰堤群のある田倉川のほとりには「リトリートたくら」という施設がある。キャンプ場やコテージがあって宿泊できる一方、各種体験(そば打ちとか)もできる複合施設である。この「リトリートたくら」の中には「アカタン砂防ミュージアム」もあって、見学の予習には最適である(とりあえず堰堤の実物を見てみて、戻ってきてから復習してそのすごさを再認識するというのもアリだ)。そこでもらった資料には、明治時代にどのように堰堤を造ったかが紹介されている。当然ながら重機などといった便利なものはなく人力で造っている。その共同作業は『忘れられた日本人』の中で書かれている村落共同体のあり方を思い起こさせるものだ。

みんなで力を合わせて堰堤を造った

 そして、南越前町の石積堰堤を見て回るにあたって、参考資料となるものを最近ネットで見つけた。『砂防および地すべり防止講義集(第49回)』という雑誌に入っている、田中保士という人の書いた「砂防事業と地域活性化 ー歴史的砂防施設アカタン砂防からの報告ー」というレポートだ。南越前町に点在する石積堰堤を、略図ながら(おそらく)網羅しており、僕はこれを一つ一つ制覇するように石積堰堤を見てまわっている。その中に、アカタンの石積堰堤について描写した部分があり、僕はこれを読んでうおっと思い、はたと膝を打った。

 アカタン砂防えん堤は、何れを見ても自然の摂理にかなった単純明快さと効率よく万能な造りである。水が自由に流れるように、地形地質と流れに素直に従った自由自在の造りである。

田中保士「砂防事業と地域活性化 ー歴史的砂防施設アカタン砂防からの報告ー」
砂防および地すべり防止講義集(第49回)平成21年3月13日 82ページ

 ※強調部分はインローによる  

https://e-labs.jp/2021/wp-content/uploads/2018/02/2009_sabo_kouen.pdf

「自然の摂理にかなった単純明快さ」など完全に『自省録』におけるマルクス・アウレリウス・アントニヌスの主張である。村落共同体の共同作業で造られた明治期の石積堰堤が、ストア倫理学の精髄を体現したものであったとは…!あまり関係ないと思っていた二冊の書物の、思いがけない接点に僕はとても感動した(無理矢理のこじつけだろうという意見は受け付けない)。

 無理矢理のこじつけかどうかはともかく、いずれの読書会も、参加者が、自分の知識や読んだ本の内容など、レファレンスを持ち寄る場だ。知識は知識とつながり、新たな知識の網の目となってゆく。参加者みんなでつむぐ、すぐれて知的な作業であり、ゆるやかなつながりの中の共同作業だ。

手書きでメモをとりながら読み進める

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