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肝油ドロップ

僕が幼稚園児の頃、引越しで通う園が一度変わったことがありました。これは引越しの前、最初に通っていた幼稚園での話です。

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僕が最初に通っていた幼稚園では、降園の時間になると先生が園児一人一人に肝油ドロップを2粒ずつくれてさよならをしてました。(肝油ドロップとはビタミンが豊富に含まれたグミのような食感の健康食品です。)

僕はその肝油ドロップが大好きで、本当は2粒ではなくもっと欲しかったのですが、仕方なく我慢してました。

ある時僕は母親に「どうして先生はドロップ2つしかくれないの?」と聞きました。(当時の僕は大人に対して引っ込み思案で、先生に直接話しかけたりすることはほとんどありませんでした。)

母親は結構適当に受け答えするところがあり、その時も何か家事をしながらだったのか、

「3つ以上食べると栄養の摂りすぎで死んじゃうからよ。」

というようなことを答えました。

子供ながら(なんて危ないものを食べさせるんだ。)と思いながら、それ以降は肝油ドロップを2粒以上欲しいと願うことは無くなりました。

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それからしばらくして引越しをすることが決まり、転園することになりました。

僕は母親から引越しをするということは聞いていたのですが、人生で一度も引越しをしたことが無かったためどういうものか理解しておらず、大きな家に住めるようになる程度にしか考えていませんでした。なので、通う幼稚園が変わるなんてことは微塵も考えていませんでした。

そうしたまま最後の登園日を迎えたのですが、自分は明日以降も同じように幼稚園に通うものだと思っており、その日もいつも通り過ごしていました。

ですが降園の時間になると先生に「今日は最後にさよならしようね。」と言われ他の園児がさよならするまで待たされました。

普段は名前順で割と早い段階で自分はさよならするのにどうしてだろう、と訝しんでいると、みんなとさよならし終えた先生が僕に近づいてきて、泣きそうな声で

「今日は、最後の日だから…3つあげるね…。」

と言いました。

それを聞いた僕は母親の「3つ以上食べると栄養の摂りすぎで死んじゃうからよ。」という言葉を思い出し、

(僕は今日ここで死ぬのか!?)

と壮絶な勘違いをしてしまい、その場で大声を上げて泣き出してしまいました。

それを見た先生は

(今日一日いつもと変わらないように過ごしてたけど、やっぱり引越しして会えなくなるのは寂しいのね…。)

とでも思ったのか感極まって涙を流し、僕を優しく抱きしめながら「さよなら、みんな〇〇君のこと忘れないからね。」というようなことを言い、僕はますますここで死んでお別れなんだと思い泣き続けました。

結局その日、肝油ドロップを何粒食べたかは泣きすぎて覚えていません。

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