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ユーベルのラントへの共感 / 最も美しい1コマ / そしてユベラン

ユーベルが「共感」によって相手の使う魔法を習得する能力を発揮する場面って、今一つ説得力がないと思っています。その理由と意外な効果について考えてみます。ラントへの共感のタイミングは後半で考察しています。


ユーベルの「共感」に説得力を感じられないのはなぜか

そもそもここで必要な共感は、魔法を会得できるレベルでの共感ですから、単に説明を聞いて「なるほどね」ということでは足りなくて、実体験に基づいた実感を伴った共感が必要なはずだろうと思うのです。

例えば、ユーベルが「レイルザイデン」で「不動の外套」を切ることができたのは、姉が裁縫するときにハサミで布を裁断する様子を何度も見ていて、「布を切る」イメージを体に染み込むレベルで実感しているからなわけです。

他人の体験談を聞いただけでそのレベルの共感ができるものでしょうか?

例えば、ヴィアベルから戦場での体験談を聞いたとしても、似たような過酷な状況に身を置いた経験がなく、頭で理解するだけで全くの他人事であれば、このレベルの共感はできないでしょう。(ヴィアベルへの共感理由は別のエントリーで考察しています。)

ユーベルの過去は作中ほとんど描写されていないので、読者は辻褄を合わせるために「ユーベルにも同じような経験があったんだろうな」と想像する他ありません。

これが説得力が今一つと感じる理由です。(このあたりは後の掘り下げに期待して楽しみにしています。)

ただ、この説得力不足・説明不足は、単にネガティブな要素になっているというわけではありません。ポジティブな効果を生んでいる例を次に見てみます。

説明不足が想像の余地を生む(ユーベルがラントに共感したのはいつか?)

さて、ユーベルの「共感」が描写されているのは、一つは、先ほど触れたヴィアベルからソルガニールを取得した場面です。

もう一つはラントへの共感でしょう。(既に共感できているのか?については諸説ありますが、ここでは自説ベースで説明を続けます。)

ラントへの共感があったのは、おそらく、ラントの祖母の墓前でラントと会話した時です。(第126話「新たな任務」)

ラントがユーベルに自宅でお茶を振舞った際、ユーベルは「君は人前に出るのが怖いんじゃないかな」とラントの性格に関する「私なりの分析」を披露しています。

けれども、これは全く逆方向の見立て違いでした。(「…分析ね。ユーベル。君は僕のことを何もわかっていない。」)

墓前でのラントの説明によれば、彼の分身魔法は、「他人と対面したくない」というような消極的な理由ではなくて、「祖母と一緒にいたい(だから故郷(Land)を離れたくない)」という積極的な理由があるからこそ磨かれたものなんですね。(詳細は単行本第13巻をお読みください。)

そのラントの話を聞き終えたユーベルの表情がこれです。

これは『葬送のフリーレン』で最も美しいコマの一つだと感じます。なぜなら、情報量がうまくコントロールされていて、見てもわからない、かと言って全くわからないというわけでもなく、「ユーベルは何を考えているのだろう?どんな人生を送ってきたのだろう?」という疑問を生み、見る者を見飽きさせないからです。こういう「絵・画」と鑑賞者との対話が生じるのは動画にはない静止画の魅力です。

ここでのユーベルは完全に毒気が抜けていて「人殺しの目」は消えており、「サイコパス味」もありません。「ユーベルって、こんなにきれいな表情をするんだ…」と驚いてしまいます。

この後二人の話題が任務の内容に移るまでの2コマに渡りユーベルの表情は隠されていて、感情を読み取ることができません(ラントの話の最中はユーベルの顔が見えるコマも少しあります。しかし、かなり小さく、省略もされており感情は読み取れません)。この時ユーベルは何を思っているのでしょう?

前述のとおり作中にはユーベルの過去について直接的な描写がほとんどないため、読者は想像する他ありません。この時点での手がかりは姉の存在(安否は不明)くらいです。(他には、ゼンゼの出自とは社会的階層が異なり、特別裕福な家庭ではなかった等)

この「姉の存在」という手がかりと、ラントの祖母との関係性を合わせて、ユーベルの内心を想像してみます。

そうすると、ユーベルには、大切な人(姉?)から離れたくなかったのに離れざるを得なかった、離れてしまったことを後悔している、というような過去があるのではないか。具体的にどんなことがあったのかはわかりません。けれども、これは、その自分の過去を思い出しながらラントに共感している表情なのではないか。(すこし観点は異なりますが、ここでユーベルがコマの端に寄せて描かれていることはユーベルの内面に何かしらの「変化」があったことを示していると解釈できます(中央なら「安定、不変」です)。また、次のコマのユーベルの体は重心が左側にあり、わずかにラントの側に傾いています。)

そう考えると、このユーベルの表情はえも言われぬ美しいものになっています。

注意したいのは、冒頭で申し上げた説得力不足・説明不足が読者の想像力を喚起することによりこのコマを美しいものに仕上げているということです。

もしユーベルの過去について既に詳細な描写があったなら、この想像力は喚起されず、読者はこのコマで目を止めません。想像するまでもなく説明されているので、「ああ、これはあの時のことを思い出しているんだね」で終わりです。

説明不足が想像の余地を生み、一方的な情報の注入ではなく読者との対話(ユーベルは何を考えているのだろう?過去にどんなことがあったのだろう?)を作り、この1コマを美しいものにしています。

ただし、説明(情報)が少なければよいというわけではありません。情報が少なすぎると、読者にとってはわけのわからない絵になってしまいます。例えばこの場合であれば「姉の存在」という手がかりだけは必要です。ここのところの情報量の塩梅が絶妙だと言えます。

ユーベル x ラント(ボーイ・ミーツ・ガール)

「共感」に話を戻すと、ユーベルのラントへの共感はこの時点(第126話の墓前)で生じていると自分は考えています。(この共感の後は、ラントに対して自己分析を強要するようなデリカシーに欠けるユーベルの質問攻めは鳴りを潜めます。)

じゃあ、なぜ共感が済んでいるのにユーベルはラントにつきまとうのか?

そりゃあ、「もっと口説いて」ほしいから、でしょうね。

二人の関係をラント視点で見ると、二人が出会った試験編から一貫して、「引っ込み思案な男の子が積極的でトラブルを起こしがちな女の子と出会って事件に巻き込まれてゆく(そして恋に落ちる)」という、(ある意味で男の子にとって都合の良い)ベタベタのボーイ・ミーツ・ガールでした。

その事はこの第126話で「ストレートすぎやしないか?」と感じるくらいハッキリと示されています。

ボーイ・ミーツ・ガールはかなり強力なエンジンですが、これをメインのキャラで動かしてしまうと作品全体が恋愛物語になってしまいます。

だから、『葬送のフリーレン』では、それを避けるために敢えてサブキャラでボーイ・ミーツ・ガールをやって、メイン・ストーリーと並走させたいのだと思います。

なので、ユーベル・ラントはこのままこの路線で行くのではないかな…と予想(期待)しています。

フリーレンとユーベルの対比

【行動】魔法収集の旅で人間を知る ⇔ 人間を知ることで魔法習得

【思い人】ヒンメル(空) ⇔ ラント(地)

【髪の色】白銀(雲) ⇔ 緑(植物)

【服の色】白 ⇔ 黒

【髪型】ツインテール ⇔ サイドテール


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