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ユーベルの目的(誰を殺そうとしているのか)
ユーベルって、一見すると刹那的で無軌道に生きているように見えます。(特にアニメ第1期の範囲では)
ですが、律儀に資格試験を受けていたりして、意外と一貫した目的を持って行動しているんですよね。
ユーベルの目的は何なのでしょうか。
目的は「一級試験合格で得られる特権」だと言えばそれはそうなんですが、もう少し深掘りして、少ない材料をなるべく活かす形で考えてみます。
材料は次の3点です。
殺すまでの猶予がほしい
ラントの分身魔法がほしい
特権の「家族の遺体を見つける魔法」と「姉貴が見つかる魔法」
大した根拠はありませんので、妄想寄りの考察になります。特に根拠の弱い部分については、他の人が共感できるのか自信がないのですが、「なるほどな」と思ってくれる人がいたら嬉しいです。
殺すまでの猶予(ヴィアベルに共感した理由)
ヴィアベルからソルガニール(見た者を拘束する魔法)を取得したことについて、ユーベルは「私も殺すまでの猶予が欲しくなった」と説明しています。(第46話「もっと美味しい味」、タイトル画像参照)
ヴィアベルはこの「猶予」のことを「殺す覚悟のための時間」と言っています。彼の場合は、まだ「人間でありたい」と思っているために、「殺し一般」について殺す覚悟のための時間が欲しいと考えているのですが、ユーベルも同じなのでしょうか?
ユーベルの人となりからすると、私は、そうではないように思います。
たとえば、ユーベルはオイサースト到着前(ヴィアベルへの共感前)に盗賊を切り刻んで殺害しています。ヴィアベルへの共感後のユーベルであれば、こういった場合にも猶予を望むのでしょうか?
ヴィアベルならそうするかもしれませんが、ユーベルの場合は問答無用であっさり殺すと思いませんか?(私はそう思います。)
しかしそうだとすると、ユーベルがどうしてヴィアベルに共感したのか?今一つわからないですよね。そのせいでユーベルのヴィアベルへの共感には説得力を感じないのですが…。
実はこれ、ユーベルが「私も殺すまでの猶予が欲しくなった」と言っているのは、「殺し一般」についてではなくて、「特定の殺し」を念頭に置いて言っているのです。
つまり、ユーベルには殺したい(殺さねばならない)相手がいて、これまではその相手を見つけたら即座に殺すつもりだったが、殺す前に猶予をとって話をしたくなった。
それはなぜかと言えば、殺したい相手との関係性が、純粋な敵対関係ではなく近しい間柄であるためです。
だから、殺す覚悟のための時間が欲しい。殺すまでの猶予がほしい。
そういう意味ではないかと思います。こう考えると、ヴィアベルへの共感と、「人を殺すことをなんとも思っていない」ユーベルの性格とを矛盾なく理解できますね。
ということで、この「特定の殺し」(復讐?敵討ち?)がユーベルの大きな目的になります。他の材料を見てみましょう。
ラントの分身魔法
ユーベルがラントの分身魔法を欲しがる理由は、正直、思いつきません。(ラントへの共感については別記事で考察しています)
もちろん、ラントの分身魔法はかなり強力なものなので、戦闘狂のユーベルが欲しがっても不自然ではありません。
ただ、それだけではちょっとつまらない(材料を活かしきれていない)ですよね。
すこし引っかかるのは、分身魔法は自身がやられた時の「保険」として防御的に使われる場面が多く、そこが「死にたがり」のユーベルの性格にそぐわないところです。
ユーベルが殺そうとしている相手は、相当に強力なのかもしれません。ユーベルはその相手と戦う際に分身魔法が鍵になると考えている(デンケンの特権魔法もそうでした)。そんな感じでしょうか。
分身魔法は戦闘においてはどんな場合でも強力なので、場面を絞り込むのは難しいですね。戦闘以外の場面で「裏をかく」ために使うのかもしれません。
「家族の遺体を見つける魔法」、「姉貴が見つかる魔法」
帝国編に入って一級合格の特権が明らかになると、ユーベルが姉を探していることがわかります。ここではもう少し深掘りしてみます。これはいくらでも妄想が膨らむところですね。
まず、ユーベルが姉の生死に付いてどう考えているかです。
ケースとしては、生きている、死んでいる(遺体あり)、死んでいる(遺体なし)の3つです。
第2希望が「姉貴が見つかる魔法」である以上、姉が死んでいて遺体もないとは考えていないと思われます。(なお、この世界では宗教上の理由で火葬はしませんので(黄金郷編参照)、死んで遺体が残らないのは魔族・魔物に食われた場合と考えるのが自然でしょう。ただし、世界観に関わってしまうので相当な妄想にはなりますが、姉が魔族である可能性や、死後転生した可能性もなくはないです。)
死んでいる(遺体あり)はどうでしょう。これだと、第2希望を「姉貴の遺体が見つかる魔法」としない理由が分からなくなります。もちろん、「姉貴が見つかる魔法」の方が生死問わずで対象が広く合理的なのですが、そう合理的に考えるのであれば第1希望も「家族を見つける魔法」としたはずだろうと思います。(ただし、「家族の遺体を見つける魔法」はラントによる表現で、ユーベルが直接そう言ったわけではないし、ゼーリエの渡す魔法が希望者の表現したものとそのまま一致するかどうかはわからない。ゼーリエが希望者の意図を汲み取り、近い魔法を見繕って渡しているとも考えられる。)
とすると、「姉は生きている」とユーベルは考えていることになります。
次に、特権の希望順として、まず「家族の遺体を見つける」(これはラントがもらった)で次点が「姉貴が見つかる」であることに注意したいと思います。
もし姉が生きているなら、第1希望の「家族の遺体を見つける魔法」では姉を見つられないことになります。そして、ユーベルはそれでも構わないと考えているわけです。生きている姉よりも死んだ家族の遺体を見つけることが優先だということで、少し不思議なところです。家族の遺体が見つかればそれを手掛かりに姉に近づけると考えているのかもしれません。
また、「姉貴が見つかる魔法」については、対象がかなり限定的なところもなんだか奇妙な感じがします。兄や弟妹を除いてピンポイントで姉を見つける魔法って、どういうことなんでしょうか?(魔法の名称については、まあ、ユーベルの魔法は「大体なんでも切る魔法」も大概なので、「姉貴」というのもネーミングが大雑把なのも感覚派のユーベルらしいと言えるのかもしれません…)
もう一つ、「姉貴が見つかる魔法」については、通常であれば「AをBする魔法」と表現するところ(「失くした装飾品を探す魔法」(第30話「鏡蓮華」)等と比較してください)、「姉貴が見つかる魔法」としているところも気になります。細かいところですがここの言い回しの違いに意味がないなんてことがあるでしょうか??(他言語版ではどうなっているのだろうか?)
どうもユーベルの姉の存在には不思議なところがあるという気がします。
ユーベルは誰を殺そうとしているのか?
最後に、ユーベルが殺したいと望んでいる(殺さねばならないと考えている)のは誰なのか考えてみます。
ユーベルが過去に関係した人物は現時点ではほとんど登場していないので、これについては選択肢がかなり限られています。
姉(または姉の関係者)
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既に登場した人物から選ぶなら、筆頭候補はユーベルの姉です。
ユーベルは自身の姉のことを「姉貴」と呼んでいて(2級試験失格言い渡し時(第54話「大体なんでも切る魔法」)やゼーリエから特権を貰った際)、これは親しみを込めた呼び方です。「不動の外套」解説時の描写からも姉妹関係は良好だったことがうかがえます。
だから、ユーベルが姉のことを深く恨んでいるということはないでしょう。
けれども、姉以外の家族が死んでいること、姉だけが生きているらしいこと、「殺すまでの猶予」「殺す覚悟のための時間」を欲しがったことを総合すると、ユーベルが殺したいと望んでいる相手が姉であると考えても特に矛盾はないと思います。
つまり、家族の死に姉が関係していて、姉のことを殺したいと思っているが、姉のことを憎み切れないので殺す前に事情を聞きたい。実の姉なのだから流石のユーベルも覚悟の時間が欲しい。そう考えると、かなり材料が活かせます。(分身魔法が必要なのかは「?」ですが)
ヴィアベルに対して問いかけた「女子供を殺したことあるの?」はかなり唐突です(ユーベル自身は「女子供」ではない)が、これも自分が「女子供」(自分よりも弱い存在)を殺そうとしているから出てきた発言だとすれば納得できます。
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以上の検討と同じ考え方で、姉と近しい人物、例えば姉の婚約者(既婚なら夫)の可能性も考えられますね。姉が「普通の人」だとしても、ここで「人間と魔族の愛」というモチーフが出てきてもおかしくない気がします。
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余談ですが、ユーベルの姉といえば、協会北部支部に定期報告に来たリネアールの姿にユーベルの姉の面影を感じるのですが、自分だけでしょうか?まあ、マンガのデフォルメされた絵でキャラの見た目が似ているというのはあまり当てにならないと思っていますが…
リネアールは報告の後、中庭で一日中蝶を眺めていたという「変人」(ユーベル)。ユーベルはそのリネアールを一日眺めていたという「変人」(ラント)です。(なお、リネアールはゼーリエに片膝をつかせたことがあるという実力の持ち主です。)
姉妹の再会なら、一日同じ空間にいてこれで済むはずがないのですが…もっともこれはユーベルによるラントへの説明なので、実際にその時何があったのかはわかりません(ユーベルが全てを正直に話すかはわからない)。まあ、リネアールが姉でないとしても、他人を変人だと評している本人が変人だという単なるギャグでは済まない唯ならぬ関係に見えます。
エルフ?
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エルフとの確執もなくはなさそうです。
モンクのクラフトと会った時は「(エルフを)初めて見た」と嬉しそうにしています。アニメ版で声優の演技を聴けば明らかです。
しかし、その割に、フリーレンについてはお互いに避けているようなところがあります(1次試験でフェルンに叱っておいてと頼む。2次試験でデンケンのフリーレンに関する説明を遮る。帝国編でフリーレンはフェルンにユーベルの話を聞くように頼む。)。ユーベル初登場時のコマ割りも気になります(「フリーレンが敗北した相手」の話の後にユーベル登場)。
ゼーリエとは面接試験前から何らかの関係があると思われます(別エントリー参照)。ゼーリエとの師弟愛は、今のところはかなり一方通行に見えます。特権取得後も協会の仕事を続けているのは、協会の動向が自分の目的達成に資すると考えているからでしょうか。
ラント関係
もう一つ思い付くのは、ラント側の関係者の可能性です。
ユーベルとラントに対するゼーリエの言動を見ると(第126,140話)、ユーベルとラントの過去がどこかで交わっていて(特務隊関連?)、ゼーリエはそれを知っていると思います。
ただ、ユーベルはこれまで帝都には縁がなかった(「帝都のことは知らないから特務隊について教えてくれ」という旨の発言あり)ようなので、直接の関係はユーベルの家族とラントの家族との間にあったのかもしれません。
ラントの過去についてはこれからの帝国編でいろいろ出てきそうですね。楽しみです。
メモ(ユーベル関係の記事など)
あまり関係ないのですが、ヴィアベルの「殺す覚悟」との関係で思い出すのが、『シュタインズ・ゲート』のセリフです。主人公・岡部倫太郎が人を殺すか否か逡巡する際のもので
殺せるわけがない。俺は人殺しじゃないから。
自分はこの倫理観が好きです。(すみませんが古いメモしか残っておらず、どこのセリフだかわかりません)