かわいい父と激しい母と私の介護日記(35)

父がいなくなったら

父はずっと眠っている。大きな声で呼ぶと少し目を開けるが、焦点が合っていない。

お通じは毎日あるので、オムツ交換するが無反応。以前のように「寒いっ!」と怒ってくれず寂しい。

ある日、訪問看護がバイタルを測定すると、血圧が低い。血中酸素は測れないとの事で、往診医に連絡をした。

すぐに往診医が来て状態を診てくれた。
「あと、1〜2週間です。」との診断で薬の点滴も、体内に溜まるだけとの事で外して、栄養補給の点滴だけになった。

仕事から帰って母から話を聞いても、私は信じられない。「あと2週間なんて、そんな訳ないじゃん。」この間まで、あと2〜3ヶ月と言ってたのだ。

「でも、おしっこが出なくなってしまったから。」と冷静に母が言う。
「大丈夫だよ。ねーパパ?」と信じない私。

もし父がいなくなったら、私はこれまでの私と何か違ってしまう気がする。
私の何かが、損なわれてしまう感覚。
上手く表現出来ないけど、父がいなくなったら、私はずっと損なわれたまま生きていく事になる。

母にそう言うと、「何それ?意味がわかんない。寂しいって事?」

「違うよ。寂しいけど、ちょっと違う。例えば、私の手や足がなくなるみたいな。手がなくなったら、これまでと違う生活で、でもそのうち慣れるけど、以前の私とは違うでしょ?寂しいとは違って損なわれるが合ってる感じ。」

「わかんない。難しいこと言わないでよ。私にはその感覚はわからないわ。」
と母。

伝わらないイライラで、「そうね。ママはパパと血が繋がってないから、わからないんだよ。」と、私はひどいコトを言ってしまう。

「血が繋がってない。そうだね。わかんない。」母は静かに言った。

血の繋がり以上の強い関係がある、父と母。本当はそうわかっているけど、母が共感してくれなかったことが悔しくて、そう言えなかった。

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