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【思い出】天皇を愛しすぎた友達の話
私が小学生の頃の話です。
小学生の時期というのは、人間がいろいろなものに好奇心を持ち始めるような時期です。
テレビで見たこと、友達から聞いたこと。
沢山のメディアから情報を得て、そして成長していきます。
私の有人であるSくんもそんな小学生の一人でした。
Sくんはとても人間愛が強い人でした。
特に昭和に生きた先人たちに強い愛情を持ち、日頃から「先人を尊敬してるんだろうな」という雰囲気を漂わせていました。
具体的にどんなことをしていたのかというと、
軍人のような言葉遣いをする。
「ありがとう」ではなく、無言で敬礼する。
DSにガジェットをつけてラジオを傍受する。
愛が溢れたからこその行動である一方、こいつほんとに小学生?と疑問を抱くことも度々ありました。
そんな、独特で最高な友人のSくん。
私の最も親しい友人の一人でしたが、ある日の放課後、ついに常人の理解を超える行動を取り始めました。
Sくんは当然のように天皇陛下を敬愛しており、日頃から「万歳、万歳」と連呼していました。
ああ、またやってらあ。
今日の放課後もいつも通りのSくん。
私は深く考えず、「うん、そうだよね。そうだよね」とにこやかに振る舞っていました。
しかし、私は見誤っていたのです。
彼がどれほど天皇を愛し、身を捧げていたのか。
学校の玄関を出てすぐ、彼は急激に目つきを変え、突然走り出したのです。
急な展開にうろたえる私。
待って、と声をかけることもできません。
彼が走って行く方向に目をやると、そこには割とデカい池がありました。
池は緑色の藻が茂っており、水面を緑色にてらてらと輝かせています。
結構不潔であるにもかかわらず、彼はその池をめがけて全力で走っていたのです。
心臓の鼓動が早くなる私。
彼のスピードは衰えるどころか、どんどん早くなり、もはやトップスピードです。
「おい、止まれ!」
私が声をかけたときには、もはや手遅れでした。
彼は加速したまま力強く池の縁に踏み込み、両手を高らかに挙げ、叫びました。
「天皇陛下、万歳ぃ!!!」
その言葉を残し、Sくんは水しぶきを上げながら池に飛び込みました。
彼の情熱的な声は空気を震わせ、周囲の全ての視線を一身に浴びていました。
虹色の水しぶきを上げる様はなんとも表現しがたく、私たちは「覚悟」という言葉の意味を再認識させられました。
そんなSくんですが、小学6年生で転校し、そして20歳の頃についに再開を果たしました。
彼はすっかりと落ち着きを取り戻し、立派な大人になっていました。
とても優しく、思いやりに溢れた彼は、当時の面影もだいぶ薄れていました。
小学生という好奇心溢れる時期に多くを感じ、多くを学んだ私たちこそ、他の誰も得られないものを得ることができたのではないかと思います。
彼との記憶は、楽しさや温かさ、幸せと強く結びついています。
まさに、最高の思い出の一つであるといえるでしょう。