英文契約書の単語・用語 ラテン語の慣用句 (その2)
契約書翻訳の視点から見た「英文契約書の単語・用語 ラテン語の慣用句 (その1)」の続きです。
前回も述べましたが、「英文契約書の文章が難しいといわれることの理由」、その理由の1つとして、英文契約書には、例えば「force majeure」、「in lieu of」、「bona fide」,「mutatis mutandis」等のフランス語やラテン語がまじっていることがあります。これらの言葉は、英文契約書(法律文書)の特有の用語・言い回しの一部をなす、いわゆる、リーガルジャーゴン(Legal Jargon)と称されるものです。上記のほかにも「pari passu」、「ipso facto」、「per annum」、「pro rata」、「inter alia」などがあります。しかし、自分で契約書のドラフティングを行う場合、あえて難しい表記・表現、言い回わしを使う必要もないと思います。平易な言葉により契約に対する当事者双方の意図が正しく記載されている契約書も多くあります。
これらの中で、自分でドラフティングをする場合、(1)上記のようなフランス語やラテン語を使わずにほぼ同様な表現ができる場合(2)そのような言葉をそのまま使ったほうが良い言葉、(3)とりあえず使わないほうが無難な言葉があります。(1)については前回のべましたので、今回は、(2)と(3)について見てみます。
2. 定型文としてそのまま使ったほうが良いと思われる言葉
a. force majeure (不可抗力)
あえて説明することもないかと思われますが、英文契約書では定番の言葉で、フランス語の「superior force大いなる力」を語源としており、一般的には「人の力ではどうすることもできない力や事態」を表します。
Force Majeure means any event caused by occurrences beyond a party’s reasonable control, including, but not limited to, acts of God, fire or flood, earthquake, war, terrorism, labor dispute, pandemic, system malfunction, governmental regulations, policies, or actions enacted or taken subsequent to execution of this Agreement, or any labor, telecommunications or other utility shortage, outage or curtailment
「force majeure」については、以前、英文契約書の用語、構文(その9)「Force Majeure」、英文契約書の一般条項(その5)不可抗力条項、英文契約書の用語:再びForce Majeure(不可抗力)についてなどでとりあげたことがあります。
b. mutatis mutandis(語源はラテン語で、契約書や法律文で使われる場合は、主に「準用する」の意味で使われます。辞書によっては、「必要な変更を加えて」などと記載されていることもあります。)
The meetings and proceedings of each committee of directors consisting of 2 or more directors shall be governed mutatis mutandis by the provisions of the Articles regulating me proceedings of directors so far as the same are not superseded by any provisions in the Resolution of Directors establishing the committee. (2名またはそれ以上で構成される各取締役委員会の会議と手続きは、当該委員会を設置した取締役の決議の条項により、同様な事項が破棄されない限り、取締役(会)の手続きを規律する会社定款の条項を準用する。)
c. per diem(ラテン語で日当、1日につき、日割りで)
契約書にも使われますが、経験的にはビジネス英語とまでいかなくても、仕事をしてゆく上での日常会話として使われます。
The employer shall pay a per diem JPY20,000 per working day based on the revised working rules agreed between the employer and employees.( 雇用者は、雇用者と従業員との間で合意した改定後の就業規則に基づき、1労働日あたり2万円の日当を支払う)
3. とりあえず使わないほうが無難な言葉の幾つか
pari passu(ラテン語で「同じ順位の、公平に」)
ipso facto(ラテン語、事実として、事実上;‘by the fact itself)
inter alia(ラテン語、なかんずく,特に;among other things):ある事柄が適用される状況を例示的に列挙する文章において、例示した内容がすべてではないこと明示するために使われます。
The site manager is, inter alia, engaged in the works of coordinating among the employees, contractors, and customers at the place of the customer.(現場管理者は、特に顧客先で請負業者の従業員と顧客の間の調整業務に従事する。)
ある事柄が適用される状況を例示的に列挙する事柄が多い場合には、例示した内容がすべてではないこと明示するために、英文にした場合、「including without limitation」、「including but not limited to」で代用することができますが、上記の例文は、他にもしごとがあるけれど、「単にその中で特に」という意味で作成しており、「including without limitation」、「including but not limited to」は使いません。この場合、英文では以下のような例が考えられます。「including without limitation」、「including but not limited to」については、以前「英文契約書の用語、構文 「including, but not limited to、subject to等」(その4)」でとりあげたことがあります。
The site manager is, especially saying, engaged in the works of coordinating among the employees, contractors, and customers at the place of the customer.
ipso jure (ラテン語、法律上、法律上当然に)
If the employees of Contractor perform the Service under this Agreement, he or she shall incur, ipso jure, the liability stared in the relevant laws and regulations(請負業者の従業員が本契約に基づいてサービスを実行する場合、その従業員は、法律上当然に、関連する法律および規制に基づく責任を負う)
英文契約書のラテン語のイディオムは、多くの場合、上記のように他の英語で代替できますが、上記の「*1.ほぼ無理なく英語で代用できる例」、「2. 定型文としてそのまま使ったほうが良いと思われる言葉」にある言葉以外は、ドラフティング時にあまり使う必要もないかと思います。(*英文契約書の単語・用語 ラテン語の慣用句 (その1)を参照)
ただし、英文契約書を読む場合や和訳を必要とする場合は、知っておくべき用語です。
実際、英文契約書にはここでとりあげた以外のラテン語等が使われていることもあります。
ラテン語やフランス語が英文契約書翻訳で使われる経緯につていは、「英文契約書の単語・用語 同義語の併記について(その1)Norman Conquest(ノルマン征服)による影響」に簡単な説明があります。
以上、契約書翻訳の視点からとりあえず知っておくと便利な言葉について簡単に触れてみました。
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参考図書:
研究社新英和辞典(研究社)
ランダムハウス英和大辞典(小学館)
法律英単語ハンドブック(自由国民社)
英文ビジネス契約書大辞典増補版(日本経済新聞社)
日本法令外国語訳データベースシステム
Write for Business (Longman)
The New Oxford Dictionary of English (Oxford University Press)