英文契約書の用語と単語 「に~させる」の表現(まとめ)その2

英文契約書の用語と単語 「に~させる」の表現(まとめ)その1の続きです。
契約書翻訳では、英語から日本語、日本語から英語の翻訳を問わず「・・・に~させる」という表現を目にします。「・・・に~させる」という表現は日常的にも使われる表現です。
今回も成した訳文を通して「compel」、「enforce」、「make」について契約書の翻訳の視点からとりあえず覚えて置くと便利な表現を中心にみてみます。

3. compel

「(人)に~させる」の意味では、compelはどちらかというと、「無理に~させる」、「強いる」、「強いて~させる」の意味になります。

具体的には、「compel someone to do」の形で、例えば、The Government may compel a person who enters this country to conform to the rules applicable to such person.(政府は、この国への入国者に、入国者に適用される規則に従うように強制することができます。)

また、「compel someone to 名詞」の形で、「強いて〔ある行動を〕とらせる」の意味で使われます。例えば、Buyer shall have the right to compel Supplier to specific performance of the Order.(バイヤーは、サプライヤーによる注文の特定の履行を強制する権利を有するものとします。)なを、本題から外れますが、以下のように書くこともあります。Buyer shall have the right to compel specific performance of the Order by Supplier.

4. enforce

主たる意味としては、実施する、施行する、強いる、強要する、強める、強調する、強く主張する等の意味があります。

Each party has the right to enforce this Agreement against the other party by temporary restraining order, injunction, or other equitable relief, without proving actual damages.(各当事者は、実際の損害賠償を証明することなく、保全命令、差し止め、またはその他の衡平法上の救済により、相手方に対して本契約を執行する(契約を行わせる)権利を有する。)

-「衡平法:equity」を使ってみました。余談ですが、平衡法の主な救済措置の1つは「差し止め命令」です。一方、「衡平法」に対するものとして良く知られている「コモンロー:common law」があります。いずれも英米法の体系を成すものです。これらの意味を理解することは英文契約書に触れるに際して必要なことです。このブログの目的は、「とりあえず知っておくと便利な事柄」なので、詳細については専門書を参照してください。なを、あくまで個人的な理解としてですが、衡平法上の救済は、金銭的賠償、コモンローの救済は、金銭的賠償以外の救済とざっくりとみています。ただし実際にはこれほど単純なものではありません。そのほか、救済(remedy)については、To the fullest extent permitted by law, the Contractor shall be responsible for the remedy of any liability (common law, equitable, statutory or criminal), claims, losses, damages or expenses.などと衡平法やコモンローに加え、statutory(制定法)ほかを列記することあります(例文なのでやや無理がありますが)。繰り返しになりますが、「equity」、「common law」については、必要に応じて専門書を参照するか、専門家の意見を求めてください。―

なを、enforceは、「(人に)に~させる」の意味よりも、以下のように「施行する」、「実施する」の意味で使用される場合が多く見受けられます。

The prefecture concerned shall pay the necessary expenses for the Prefectural Governor to enforce this Act.(都道府県知事がこの法律を施行するために必要とする経費は、当該都道府県の負担とする。)(建設業法

No person other than a party to this Agreement shall have any rights to enforce any term of this Agreement.(本契約の当事者以外の者は、本契約の条件を実施するためのいかなる権利も有さない。)

5. make

「・・・に~させる」の意味では、日常的に使われる最も一般的な言葉です。「・・・に~させる」という使い方では、「make + 目的語 + 原形」の形で、上記「1. cause(3)」の例文、「The Contractor shall cause its subcontractor to carry their identification cards when conducing the site survey.」の文章に「make」を使用してみると、The Contractor shall make its subcontractor carry their identification cards when conducing the site survey. (請負業者は、現地調査を実施する際に、下請業者に身分証明書を携帯させるものとする)

「cause someone to do」が「make someone do」の形になるだけで意味は同じです。経験的には、英文契約書の場合、「make」よりも「cause」が使われています。

訳文はすべて暫定訳です。本ブログの内容を参考にされる場合は、辞書・専門書をご確認の上、ご自身の責任でお願いします。
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参考図書:
カレッジライトハウス英和辞典(研究社)
英和大辞典(研究社)
ビジネス法律英語辞典 日経文庫
アメリカの法律と歴史 増補版 自由国民社
日本法令外国語訳データベースシステム

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