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英文契約書の用語・単語  日本語の「~先」の表現について(その1)

翻訳、特に日本語から英語への契約書の翻訳では、日本語に「~先」という言葉が良く使われています。契約書に限らず、「~先」という言葉は、日常でも何気なく使われている、便利な言葉です。ビジネスでも、例えば、「得意先」、「売り先」、「相手先」、「仕入れ先」など、「~先」という言葉が出てきます。翻訳では、この日本語で多く使われる言葉、「~先」を英語に置き換きかえるわけですが、当然ですが、「~」に相当する英単語を置いて、それに続く部分に「先」相当する英単語を置いてというわけにはいきませんが、言葉によっては「ee」を使い、「~先」に対応することができます。例えば、動詞に-erをつけると「〜する人」の意味になり、-eeをつけると「〜される人(~の相手先)」の意味になります。ただし、これがすべてにあてはまるわけではありません。多くの場合、それぞれの「~先」を本来対応する言葉に置き換えたり、場合により、そのことを説明する新たな言葉を作ったりする必要もあります。「~先」という言葉は、多いのでいくつかの言葉をピックアップして、作成した例文(法律文を除く)を通して英文契約書翻訳の観点から見てゆきます。

1. 「~先」の「~」と「先」が対応するaddressを使う表現

以下の例では、単純に「~先」に当たる部分をaddress、それに準ずる言葉を足すこと

とで置き換え可能です。では、addressの語源を見ていきます。

接頭辞

ad-(a-,ac-,af-,ag-,al-,ap-,as-,at-)1.「…に向かって」「…へ」の意。移動・方向・変化などを表す。(c,f,g,k,l,p,q,s,tの前でac-,af-,ag-,ac-,al-,ap-,ac-,as-に置き換わる。) 2.…の近くで

接尾辞

-ess 形容詞から抽象名詞を造る

上記のように、「方向を表し、~の近くで」と言うように、「~先」の「先」の部分に相当する言葉です。文字通り「住所」となっていますから、以下の様な使い方があります。

宛先(address, addresssee(名宛人))、移転先(new address, new location site)、送り先(receiver’s address, destination)、連絡先(contact address)、送付先(receiver’s address, adressee)、転居先(new address)、転送先(forwarding address)、届け先(addressee)、納品先、届け先(place of delivery, address of delivery)、発送先(address)、引越先(new address)。

address以外の「~先」とついた言葉に対応する英単語をいくつかピックアップしてみました。

2. 「~先」とついた言葉に対応する英単語

(a) 上記のように、「ee」を付ける場合

委託先:trustee、consignee、contractor 事業の委託先(contractor of the business,
(consignee of business)

献金先:donee(受贈者、donerの対語)

支払先:payee

インタビュー先:interviewee(面接を受ける人)

身元照会先:referee

(b) 「ee」を付けない場合で対応する言葉がある場合

相手先:the other party

売り込み先:a potential buyer、a potential purchaser

運用先:an investment target

融資先:borrower, loan customer, loan destination, recipient of a loan

外国人労働者受け入れ先:host (hosting body) for foreign workers

勤務先(勤め先):one’s place of employment (work)

仕入れ先:supplier

取材先:news source

出荷先、配達先、納品先:place of delivery, destination

注文先:orderer(注文した人) receipent of an order(注文を受けた人)

提携先:business partner

得意先:good customer

取引先:customer, business connection

身元照会先、信用照会先、問い合わせ先、紹介先:reference, referee

契約書、なかでもライセンス契約書等に使われているの場合の例では、licenser(ライセンスを与える人)のライセンスを与えた先をlicensee(ライセンス権の供与先-ライセンスを受けた人-)、franchiser(フランチャイズ権を与える人)のフランチャイズ権を与えた先をfranchisee(フランチャイズ権の供与先-フランチャイズの加盟者)等があります。

上記の例は、ほんの一部の例です。なを、言葉によっては、上記以外にも別の訳し方があります。文脈的に一見あまり関係のない言葉が使われることもあります。ここでは、「融資先」を例にとってみます。

融資先に対応する英単語には、borrower, loan customer, loan destination, recipient of a loan等があります。字義どおり、「direction of financing」という訳しかたもあるようですが、あまり見た経験がありません。通常、状況により日本語の「融資先」に対応する言葉が違ってきます。いくつかの例を挙げてみます。辞書は頼りなる資料ですが、実際には辞書どおり、または字義通りの言葉が使われていないことがあります。

政府系金融機関は、優良融資先に対して低利での融資を行う。(The public-sector financial institutions are lending to low-risk customers at cut-price rates.)

融資先企業 の成長発展を支援するため、経営課題解決のためのコンサルティングに努めております。

In order to support the growth and development of the borrower, we will provide consultation support to help resolve management issues.

上記の例の場合、「融資先」を「customer」、「borrower」としています。文脈に応じて、日本語の「融資先」を他の言葉に訳しています。

日本語の「~先」の表現を英語に置き換えるとどうなるか、または英文を日本語に翻訳する場合、「~先」と訳すことがある場合の一例を概観してみました。実務では、日本語の「~先」に相当する言葉は、辞書にはほとんど載っていないことが多く、その言葉の持つ意味を、文脈を通して、または文脈と対比させて新たに作るという作業が求められます。その意味で、日本語を英語に訳す場合、指標となるのは、和英辞典ではなく、国語辞典、法律用語辞典です。日本語の「~先」の表現を英語に置き換えるというテーマは、まだまだ面白い側面があり、また取り上げてみたいと思います。

参考図書:

研究社新英和辞典(研究社)

ランダムハウス英和大辞典(小学館)

カレッジライトハウス和英辞典(研究社)

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