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ブラッドストーム・イン・ジ・アビス(6)
承前
暴動紙一重の中、残った脱出艇へ次々に人が吸い込まれていく。もはや誰もIDチェックなんかしてねぇ。クソッ。時折衝撃が港を揺らす。あのデカブツ…たしかさっきリードシクティス魚人とか名付けられてたな。絶滅したんじゃなかったかそいつ。まったく大したフロンティアだぜここは。とにかくそいつとカッペイの戦いは未だ続いているのだ。
「3番艇、これ以上は乗れません!隣へ!」
「あっちに工作艇があるだろ!あれも使うんだよ!」
「助けてくれぇ!」
「立ち止まるな!」
「父さんがまだなのよ!」
「逃げ切れるわけがない…もう終わりだ…」
怒号が辺りを駆け抜けていく。
ライフルは結局何も撃ち抜けなかった。せめて1発ぐらい鉛玉をブチ込んでやりたかったぜ。
「おいロブ!おい!」
「あ?!いや、本官はアンソニーで…アッ部長!」
「うるせェ!なにがアンソニーだ!てめぇ特殊免許持ってたな?」
勢いに押されて頷く。確かに持ってる。
「だったらオメーはあっちの工作艇だ!席が足りねぇんだ!早く行け!」
言われるがままに押し流された俺は海中作業用の小型工作艇に押し込まれた。たらい回しにされたが、脱出成功だ。
…本当にそうか?これでいいのか?魚人どもにナメられっぱなしで、後始末は見知らぬ河童任せ。本当に?だが俺に何が出来るっていうんだ…?
俺は工作艇の主機に火を入れ、静かに都市外へ出る。外の海底には先の戦闘で撃墜された軍の潜水艇があちこちに沈んでいた。こんな末路は、俺はゴメンだ。
——————-
巨大な腕が勝平へ振るわれる。浮力や水の抵抗など感じさせない恐るべき速度。その荒れ狂う水流に流されず紙一重で回避し、すれ違いざまに一閃。その繰り返しにより、既に巨大魚人は右手指を1本、左手指を2本喪失している。
しかし、痛みを感じないのか心が無いのか、その動きはまるで鈍らない。左腕接近。回避。一閃。流れに任せて頭部を狙う。右腕が阻む。捕獲されぬよう離脱。切り落とした指が再生する気配はない。ならば焦らずひたすら攻め続け、敵の目を引きつけるべし。
しかし、突如巨大魚人が後方へ跳躍した。体をひねりながら闇を睨む。その視線の先に街から発進した脱出艇の一団があった。
「いかん!」
勝平はあらん限りの速度で後を追った。魚人はどこまでもヒトを狙うつもりなのだ。不覚である。だがまだ間に合う。
勝平が巨大魚人の真下を潜り抜けんとしたその時、突如魚人は体勢をひねり、その大木の様な脚を勝平に振り下ろした。
「ぬおおおおおっ?!」
振り下ろされた脚は海底到達寸前で静止した。勝平は未だ潰される事なく、魚人の脚を押し返さんとしているのだ。踏みしめる岩盤が放射状に砕ける!対する魚人は彼を弄ぶかの様に力を強めていく。勝平の目に諦めの色は無かったが、勝敗は決しようとしていた。
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