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全頭脱毛症の「No treatment」 療法

※本稿は、2014年11月に私設ホームページで公開した論考の転載です。

ネットの掲示板で、「全頭脱毛症は、治療せず放置した方がよい」という主張を読んだことがあります。ブログでも、「無治療がベストの治療」という記述をみたこともあります。現在の西洋医学では、大学病院の皮膚科ですら、全頭脱毛症の治癒率は決して高くはなく、満足のいく治療が提供できているとは言えません。特に、幼児の全頭脱毛症の治療は、困難を極めます。どれだけ治療を続けても、一向に改善しなければ、そのような結論にたどりついたとしても無理はありません。

 円形脱毛症は、自然治癒する可能性のある皮膚疾患です。したがって、「全頭脱毛症も自然治癒することもあるはずだ」と、考える人がいても不思議ではありません。現実に、自然治癒することはあります。しかし、自然治癒の確率は、円形脱毛症に比べてかなり低く、放置しておくことがベストの選択とは、私には思えません。 ただ、西洋医学では、全頭脱毛症の有効な治療方法は少なく、私を含めて誰が治療しても、完治させるのは至難の業と言えます。

 「円形脱毛症は自然治癒する可能性のある疾患である」という事実は、全頭脱毛症の治療を考えていく上で、大きなヒントとなります。個人的見解ですが、自然治癒する可能性のある皮膚疾患は、漢方治療に適しています。アトピー性皮膚炎、慢性蕁麻疹、円形脱毛症など、いずれも自然治癒が期待できる皮膚疾患です。ただし、昔に比べて現代では、何故か治りにくいケースが増加傾向にあるように思われます。ストレスや環境の化学物質が原因になっている可能性がありますが、はっきりとは解明されていません。

 自然治癒する可能性のある皮膚疾患の場合、体質を改善することにより、自然治癒を促進させることが可能です。ただし、やみくもに体質改善しても、効果的ではありません。体質の分析には、中医学の分析法は役に立ちます。(注、日本漢方と中医学は異なる学問です。)漢方薬に発毛物質が含まれているのではなく、体質改善により発毛を促していると、私は考えています。体質にあわない漢方薬は脱毛症を、悪化させます。漢方だから、害がないとは、言えません。漢方薬は、自然治癒を促進しているわけですから、「NO treatment 療法」に近い治療法と言えます。

 当院では、1歳半~3歳の幼児に対しても漢方薬を処方しています。幼児でも、漢方は飲めます。興味深いことに、砂糖や蜂蜜なしで漢方が飲める幼児も時々存在します。 「漢方薬が体質にあっていると、幼児でも、いやがらずに飲む。」という口伝が、漢方の世界には存在します。

 西洋医学では、円形脱毛症や全頭脱毛症を自己免疫疾患とする説が主流となってます。この説により、「ストレスが悪化因子となるうる」ということが、否定されるわけではありません。ストレスが免疫に密接に関わっていることは西洋医学でも確認されています。2~3歳の幼児にも、ストレスはあります。弟や妹が生まれますと、母親は下の子の世話で、手いっぱいになります。このような時、母親は上の子に十分かまってあげることができず、脱毛症が悪化することがあります。自己免疫疾患ですから、幼児のストレスには一切配慮しないという考えには、私は賛同できません。

 自己免疫説では、「リンパ球が毛根を攻撃することにより、脱毛が生じる」としています。全頭脱毛症では、毛根はより強く攻撃されるはずですから、より強い炎症が生じるはずです。しかし、肉眼的な発赤は全く認められません。毛根への攻撃は、顕微鏡レベルで確認されているにすぎません。皮膚の自己免疫疾患として確立されている天疱瘡などと比べて、自己免疫疾患とする根拠が薄弱です。なんらかの免疫が関与しているのは確かですが、単純な攻撃ではないように思われます。未解明の部分が多く、さらなる研究が必要です。

 西洋医学では、病気の原因を追究し、そこから治療方法を考えていきます。これに対して、東洋医学では、独特の分析法により、体質を分析し治療を行います。西洋医学で、原因がはっきりしない病気でも治療が可能です。ただし、向き不向きがあり、すべての病気が、東洋医学で治療可能という訳ではありません。すでに述べたように、自然治癒する病気は、東洋医学に向いています。全頭脱毛症の病態は、まだ謎が多く、西洋医学では治療法も不完全です。また、ステロイドのパルス療法などの強力な治療法は、副作用のため、幼児では行うことはできません。したがって、自然治癒を促す漢方治療は、全頭脱毛症の治療法として理に適っていると言えます。

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