見出し画像

皮膚科医はディスプレイに、こだわるべきである

※本稿は、2021年6月に私設ホームページで公開した論考の転載です。

前々回は、照明の重要さについて解説しました。 今回は、ディスプレイの重要性について解説します。 皮膚科医は、色を大切に扱うべきですから、ディスプレイにも、こだわりを持つべきです。 現実には、安易な選択がなされています。 同じJPEG画像でも、ディスプレイにより、見え方は少しずつ異なります。 安物のディスプレイは、色温度が高めで、青みが強い傾向があり、階調性もあまり良好ではありません。 見栄えをよくするために、かってに彩度を高くしているディスプレイもあります。

 そもそも、優れたディスプレイとは、どのようなものなのでしょうか?  一般の人が求めるものは、写真の見栄えです。 色が鮮やかで、コントラストの強い画像を好みます。 これに対して、皮膚科医が求めるべきものは、色の正確さです。 一般に販売されているディスプレイの場合、多くの場合、色の正確さは担保されていません。 正確な色を求める場合は、 キャリブレーターを用いて、ディスプレイを キャリブレート する必要があります。

 私自身は、ディスプレイとして、EIZO L997 を長年愛用してきました。 L997は、2005年にEIZOのフラッグシップモデルとして開発されました。 静止画の表示に最適なディスプレイと評価され、愛好者が多く、2011年まで販売され続けられました。 色の表示は正確で、キャリブレートしても、ほとんど色は変化しませんでした。 目に優しいディスプレイとしても定評がありました。

 現在販売されているディスプレイのコントラスト比は1000:1に対して、 L997のそれは550:1と低めです。 この低さが、静止画の表示に向いているのではないかと、私は最近思っています。 コントラスト比が低いために、画像がしっとりとした柔らかい感じに描写されます。 そのため、臨場感のある写真となります。 コントラスト比が高いディスプレイでは、メリハリのあるくっきりとした画像となります。 その結果、実物より綺麗に描写されてしまい、肉眼で見た時の印象との乖離が生じます。 皮膚病の写真をディスプレイで表示する時は、見栄えより、実物の印象に近く描写されることが 望ましいと、私は思います。

 現在販売されている製品のなかでは、sRGBに準拠したIPS液晶を採用したディスプレイを 選択するのが無難です。 個人的には、 EIZO のディスプレイを推奨します。 なお、Adobe RGB準拠ディスプレイは、高画質高機能ですが、皮膚科医には無用の長物です。 何故なら、皮膚病変の描写には、sRGB色空間で十分だからです。

 スマホやタブレットで、皮膚病の写真を見ることも、大変多くなりました。 現在は、それらのデバイスでも、キャリブレーションは可能です。 有機ELは、よく高画質と言われますが、これはあくまでも見栄えの話です。 色の正確さが担保されている訳ではありません。 また、不自然に彩度が高いものもありますので、注意が必要です。

いいなと思ったら応援しよう!