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コロナPCR検査の「陽性的中率」の謎

※本稿は2021年4月17日に言論サイトアゴラで公開した論考の転載です。

陽性的中率とは、「検査結果が陽性となった人のうち、真にその疾患を有している人の割合」のことです。

検査の感度70%、特異度99%、有病率0.1%(1000人のうち1人が感染)で計算しますと、 陽性的中率は6.5% となります。別の言い方をしますと、 偽陽性の確率が93.5% です。計算方法は、多数のWebサイトで解説されていますので、ここでは省略します。

「PCR検査は精度の高い検査なのだから、陽性的中率が、そんなに低いはずがない!」

多くの人が、そのように感じるのではないでしょうか?この低い確率は、無症状の人を検査した時の確率です。症状がある人を検査した場合は、この確率は大幅に高くなります。また、実際の特異度は99%ではなく、99.9%~99.99%であると想定しても、この確率は高くなります。その理由を、順を追って説明したいと思います。

陽性的中率を正しく理解するには、「母集団をどのように設定するかで、有病率は変化する」ということを理解する必要があります。 発熱や咳などの症状があって病院を受診して、PCR検査を受けた時は、その陽性的中率は既述の6.5%ではありません。何故ならば、症状を有する人を母集団とした場合、 その有病率は全国民を母集団とした場合に比べて大幅に高くなるからです。 症状を有する人は、無症状の人に比べて、感染している確率が高くなるのは当然です。この場合、この確率を検査前確率と呼びます。 正確な有病率(検査前確率)の推定は困難ですので、仮に5%~15%としますと、陽性的中率は79%~93%となります。 肺CTの所見が加われば、確率は更に高くなり、陽性的中率は99%となります。

無症状の人を検査した時の陽性的中率が不自然なほど低くなる理由の一つは、特異度を99%と設定 していることです。 特異度とは、「疾患を有さない人を検査して、正しく陰性となる確率」のことです。偽陽性が減少すれば、特異度は高くなります。

偽陽性になるメカニズムとしては、一つ目は、手技上のコンタミネーションです。二つ目は、たまたま粘膜に微量のウィルスまたはその残骸が付着していて陽性となってしまう場合です。粘膜にウィルスが付着していたとしても、その後、増殖する前に免疫細胞に処理されてしまえば、発症することはありません。PCR検査は、ウィルスの存在を示しているだけで、感染症が発症していることを示している訳ではないのです。たまたまウィルスが付着している確率は、その人が居住する地域にどれだけ感染者が存在するかで変化します。その地域に、一人も感染者がいなければ、その確率は、限りなくゼロに近づきます。つまり、有病率がゼロに近づけば、手技上のコンタミネーションがないという前提で、その特異度は、限りなく100%に近づく訳です。

日本医師会の有識者会議 では、実際の日本においての特異度は、99.9%より高いのではないかと指摘されています。また、コンタミネーションをなくし、特異度を99.99%まで高めるために、全自動PCR装置の使用を提言しています。陽性的中率の計算にあたっては、特異度を、99.9%~99.99%として計算した方が、本当の陽性的中率に近いのかもしれません。

検査の感度70%、有病率0.1%の場合、特異度99%であれば、陽性的中率6.5%ですが、99.9%であれば41.2%、99.99%であれば87.5%となります。特異度の変更により、陽性的中率は大幅に高くなりますが、それでも偽陽性の確率は、58.8%~12.5%あり、無視できる確率ではありません。したがって、「無症状の人にPCR検査をした時は、偽陽性を考慮すべき」という認識は大切です。

最後に、実際の現場で、検査がどのように運用されているかを調べてみました。無症状の人に対するPCR検査は、スポーツ界で実施されています。 東京五輪・パラリンピックの新型コロナウイルス対策 では、「検査が2回陽性で感染者とする」と定めています。偽陽性が考慮されており、正しく運用されていました。高齢者施設でも正しく運用されていることを期待します。ちなみに、2回連続で陽性になった場合の陽性的中率は、特異度99%で83.0%、99.9%で99.8%です。


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