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安楽死の映画・テレビ番組の紹介 (前編)

安楽死の映画・テレビ番組を紹介します。なお、ネタバレを含みますので御注意ください。

1.NHKスペシャル 「彼女は安楽死を選んだ」 (2019年、日本)

AmazonプライムビデオのNHKオンデマンド で視聴することが可能(有料)です。 シーズン1 エピソード149 です。

2018年にスイスで安楽死を遂げた最初の日本人である51歳の女性のドキュメンタリーです。 この女性が安楽死を遂げるまでの詳細な経過は、 書籍(安楽死を遂げた日本人 ) にまとめられています。 事前に読んでおきますと、より理解が深まります。 安楽死に興味のある人は必ず視ておくべきドキュメンタリーです。

安楽死のリアルを知ることができます。 致死薬の入った点滴のストッパーを患者本人が開いて旅立つまでが、 ぼかしなしで放映されています。 このような映像を地上波で流す許可がNHKでよくおりたものだと感心します。 NHKの本気度がよく分かります。 また、このような撮影を許可し、放映を許可した患者さんの胆力には驚かされるばかりです

女性は、多系統萎縮症という難病に侵され、筋力は低下して歩くことは出来ず、発語は不明瞭で、 オムツを人に替えてもらい、介護なしでは生活ができませんでした。 女性には献身的に介護してくれる姉がいました。 しかし、女性は自律した生活が送れず、人間としての尊厳が失われた人生が続くことに耐えられませんでした。 このドキュメンタリーからは、女性の スピリチュアルペイン が伝わってきます。

2.映画 「PLAN 75」 (2022年、日本)

Amazonプライムビデオ で視聴することが可能です。

近未来の日本で実施される安楽死を描いたフィクション映画です。 この映画では、75歳から病気の有無に拘わらず自らの意思で安楽死を選択できるようになります。

実は、2016年安楽死の先進国であるオランダにおいて、「75歳以上の高齢者に苦痛がなくても安楽死を認める法案」が 議会に提出 されました(ただし、否決)。 つまり、「PLAN 75」は全く荒唐無稽な話とは言えないのです。

一方、日本では安楽死法は成立しておらず、尊厳死法すら成立しておりません。 そのような日本において、 この映画は安楽死に関して間違ったの印象を与えてしまう可能性があることを、 私は危惧しています。

この映画では、生き場所を失った高齢者に国が安楽死の選択権を与えることが描かれています。 これでは、まるで姥捨て山です。 社会的弱者が国により安楽死に誘導されているように見えます。 安楽死反対派が危惧している現象そのものなのです。

社会的弱者が安楽死に誘導されることは許されるべきではありませんが、 だからと言って安楽死が否定されるわけではありません。 終末期の苦痛に耐えられない時や、人間の尊厳の喪失に耐えられない時に、 選択肢の一つとして安楽死があるのです。 安楽死は姥捨て山ではないことが理解されないと、 日本においての安楽死の法制化は、ますます遠のいてしまうと考えられます。

3.映画 「彼女が選んだ安楽死~たった独りで生き抜いた誇りとともに~」 (2025年3月公開予定、日本)

2022 年、迎田良子さん(64)が安楽死するためにスイスに渡った。重い神経難病を患ってきた彼女は死の直前、立ち会った記者に語りかけた。「安楽死することは悲しいことではない。やり残したことは何もないし、本当に幸せな人生だったの。やっと夢が叶うのよ」。過酷な幼少期を経て、度重なる困難にぶつかろうとも、たった独りで人生を切り拓いてきた迎田さん。「誰かに頼って生きるなんて嫌なのよ」。彼女はなぜ人生の終わりに、安楽死を選んだのか。

2022年、スイスで安楽死を遂げた日本の女性(64歳)のドキュメンタリーです。 概要は Web記事 で知ることができます。

このようなドキュメンタリーは、より多くの国民に視聴してもらうために、 映画ではなく、地上波のテレビ番組として放送するべきと、私は考えます。

4.映画 すべてうまくいきますように (2021年、フランス)

Amazonプライムビデオ で視聴(有料)することが可能です。

85歳の男性が脳卒中で倒れ、身体が不自由となったことを苦にして、娘に安楽死の手配を頼み、 スイスで安楽死を遂げる話です。 フランスでは安楽死が合法化されていないため、安楽死するためにはスイスまで行く必要がありました。 娘は初めは反対していましたが、最終的には父親の希望を受け入れて、 スイスの安楽死団体に連絡し、事務処理をしていく様が描かれています。

娘は父親に同行してスイスまで行き、父親の安楽死を見届けるつもりでした。 しかし、弁護士が、自殺幇助の罪に問われる可能性があるため、 娘にスイスには同行しないように指示しました。

そのため男性は、付き添いなしで救急車に乗せられ、フランスからスイスまで搬送されました。 そして、娘に看取られることなく一人で寂しく安楽死しました。 親族の誰かが安楽死のことを警察に通報し、事情聴取を受けたため、 娘が同行できなかったのは仕方なかったのかもしれません。

NHKスペシャル 「彼女は安楽死を選んだ」 の安楽死を遂げる場面では、 患者は姉に看取られ安らかに旅立っていきました。 同じスイスの安楽死でも、ずいぶん印象が違います。 日本の警察は、スイスへの家族の同行を現時点では黙認しているようです。 ただし、突然介入してくる危険もあるため、 家族が自殺幇助の罪に問われる可能性を心配して、スイスへ行くことを躊躇する患者もいるようです。

ALS女性嘱託殺人で亡くなられた女性は、 家族が罪に問われる危険を心配して、 スイスに行くことを断念したようです。イタリアでは、スイスに同行した人が 自殺幇助の容疑で逮捕 されたことが報告されています。スイスの安楽死団体に提出するメディカルレポートを書く医師の責任、スイスに同行する家族の責任、 どこまでが自殺幇助の罪に問われるのか曖昧なまま放置されている現在の日本の状況は、良くも悪くも日本的なのかもしれません。

なお、この映画の字幕では「尊厳死」と表示されますが、正しくは「安楽死」です。 直訳すれば尊厳死なのですが、意味を考えれば安楽死が正しい訳になります。 医学用語の場合は、その用語が日本において、どのような意味で使用されているかまでを考えて訳す必要があります。 尊厳死という訳を、関係者が誰も正そうとしなかったことは、 日本で安楽死や尊厳死がいかに理解されていないかを物語っています。

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