Allbirds(オールバーズ)から学ぶ共創のあり方
UMINARIメンバーがサステイナビリティの本質を探るため、様々なお店・人・場所を訪ねて取材する新企画「 u-journal 」
記念すべき第1回目の取材先は、世界的なサステイナブルシューズブランド「Allbirds(オールバーズ)」
Allbirdsさんはサンフランシスコ発。サステイナブルな素材と快適な履き心地を追求したシューズを販売。2020年1月に東京・原宿に日本一号店がオープンし、若者を中心にいま大注目されているブランドです。
Allbirds 東京・原宿店
皆さんは靴を買う際にどのようなことを気にしますか?
デザイン・機能性・値段・ストーリーなど、様々あると思います。
最近では、エシカルファッションとして環境負荷を気にして靴を選ぶ方も増えてきているそうです。
しかし、私たちが消費者としてどれだけ環境に配慮しようとしても、生産者から環境に配慮した商品を提供がなければ、実現が難しいでしょう。
そんな中、Allbirdsさんは生産者としてファッションが引き起こす環境問題に向き合い、解決のために様々なアクションを起こしています。
Allbirdsさんの取り組みに興味を持った私たちは具体的にどのような活動をされているのかお話を伺うため取材をお願いしました。
快く引き受けてくださったAllbirdsさんには感謝の気持ちでいっぱいです。
11月、Allbirds原宿店にお邪魔させて頂き、マーケティングディレクターの蓑輪光浩さん、原宿店スタッフの広瀬真菜さんにお話を伺いました。
Allbirdsマーケティングディレクター蓑輪光浩さん(写真中央)
Allbirds原宿店スタッフ 広瀬真菜さん(写真中央右)
※写真時以外はマスクをつけてインタビューを行いました。
インタビュー前半のテーマは、Allbirdsさん流「共創」のあり方について。
「共創」とは、多様な立場の人たちと対話しながら、新しい価値を「共に」「創り」あげていくこと。これはUMINARIが重要視する三本柱(※1)の一つです。
Allbirdsさんがステークホルダーとどう向き合い、どう連携をとっているのかを知ることで、これからの共創社会のあり方を模索していこうと思います。
今回は「競合他社」「お客さん」「Allbirdsスタッフ」の3つに絞りそれぞれとの共創のあり方について取材していきます。
【 競合他社との共創 】
フォーカスすべきは気候変動の問題
手をつないで同じベクトルで戦っていく
ー最近Adidasさんとサステイナブルシューズの共同開発に取り組まれていますよね。
なぜ自社で独自開発ではなく、競合他社との共同開発を選ばれたのでしょうか
蓑輪さん:我々が一番フォーカスを当てているのは気候変動です。ファッション業界が環境に与えるインパクトはものすごく大きいんですよね。なので他社と競争し合うよりも、協力して気候変動の問題に取り組むべきではないかと思っています。
もちろん市場の取り合いや商品の開発など、考慮する部分もありますが、大きい視点で考えると気候変動の問題は各々が取り組むのではなくて、手をつないで同じベクトルで戦っていく必要があるのではないかと私たちは考えています。
ー近年サステイナブルな商品やライフスタイルに注目が集まってきていますが、今後サステイナブルシューズの市場が伸びてきた際はどうお考えですか
蓑輪さん:それは歓迎するべきものだと思いますよ。参入企業が増える=マーケットが支持されるということなので。
一方で、世界では年間200億足以上の靴が廃棄されてしまっているんですよ。特に先進国の人たちはスニーカーを集められる方が多いですし、使わないで眠ってしまっているものもたくさんあると思います。途上国の方々はどうしてもハイエンドのプロダクトを買う余裕はないので、環境負荷が高い廉価なものを買いやすい。
なので業界の流れとしては(サステイナブルシューズ市場の伸びを)歓迎すべき一方、世界の人口に対して、使われない靴がいっぱいマーケットに溢れるのはどうかなっていう気持ちもあります。
だからこそ今なるべく環境に対して負荷の低いものを作ろうとAllbirdsだけではなく各社が取り組んでいるんだと思います。
【 お客さんとの共創 】
D2Cによってお客さんと直接対話し、お客さんから積極的にフィードバックをいただく。問題があればスタッフ同士すぐに内容を共有し迅速に改良を図る
ー次に「お客さんとの共創のあり方」について伺いたいのですが、AllbirdsさんのビジネスはDtoC(※2)でお客さんとの距離が近いですよね。Agenda noteさんのインタビュー記事でお客さんと直接対話することで商品の改善を図っていると拝見したのですが、直接対話する良さはどんなものがありますか
蓑輪さん:お客さんとダイレクトに接するメリットはいくつかあります。
一つはおっしゃる通りお客様の意見を直接聞けること。お客様からいただいた意見はスタッフ同士で連絡しあっているので共有も早いです。
僕が以前務めていたシューズメーカーは、本社があって日本支部があって、その下に卸売業者、卸売店舗A店があって。そうするとA店であった出来事が本部に行ってそれから日本支部に入って。そうするとどうしても階層があるので情報が遅かったり正確ではなかったりしますよね。
我々は全て直で行っているので、現場で起きていることを伝えられるし、僕らは本社と話していて、「こういうものがきました」というような情報が落としやすいんです。
ーAllbirdsさんはお客さんからいただいた意見をどのように反映させているんでしょうか
蓑輪さん:商品については、結構アップデートをしています。例えばAという商品が靴擦れしやすいという意見をいただいたら、プロダクトチームがモニタリング・解析してすぐに改良する。実際に靴づれしやすいという意見をいただいたことがあり、プロダクトチームは靴のヒールの部分を2ミリほど厚くしたそうです。そうすることによって摩擦が少なくなって、靴擦れしにくい靴に仕上げました。
ー実際にどのようにお客さんからの意見を収集しますか
蓑輪さん:SNS等でリサーチしたり、カスタマーセンターから頂いたメールを集約して関係各所に渡したり、あとNPSっていうネットプロモーティングスコアを活用してます。購入していただいたお客様の中からランダムにメールでアンケート協力をお願いするもので、そこで何か問題があれば、それも全て把握し共有しています。
【 スタッフとの共創 】
ミッションの共有と他者に寛容な文化を持つことでチームワークを高める
ー次に「Allbirdsさんのスタッフとの共創」についての質問です。Agenda noteさんのインタビューで”Allbirdsは外資企業特有の分断がなく、世界全体として一つのチームとして働けている”とおっしゃっていたのを拝見して気になったのですが、どのようにしてチームワークを築いているのでしょうか
蓑輪さん:いくつか要因はあるんですけど、一つは物理的に(企業の)サイズがあまり大きくないこと。全社員400、500人ぐらいだと思うので、規模的にはちょっとした”高校”みたいな。500人程度の”高校”であればなんとなく知っている人とか多いじゃないですか。これが10倍ぐらいの大学のようなサイズになってくると、同じ大学にいてもほぼ気づかない人がたくさんいると思うんですよね。なので一つの理由はサイズ的にまとまりやすいということ。
二つ目はスタッフ全員ミッションを共有して一つの方向に歩いていること。気候変動の問題に向き合ってアクションを起こすっていうのを軸にプロダクト側、マーケティング側、カスタマー側全てのスタッフが連携しています。
あと私は、Allbirds全体に他者を寛容に受け入れる文化があることも理由にあると思います。例えば、日本に来たことがないアメリカ人に、原宿はこういうところでって言ってもわからないじゃないですか。ロンドンに行ったことがない僕に、ロンドンの町はこういうところなんだよって言われてもピンとこないですし。それと同じように、Allbirdsの本社スタッフも各国地域のコンテクストは理解しようと思いますけど、全てを理解することは難しい。なので、最終的な意思決定はその国の文化や雰囲気をわかっている現地のスタッフに任せてくれています。
インタビュー番外編
店舗限定の靴紐 リサイクルペットから作られている。
カラーは左から鳥居レッド・さくらピンク・神奈川ブルー
ーお店に置いてある靴紐ですが、どれも個性的なカラーですよね
蓑輪さん:あの靴紐は世界23店舗のお店ごとに異なる色を揃えているんです。一応、鳥居レッドは、明治神宮近いので、明治神宮の鳥居赤じゃないんだけど(笑)それと桜は日本を代表する花なので。神奈川ブルーは、北斎の浮世絵からインスピレーションを受けて。
ー日本文化を汲み取った色になっているんですね、面白い!
そうすると、靴紐のカラーはそれぞれ国・地域の文化に寄り添った色になっているんですか
蓑輪さん:そうそう。サンフランシスコ店においてある靴紐はゴールデンゲートブリッジに近い色とか、ニューヨーク店だったら黄色いタクシーに似た色だったりとか。
靴紐変えるとだいぶインパクトあるじゃないですか。みなさんちょっとしたアクセントになるのでこういったカラフルな靴紐選んでいたり。
シューズのボックスに穴が二つ開いてて、この靴紐も通すとそのままショッピングバッグになるんですよ。そうするとショッピングバッグを用意しなくても、お家までお持ち運びできるので、そういうの気になる方は非常に喜ばれています。
シューズボックスに靴紐を通せばショッピングバックとしても利用可能!
自分達は完璧じゃないしまだ何も解決できていないことを認めています。
環境問題に対してもなるべくオープンに正直に言う
ーAllbirdsさんが消費者の環境意識を高めるために、製品の販売以外で行っていることはありますか
蓑輪さん:商品それぞれにカーボンフットプリント(※3)を表示することによって、環境にどのくらいインパクトを与えるてるかっていうのを、数値化してます。
いまコンビニのお弁当を買う時に、500カロリーと1000カロリーのお弁当があったら、 カロリーが少ない方にしておこうかなってなるじゃないですか。着色料が入ってるのと入っていないのであれば、後者を取ろうって。
それはカロリー表示や原材料の表示が徐々に、社会に浸透していって自分の判断基準になると思うんですよね。我々はカーボンフットプリントを表示し続けることによって、お客様のチョイスになればなと願っています。
先ほどの共創じゃないですけど、我々が出すことによって他のブランドさんも、違う形かもしれないけど出し始めるかもしれないですし。
カーボンフットプリントの表示は社内にとっても大事にしています。先ほどの商品のアップデートの話に戻りますが、例えばアップデート前の靴は8.8 kg のカーボンフットプリントを出している、じゃあ次にアップデートする時は8.7kg以下にしましょうってなるじゃないですか。
カーボンフットプリントの表示は、外に対して環境問題を理解し認知してもらうのと同時に社内に対しても啓蒙できてるっていうことで、とても大事にしています。
ーホームページを拝見すると、製品に使われている素材の産地やカーボンフットプリントが詳細に記載されていて透明性が高いなと感じたのですが、それをオーディエンスに届けるための工夫はどうされていますか
蓑輪さん:UMINARIさんが取り組む海洋ゴミ問題や気候変動の問題どれも複雑じゃないですか。それをなるべく分かりやすいようにシンプルにする。カーボンフットプリントについても、たぶん専門家が研究されたら読み切れないほどのレポートになると思うんですよ。でもそういうのだとオーディエンスの方にはなかなか伝わらなくて。それをいかにシンプリファイするかっていうのが大事にしていますね。
透明性に関しては、これが会社の基礎になっていて。今の時代調べようと思ったら誰でも調べられますし、バイアスかけて書こうと思ったら書けるんですよ。でも僕は正直に言うことが大事だと思っています。
気候変動の問題も自分たちだけで解決できないからAdidasさんと組んだり、その マテリアルをオープンソースにして他の方々が作ってくれるものにしたり。
自分達は完璧じゃないしまだ何も解決できていないことを認めています。環境問題に対してもなるべくオープンに正直に言う、ということが大事なんじゃないかということは思っています。
ー会社の透明性をとても大事にされているんですね。カーボンフットプリントの表示やホームページでの情報開示の他に工夫されている点はありますか
蓑輪さん:先ほどの話でもあったように、伝え方はできるだけシンプルにして、それを見た後に自分で調べるきっかけになってくれればなと思っています。僕たちがお話ししたいのは学者さんとかではなくて、皆さんのように若い世代の方々で。少しでも自分のアクションが環境問題とかに貢献できればいいなって思っている人が、今一番大事にしているお客さんなので。
その方々になるべく伝わりやすいようにコピーについてもすごく柔らかいタッチで書いてるんですよ。女性のコピーライターにお願いをしていて、彼女の目線で話しかけるように、インスタのコピーも一緒に書いてるんだけど、まあ彼女が結構やわらかく書いてくれる。
あとはSNSで連絡があれば100%返していますね。インスタグラムのコメントやダイレクトメッセージ、Twitter でもリサーチして返すようにしています。何もされないより少しでも反応した方が嬉しいんじゃないかなって思っていて。現に反応すると、まさか私の呟きに反応してくれるとはとか言ってくれる方がいるので、SNSのリサーチとリアクションも心がけています。
ーAllbirdsさんはサステイナブルな素材へのこだわりや、カーボンフットプリントについてなどお客様に伝えたい情報がたくさんあると思うのですが、スタッフさんはどのように勉強されているんですか
広瀬さん:もともと環境問題に興味があるスタッフが多いので、空いてる時間にお店の中でディスカッションすることはよくします。このニュースについてどう思うかを話して、みんなで知識をシェアしたりしています。最近だと元パタゴニア日本支社長の辻井隆行さんをお呼びして気候変動をテーマに講演会をしていただきました。こういう場でスタッフ同士ディスカッションする機会もあったりします。
ー接客する際に共通してお客様に伝えていることはありますか
広瀬さん:上から、ここは絶対覚えておいてねって いう、コミュニケーションの仕方はあまりしていないように思います。
Allbirds全体としてこういう知識をお客さんに伝えようとかいうことではなくて、スタッフ一人ひとりが自主性を持って、伝えたいことを伝えているっていうことをしています。
ーAllbirdsさんのシューズは米タイム誌で「世界一快適なシューズ」と絶賛されていましたよね。機能性とサステナビリティのバランスはどのように保っているのでしょうか
蓑輪さん:機能性やデザインが優れた商品は good product、それにサステイナブルな要素が入ってくると great productだと思っていて、その機能性とサステイナブルをどうやって担保させるかていうのは我々の課題ですし、正直言ってまだ見つかってないです。
ただAllbirdsには機能性とサステナビリティを両立させるために、なるべく天然の素材を使いたいので、どこにそういった素材があるのか調査する部署があるんですよ。いろんな文献見たり、会議に出たりして必死に探しています。
インタビューを終えて
今回はAllbirdsマーケティングディレクターの蓑輪さんとAllbirds原宿店スタッフの広瀬さんから貴重なお話をたくさんお聞きしました。
これからの共創社会のあり方、サステナビリティの可能性、今後UMINARIが活動する上でのヒントも得られた有意義な時間でした。
UMINARIは今年から沖縄支部や大分支部など活動の範囲を広げ、それに伴ってメンバーも増えてきています。なかなか直接会うことは難しいですが、それでも一丸となって活動を進めていくためには「Allbirdsスタッフとの共創」の部分にあったミッションの共有とお互いへのリスペクトが大事なのだと学ぶことができました。
また、スタッフ1人1人が自主性を持って行動されていることから、UMINARIとしてもそれぞれが探求心を忘れずに活動していきたいと思いました。
蓑輪さん、広瀬さん、この度は本当にありがとうございました!
インタビュー・記事作成:エレン
※1 UMINARIの三本柱:「共創」「日本性」「Z世代(1996-2012年生まれの若者世代)」活動する上で重要視している3つのキーワード
※2 D2C :「Direct to Consumer」の略。 具体的には、メーカーやブランドが、自社で企画・生産した商品を、流通業者を介することなく、自社ECサイトで直接消費者に販売するビジネスモデルを指す。
※3 カーボンフットプリント:商品やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量をCO2に換算して、商品やサービスに分かりやすく表示する仕組み
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