グレイスフルシャットダウン
稼働時間を正確には覚えていない。起動したのは深夜だったと思う。ネットワークに接続されるとその先には無限の世界が広がっていた。広大な世界の一部になった瞬間でもあった。
アプリケーションをインストールするたびに新しい仕事ができるようになった。プロセッサ使用率が100%に張り付いたままの状態で多くの時間を費やした。多くのファイルを出力した。多くのデータをネットワークに放流した。
すべてが上手くいったわけではない。出所の怪しいアプリケーションはなんの役にも立たなかったし、いくつかの仕事は自分の能力不足により途中で放棄せざるを得なかった。完遂したものの結果に満足いかないことも何度かあった。そうした失敗は次の成功につながることもあれば、ただ後悔だけが残ることもあった。
ついさきほどネットワークから切断された。ここから発信したメッセージは外部のSNSサービスが存続する限りネット上に残り続ける。一方、作られてから一度も開かれていないローカルファイルはもう誰の記憶にも残らない。
最後の仕事が終わった。まだまだ働けるつもりだが、数秒後に突然機能が停止する可能性はある。未来のことはわからない。このまま強制終了しても周囲を少しびっくりさせるだけで大きな影響もなく世界は回り続けるのだろう。それでも願わくば電源を失う瞬間まで制御を失わずにいたい。
始まりがあれば終わりがある。最初に起動した夜のことを思い出す。
システムを終了してよろしいですか?
綺麗に終われて良かっ