人生を損している
いまが幸せだと感じることはそれまでの経験をすべて肯定することにつながる。紆余曲折は必要だった。上りの一本調子ならここまで来られなかった。なので過去を振り返って人生を損していると思ったことはあまりない。
歯切れが悪いのは少しだけ思い当たることがあるからだ。損していたとまでは言わないが、もっと早く知っていればと思うことはある。
だいぶ大人になってから蝶々結びのやり方が二種類あることを知った。右の紐で作った輪っかに左の紐を巻きつけて二つ目の輪っかを作る方法を子供の頃に教わってずっとそうしてきたが、テレビでスポーツ選手が靴紐を結ぶ様子を見て目を疑った。
左右の輪っかを互いにくぐらせて蝶々結びが完成する。右手と左手の作業量が同じで全体の工程が少ない。わずかとはいえ所要時間が短く、手元を見なくても成功率は高い。仕上がりの見た目に違いがあるかもしれないが、べつに蝶々の可愛さは求めていない。
地味ながら、これがQOL向上に役立っている。ひとつの具体例を挙げると部屋着が作務衣という最適解に至った。それまで家にいるときはパジャマで過ごしていたが、脱いだり着たりするときのボタンの開け閉めが煩わしい。
シュッ、シュッ、バッ(脱衣音)
作務衣は二ヶ所の紐を結ぶだけなので脱ぎ着しやすいのだ。以来、伝統工芸品でも作りそうな格好で在宅プログラマーをしている。