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スーパーはにかみタイム

道で人とすれ違うときの作法がわからない。端に寄るとか、会釈をするとか、そんな当たり前のことを知りたいのではない。現実にはもっと高度な心理戦が行われている。

顔が判別できないくらい遠くても服装や歩き方で知り合いだとわかるケースがある。相手も気づいている可能性はあるが、とくにアクションは必要ないだろう。まだその時ではない。余裕の安全圏である。

視力等による個人差はあれど、一目見れば誰だかわかる距離まで近づいたら警戒域に入る。このあたりから駆け引きが始まる。

声をかけるには遠い。「こんにちは」だけなら大きな声を出してみてもいい。ただ、その後の「いい天気ですね」みたいな会話は声を張り上げてまでやることではない。したがって、ここは気づいていないふりの一択だ。

目を合わせてはならない。お互いに気づいてしまえば挨拶しないわけにはいかない。興味もないのに人の家の庭木を眺めたりして、相手をまだ認識していないとアピールする。そのわざとらしい姿をガン見されていると感じても涼しい顔でやり過ごす。

10歩くらいの距離がちょうどいいこんなところで会うなんて思ってもみなかったという顔で挨拶を交わす。三文芝居なのはわかっているが、他に方法を知らないのだ。

近所に名前は知らないが顔見知りの気さくなお兄ちゃんがいて、よく安全圏から手を振ってくる。早いって。10歩圏内に近づくまでどんな顔で歩いたらいいんだよ……