駆け出し百人一首(44)偽りのある世ならずはひとかたに頼みやせまし人の言の葉(日野富子)
偽(いつは)りのある世(よ)ならずはひとかたに頼(たの)みやせまし人(ひと)の言(こと)の葉(は)(日野富子)
嘘のない世の中だったら、人の言葉もひたすらに頼りにしてみようかしら。でも、実際のところ、世の中は嘘だらけだから、ちっとも信じることはできないわ。
If no one told a lie, I would believe others' words.
悪妻だの銭ゲバだの悪名高き日野富子も、和歌を嗜んでいました。
こちらは文明9年(1477)の七夕の歌合せで詠まれた歌で、まだ応仁の乱の続いていた頃です(1467年に始まった応仁の乱は、この年の11月に終わる)。
ほとんど逢えない中で愛を信じ、貫こうとする織姫・彦星に言寄せながら、誰が敵で誰が味方か分からない混迷の世の中を生きた人の本音を詠んだのではないでしょうか。
和歌の修辞法
倒置法になっています。「ひとかたに人の言の葉頼みやせまし」が普通の語順です。
古典文法
世ならずは:「ず」は打消の助動詞の未然形で、「未然形+ば」(仮定条件)の濁点が取れたと理解すると良い。世でなかったら。
頼みやせまし:「や」は疑問の係助詞。反実仮想で知られる助動詞「まし」は、一人称で疑問の文脈の際には「ためらいの意志」と解釈する。あてにしようかしら。ただし、仮定とセットで使われており、「頼みにする(しうる)だろうに」という反実仮想のつもりで書いた可能性もある。その場合、本来「や」は不要である。
古文単語
ひとかたなり:①一途だ②並一通りだ の2種類の意味がある。今回は、一途だ、ひたすらだ。
頼む:マ四なら、あてにする。マ下二なら、あてにさせる、約束する。今回はマ四。
読み方(ローマ字)
Itsuwari no
aru yo nara zu wa
hitokatani
tanomi ya se mashi
hito no kotonoha
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