駆け出し百人一首(18)夏の野の繁みに咲ける姫百合の知らえぬ恋は苦しきものそ(大伴坂上郎女)
夏(なつ)の野(の)の繁(しげ)みに咲(さ)ける姫百合(ひめゆり)の知(し)らえぬ恋(こい)は苦(くる)しきものそ
万葉集 巻八 1500番
訳:夏の野の繁みに咲いている姫百合のように、ひっそりと人(相手)に知られずにいる私の片想いは苦しいものです。
My one-sided love is like a star lily blooming in a thick growth of summer weeds. You'll never know my feelings.
姫百合は、ふつうの百合よりも小さめの百合で、赤い花を咲かせます。6枚の花びらをおおよそ星型のように広げて咲きます。かわいらしい花で、偶然にも花言葉は「可憐な愛情」。
そんな姫百合に自分の恋心を重ねた、いじらしい歌です。
実は、『古今和歌集』以降は、片想いといえば、男性のものになります(垣間見や噂で恋に落ちる)。女性の美しい片想いの歌、とても貴重です。
私は、この歌を読むと、現代短歌「一度だけ本当の恋がありまして南天の実が知っております」(山崎方代)を合わせて思い出します。
和歌の修辞法
夏の野の繁みに咲ける姫百合の:序詞。比喩で内容の上から続きの語句を引き出しています。“夏の野の繁みに咲いている姫百合”のように“人に知られない”とつながるわけですね。
文法事項
咲ける:カ行四段活用「咲く」已然形+存続「り」連体形。
知らえぬ:この「え」は奈良時代以前にのみ使われる受身の助動詞。受験上は気にしなくていい。
苦しきものそ:万葉集の時代だと係助詞の「ぞ」を柔らかく「そ」とすることがある。
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