空間操作と【魔術師】
■【アクラ・ヴァスター】
(これは、《空間希釈》と、その副次作用……真空状態! こいつ、やっぱりレドキング……【無限空間】の空間操作能力のいくつかを模倣して……!)
(『第五章 遺された希望』第三十五話 決戦兵器の意味)
「ハァ、ハァ……フラグマンの奴。劣化はあるにしてもレドキングの能力を兵器転用するとか無茶苦茶だよもう……」
(『第五章 遺された希望』第三十六話 双方向の信)
【アクラ・ヴァスター】は【無限空間】の能力特性を模倣して作られた決戦兵器だった。空間を盾にする《空間固定》も空間の大きさを広げる《空間希釈》も空間操作にしてはかなりシンプルな能力に見えるが、レドキングの模倣であるらしい。
つまり、フラグマン(の遺した工廠)がこれを開発するまで、《空間固定》や《空間希釈》はティアンの技術に存在しなかったことになる。前述のシンプルさがこれを傍証している。もちろんコストパフォーマンスの劣悪な空間系をこれほどの大規模で行使するのは十分独創的なのだけれど、既にある技術の単なる大規模化を“模倣”とは言わないだろう。《空間固定》及び《空間希釈》はあくまでも<エンブリオ>側の持ち込んだ能力だと言っていいのではないだろうか。
しかし、空間操作系の能力自体がアーキタイプやティアンの科学技術になかったわけではあるまい。【アクラ・ヴァスター】と<エンブリオ>以外で出てきた空間操作にはいくつか例がある。
最初に出てきたのは、おそらくきっと《キャスリング》だったと思う。【従魔師】系統の下級から使える能力なのでこれは完全に純ティアン産、アーキタイプ・システムが最初から持っていたものだろう。似たようなものとして<墓標迷宮>からの脱出に使う【テレポートジェム】(都市間の移動に使える的なことが初期は書いてあったがこれはなしとして)、さらに自然災害だが<アクシデント・サークル>がある。いずれも転移だ。
つまり、ティアン世界にとってのプライマルな空間操作は、“空間転移”がメインだったのではないだろうか。
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■【大賢者】
インテグラは天地海三大属性の全魔法と、他属性の魔法の多くを使える。この避難所に出現した転移魔法や、彼女の直接の師匠である先代が完成させた闇属性複合大魔法も彼女は使用できる。
(『Touch the GAME OVER』第二十一話 炎――生涯)
【大賢者】インテグラが【イグニス】のいる地下へと登場したのは、彼女の転移魔法によるものだった。【大賢者】はあらゆる魔法が使えるが、それは往々にしてあくまでも既存の属性の延長線上にあるはずだ。歴代フラグマンが“化身”の能力解析で得た魔法術式があるとしても、それをああも管理AIの耳目を引くような場所で大っぴらに使うとは考えにくい。つまり、空間転移を司る属性が【魔術師】系統にあるのだと思う。
〇【ジェム】
(=ↀωↀ=)<魔石職人系統が作成
(=ↀωↀ=)<【魔石職人】や【高位魔石職人】は
(=ↀωↀ=)<材料となる鉱石に『サブジョブの魔法スキル』を込められます
(『第七章 女神は天に在らず』第五十一話【絶影】VS【魔弾王】後編 あとがきより)
【テレポートジェム】の作り方がこれに当てはまるのかあまり確信がないが(ダンジョン関係は仕様がかなり不自然に調整されているので)、少なくとも【テレポートジェム】自体はありふれた脱出アイテムだと思っていいだろうから、それを作る【魔石職人】もまぁいるのだろうと考えられる。なら、その参照元になる魔術師派生に空間転移属性の使い手もあるはずだ。今現在出てきている魔術師派生上級職と属性は、殆どが具体的な物理現象を呼び出すものだったり、レジストや結界に関わるものだったりで、空間転移に関わっていそうなものは見受けられない。
未登場なのだろう。ロストしているわけではないと思うが。
「【ベルドリオン】は転移現象を武装に変換した兵器でした。亜空間に削り飛ばすことで、あらゆる防御や強度を無意味にする矛にして盾ですね」
(蒼白詩篇 五ページ目 & Episode Superior 『命在る限り』第四十三話 ベルドリオン)
おそらく【ベルドリオン】のベーシックな根底にあったのもこの転移術師(仮称)とその属性だと思われる。【瑪瑙】による説明から考えるに、ああも攻撃的な転移の使い方はそれなりのブレイクスルーだったよう(転移属性の攻撃が一般的だったなら“転移現象を武装に変換”とは言うまい)なので、派生超級職含め輸送・移動・脱出などの補助能力(おそらくそれもかなり制約されたもの)に留まるのだろう。もし【無限空間】のような空間の変質が(極小規模でも)ティアンの上級職で行えたなら【アクラ・ヴァスター】相手に歴戦の<マスター>たち、また【聖剣姫】が困惑する必要はないし、【猫神】がわざわざ説明の自然さに気を使う意味もないから。
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■空間転移の属性
では、魔術師派生の上級職に空間転移を扱うものがあり、専用の属性があると仮定して、その上級職はどのようなものになり得るだろうか。
魔法はすべて(すべてではないが)三大属性を持つ。
●天属性(複数の属性を含む大属性。エネルギーの発生、及び気体の操作。攻撃寄り)
●地属性(大属性。鉱物の強化と操作、及び固体の操作。ほぼ物理オンリー)
●海属性(大属性。エネルギーの減衰、及び液体の操作。防御寄り)
●その他(上記の三大属性に含まれない魔法。科学的でないものが多い)
(活動報告 2018年01月27日 (土)より)
で、転移はどの属性に入るか、難しいところだ。
空間の概念はフラグマンと絡んだりしているので、科学的なカテゴリに含めていいような気がする。三大魔法属性のうち、まず海属性は除外していいだろう。空間転移には液体操作もエネルギーの減衰も含まれていない(あんまり関係ないがエネルギーの減衰って逆向きの発生ではと思わなくもないけど)ので。尤も【障壁術師】が海属性なので怪しいのだけれど、《空間固定》の技術がなかったあたりからも、障壁術は空間操作とは絡まないと考えていいと思う。
問題は天と地で、空間転移は立派なエネルギー発生に見える。気体は絡まないが。具体的に何エネルギーなのかは予想もつかないものの、空間的に変位がある以上エネルギーは使われているのだろう。なので天属性という線がひとつ。
しかしながら重力属性はなんと地属性(固体操作。活動報告、上記部分の例示より)なのだ、これが。エネルギーの発生も発生、根源的な力だろうと思わなくはない(というか、液体や気体には重力魔法を掛けられないのだろうか)のだけれど、こうなってくると空間操作エネルギーも地属性に入る可能性が出てくる(関係ないけれど磁力がどうなるかが気になる。電磁気力なので雷属性だろうか、それとも鉄に対する操作で金属系か)。
なにせ、“空間”が三態のどれかと言われれば……たぶん固体だろう、固定・希釈・破断・破壊が行えるのだから。
また、転移を空間操作というより転移対象への干渉だと考えてみても、固体操作が地属性に入ることからやはり地属性の可能性が高く思えてくる。つまり転移は線形の移動から非線形の移動への発展であって、“物体を動かしている”という根っこの扱いは変わらないかもしれない。
もちろん天地複合のセンも大いにあるし、それ以外の特殊カテゴリーに入るかもしれない。いずれにしろ、上級職と魔法属性に空間転移がある可能性は高いと考えている。
To be continued