【喰王】カタ・ルーカン・エウアンジェリオンの名前
■名前
世界観が世界観ということもあって、デンドロのキャラクターの名前はかなりバリエーションに富んでいる。もはや人間の名前じゃなかったりするのが当たり前というか、どれだけ非人間的な名前にできるかが腕の見せ所とすら言えるだろう。撲殺少女とかアット・ウィキとかRANとかLSとか、もはや人名じゃない。超級職や<超級エンブリオ>保有者になればなるほど人間の名前でなくなっていく向きさえある。
だが、一見してそこまで外れているような名前ではないのにその実ものすごく攻めたネーミングなのがカタ・ルーカン・エウアンジェリオンだろう。
この名前、普通に考えればカタがファーストネーム、エウアンジェリオンがラストネームで、ミドルネームにルーカンが挟まっているような印象を受ける。実際、彼は作中で専ら“カタ”とばかり呼ばれていた。(関係ないが、人をラストネームで呼ぶことに定評のある【獣王】はエウアンジェリオン呼びなのだろうか……?)
しかしこのカタ、冷静に考えてみると人の名前としてはちょっと変わっている。これは“ルカの福音書”を意味する言葉なのだ。
〇カタ
(=ↀωↀ=)<ちなみにカタ・ルーカン・エウアンジェリオンは
(=ↀωↀ=)<ギリシャ語で『ルカによる福音書』
(=ↀωↀ=)<何でその名前にしたかは追々
(活動報告 2020年02月04日 (火)より )
読みがやや独特だが、まぁギリシア語で書くとκατά Λουκᾶν εὐαγγέλιονで、文字通り【ルカによる福音書】になる。なにも違わない。
問題なのは、この名前の構成である。分解してみると、“福音書”にあたる部分はεὐαγγέλιον(エウ+アンゲリオン、善い報せ→福音。後半のアンゲリオン(-αγγελιον)部分が伝達、報せを意味し、これは天使ἄγγελος、ひいては英語のangelにも通ずる。天使は神から遣わされる伝令であるため)だ。
では、“ルカによる〜”を意味するのはといえばκατά Λουκᾶν部分。Λουκᾶς“ルカ”が対格に変化していることで、“ルカを、ルカへ”というような意味合いになる。そして、κατά“向かって、中へ、従って〜”……
そう、つまり、カタは前置詞なのである!!
“ルカによる福音書”のうち、よりにもよって最も意味の薄いというか、機能語的なものを取り出してファーストネームのように使っている。
これがエウアンジェリオンならばわかる。“福音書”として、この語のうち最もコアな部分だろう。ルーカンと呼ぶのもまだ分かる。やや意味的には逸れるが、著者の名前だから。
しかしカタ。よりにもよってカタ。一番個人性の薄い部分。英語で喩えるならGospel of Lukeをofと呼ぶようなものだ。ヘルダインもイライジャも、人のことを前置詞で呼んでいるのだ。よりにもよって。フォン・ノイマンのことをフォンと呼ぶだろうか?キャサリン・オブ・アラゴンのことをオブと呼ぶだろうか?
ちなみに他の福音書も著者名が変わるだけなので全部同じ、カタ〜エウアンジェリオンになる。マルコならカタ・マルコン・エウアンゲリオン。マタイならカタ・マッタイオン・エウアンゲリオン。ヨハネならカタ・イオーアネーン・エウアンゲリオン。全員“カタ”だ。四人集まってパーティでも作ったらさぞかし楽しいだろう。
◆
つまり、カタ・ルーカン・エウアンジェリオン、相当攻めたネーミングだよということで結論したい。正統派の人名みたいな顔をしていても。否、一見して特に奇妙でもないカタカナ・ネーミングだからこそ、冷静に考えてみたときの変化球ぶりが際立つのだろう。
To be continued