20-5.ペアレント・プログラム研修者の募集
(特集 夏秋コレクションde研修会)
東 敦子(帝京大学大学院文学研究科)
黒田美保(帝京大学文学部 教授)
Clinical Psychology Magazine "iNEXT", No.20
1.発達支援と子育て支援の技能を学ぶ
発達障害傾向(社会性とコミュニケーションに躓き)のある幼児(2~6歳)の保護者を対象としたオンラインによるペアレント・プログラムにファシリテータとして参加する心理職支援者(公認心理師又は公認心理師を目指す院生)を募集しています。募集要項は,本記事の末尾に記載してあります。
研修参加者は,まず黒田美保が実施する事前研修を受けることができます。そこで,発達支援と子育て支援の理論学習ができます。そして,次に東敦子が実施するペアレント・プログラムにファシリテータとして参加して実践経験を積みます。そこでは,発達支援と子育て支援の技能習得をすることができます。
ペアレント・プログラムでは,参加する保護者をグループに分けてワークをしていただきます。その際,研修者には各グループに複数の心理職にファシリテータとして入ってもらいます。保護者は,十人十色で経験価値観も違います。心理職として発達支援や子育て支援を学びたい方にとって,非常に貴重な経験になります。
2.ペアレント・トレーニング(ペアトレ)
「ペアレント・プログラム(以下,ペアプロ)」は,わが国で広く用いられている発達障害児を育てるための「ペアレント・トレーニング(以下,ペアトレ)」を参考にして開発されました。
わが国の発達障害を対象としたペアトレは,1990年代頃よりアメリカのUCLAが開発したプログラムを国立精神神経センターが日本向けに改編した「精研方式」と呼ばれるものや国立肥前療養所(現国立病院機構肥前精神医療センター)で開発された問題行動の軽減を目的とした親への訓練プログラムで「肥前方式」とよばれるものなど,いくつかのタイプがあります。
これらのペアトレは,ADHDや自閉スペクトラム症(以後,ASD)などの発達障害のある子どもの保護者を対象に小集団で実施されるものが多く,保護者の養育態度やメンタルヘルスの改善,子どもの行動の変容に一定の効果があることが示されています。
これらのペアトレの共通することは,「行動」の中で目標を定めて,行動の機能を分析したり,環境調整や肯定的な働きかけを行ったりすることで子どもの問題行動を軽減させ,発達をうながしていくという点です。しかし,ペアトレを実施するためには,実施者に高い専門的技能と経験が必要であるため,全国どこでも取り組めるように普及していくには難しい側面がありました。
3.ペアレント・プログラム(ペアプロ)
そこで,厚生労働省の研究班は専門的なペアトレを実施する前段階のものとして,「行動で考える・見る」という視点をベースに「子どもの良い行動に着目して褒める」という要素に重点を置き,保護者の認知的な枠組みを修正することを目的とした簡易なプログラムとして「ペアプロ」を開発しました(アスぺ・エルデの会,2015※1)。
このプログラム※2)は,保育士や保健師,障害児施設の職員であればだれでも行えるように構成されているため,経験の少ない心理職やこれから心理職を目指す学生にとっても取り組みやすい内容になっています。
※1)アスぺ・エルデの会(2015)楽しい子育てのためのペアレント・プログラム マニュアル 2015-2020.
※2)ペアレント・プログラムの公式の支援者養成研修は,自治体単位での申し込みになります。アスペ・エルデの会http://www.as-japan.jp/j/ にお問い合せ下さい。
今回実施するペアプロでは,社会性やコミュニケーションにつまずきのある未就学児を対象とするため,子どもへの評価としては,自閉性をチェックするM-CHATやPARS-TR,適応度を測定するVineland-Ⅱなどをアセスメントとして使用します。
人と関係を結びにくいという発達特性のある子どもは,人の行為を真似て学ぶことが難しいため,自分なりの方法にこだわったり誤学習してしまったりすることで,保護者や本人が困った状態になることがあります。できるだけ早期に発達の特性や適切な子育ての方法を保護者へ伝える心理教育としてペアプロを実施していくことで,マルトリートメントに対する予防的な取り組みとなることを目指しています。
4.家族支援において心理職に期待される役割
法整備の側面では,2004年に定められた発達障害者支援法では国や地方公共団体等が発達障害者への支援(早期発見,早期支援,家族等への支援など)を推進することが規定されており,ペアトレやペアプロの実施は都道府県や市町村の行うべき家族等支援事業の施策の一つになっています。
2020年8月に厚生労働省より示された「教育と福祉の連携に関する施策について」※3)では,公認心理師等を「地域連携推進マネージャー」として市町村に配置し,関係機関の会議調整や研修,保護者支援のための相談窓口の整理などを行うことが示されています。
そして,都道府県や指定都市に設置される発達障害者支援センターに配置されている「発達障害者地域支援マネージャー」と連携し,ペアトレやペアプロ等を実施できる人材を育成したり,M-CHATやPARS-TRなどのASDのためのアセスメントツールの導入についての研修会を実施したりするなど,支援体制の整備推進をおこなっていくことが求められています。
また,公認心理師等で発達障害等に関する知識を有する専門員を「巡回支援専門員」として,保育所や学童の子どもや親の集まる施設に巡回させ,施設スタッフや保護者に障害の早期発見や早期対応のための助言を行うことが推奨されています。その具体的支援として,ペアトレやペアプロの実施やM-CHATやPARS-TRなどのアセスメント実施の際の助言などが挙げられており,これらは福祉や教育分野で働く心理職において必須のスキルになっていくものといえます。
※3)厚生労働省(2020)「教育と福祉の連携に関する施策について」
https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/20200828-mxt_tokubetu01-000009624_3_2.pdf
5.ペアプロの実際
【プログラム構成】
ペアレント・プログラムは,隔週6回連続(1クール3カ月)を基本とし,6~12名くらいの集団で実施します。①講義,②ペアワーク,③発表,④次回の宿題の説明,の内容で,時間は1回で1時間半程度です。
1回目:現状把握表を書く
2回目:行動で記録し,よいところをみつける
3回目:行動の種類をカテゴリーに分ける
4回目:困った行動から努力している行動をみつける
5回目:困った行動がでやすい課題,時間,場所,相手をみつけて工夫する
6回目:ふりかえり
【現状把握表】
「現状把握表」とは,自分や子どものよいところ・努力しているところ・困ったところを書き出すもので,ペアで話し合いながらよいところ,努力しているところをたくさん発見していきます。「良い行動」とは「適応的な行動」であり,決して「人より優れている行動」ではないことを前提に,認知の変容を促すことがペアレント・プログラムの中核的な目的となっています。
【サブスタッフの役割】
ペアプロはペアトレよりも,保護者同士の話し合いに重点が置かれ,保護者がグループへの帰属意識をもつことが特徴となっています。サブスタッフはペアワークの調整役として,保護者同士が話しやすくなるように声かけをしたり,わからないことがあったときの手助けをしたりします。Aさん,Bさんの困ったことに対して問題を解決する方法を提示するのではなく,Aさんの困ったことをBさんは自分だったらどうするかというように考えていくことを促します。Bさんの困ったことに対してはその逆を行っていきます。
6.研修の内容
今回ご提案の研修では社会性やコミュニケーションにつまずきのある子どもを対象としたオンラインを用いたペアプロに実際に参加していただき,アセスメントの方法やペアプロのサブスタッフとしての役割を学んでいただきます。具体的には,次のような研修によって構成されています。
【研修責任者】
実施責任者:東 敦子(公認心理師・臨床発達心理士)
研修責任者:黒田美保(帝京大学)
【事前研修】
研修責任者の黒田美保の事前研修(1時間)「ペアレント・プログラムについて」をオンラインで受講していただき,現状把握表の書き方などを体験したりグループのサポートの方法を学んだりしていただきます。
【ペアプロへの参加】
東がメインのファシリテータとして実施する隔週連続6回のペアプロにサブスタッフとして参加してもらいます。保護者と一緒に同じ講義を聞き,実際に自分の現状把握表の作成を行いながら参加し,「行動で考える・見る」スキルを身につけていきます。ペアワークのときには,調整役として参加し,ペア同士が話しやすい雰囲気をつくるなどのサポートをします。
オンラインでペアワークを実施するときは,ペアの相手の現状把握表をみるために画面共有などをおこなうPCスキルが必要になります。保護者ご自身で資料を見ることができない場合は,調整役が資料提示のサポートを行う必要があります。資料の提示の仕方など,ITスキルなども研修でお伝えしていきます。
セッション後には,ペアワークでの様子を共有するためのケースカンファに参加していただきます。セッション前後の打ち合わせの時間を含めて約3時間の研修となります。
【事後研修】
研修責任者の黒田美保の事後研修(1時間)「ペアレント・プログラムのふりかえりと実施のために」をオンラインで受講していただき,ペアプロの概要をふりかえり,ファシリーテータとして実施する場合の注意点をお伝えします。
7.研修の日程
今回の研修では,これまで対面でしかペアプロを実施したことがなかった方でこれからオンラインでの実施を検討されている方,あるいは,ペアプロをご自身でこれから実施していきたいと思われている方,発達領域の臨床経験をこれから積んでいきたいという方を対象に,実際のペアプロに隔週6回連続で参加していただく機会を提供いたします。
1クール目はサブスタッフとして,2クール目はご経験やスキルによってファシリテータ役を経験していただきます。なお,区市町村などの自治体として,ペアプロを導入するための指導者養成研修を受けたい場合は,アスぺ・エルデの会の公式の指導者養成研修をうけていただくのがよいと思いますので別途ご相談ください。
【日時・期間:日曜9時15分~12時】(予定)
・講師の都合で,日時が変更となる場合がありますのでご了承ください。
・事前・事後研修の日程は別途お知らせします。
・欠席の場合は,動画研修となります。
注1)A-1とA-2,またはB-1とB-2連続して参加可能な方を優先します。
注2)応募者多数の場合は,午後(13~16時)も実施します。
注3)M-CHAT,PARS-TR,Vineland-Ⅱ を用いた個別面接に同席されたい方は別途お申し出ください。
8.研修者の募集要項
【参加資格】
公認心理師または公認心理師を目指す院生。
その他,保育士,保健師,児童指導員など,療育関係者もご相談ください。
ZOOMの基本スキル(画面共有ができること)が可能でPCで参加できる方。
【費用】
通常参加費:12,000円
特別割引※4):10,000円
※4)「臨床心理iNEXT有料会員」及び「公認心理師養成大学院学生」
注1)費用は一括支払いとし,事前研修のみの受講やお休みされた場合の返金はできません。
注2)テキスト代600円/アスぺ・エルデの会で別途ご購入ください。
注3)1グループ(1クール)の参加のみ費用をいただきます。2グループ目(2クール目)は無料です。
【申し込み】
ご希望の方は,下記項目をメールに記載の上,onlinepp2021@gmail.com にお申込みください。
◆名前:____________
◆資格:□公認心理師 □臨床発達心理士 □臨床心理士 □その他
◆所属先:
◆簡単な経歴:
◆自閉スペクトラム症の療育経験年数と内容:
◆ZOOM使用頻度・スキル:
◆ご住所:
◆電話(携帯):
◆参加期間のご希望:
□3カ月(1クール)/□半年(2クール)
◆ご紹介先(もしあれば):
保護者の研究協力者が集まり次第の実施となりますので,開始時期がずれる場合がありますのでご了承ください。参加希望者多数の場合は,ご経験などから選考させていただきます。
9.関連するシンポジウムご紹介
子どもの支援,発達支援,子育て支援に関連する臨床心理iNEXTのシンポジウムをご紹介します。ぜひ,多くの方にご参加いただきたく思っております。
〈オンライン・シンポジウム〉
オンラインによる発達支援の最前線
─発達障害傾向のある子どもと親を支援する─
【日程】8月22日(日曜):9時~12時30分
【開催方法】オンライン[Zoom ウェビナー]
【参加対象者】保護者,支援者,心理職,教員,学生
【申込方法】下記URLより。先着順1,000名。無料。
https://select-type.com/ev/?ev=iCuNFLqesgw
〈オンライン・シンポジウム〉
絵本と心理士の出会い
─豊かなイメージの世界を臨床へ─
【日程】8月28日(土)9時~12時
【開催方法】オンライン
【申込方法】下記URLより
◆臨床心理iNEXT有料会員[無料]
⇒https://select-type.com/ev/?ev=CI5srmI-3sg
◆iNEXT有料会員以外[1,500円]
⇒https://select-type.com/ev/?ev=z3RgyVQRMbI
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◇編集長・発行人:下山晴彦
◇編集サポート:株式会社 遠見書房