51-3. 「発達障害における知能検査活用」事例検討会
iCommunityオンライン事例検討会
注目本「著者」研修会
1. 発達障害理解のための知能検査の活用
現場で働く心理職は、発達障害と関連して知能検査の実施を依頼されることが非常に多くなっています。しかし、発達障害の支援に知能検査をどのように活用したら良いのか分からずに戸惑っている方も少なくないと思われます。ただ単にマニュアルに沿って報告書をまとめて、これで良いのかと不安に思うことも多いのではないでしょうか。
そこで、臨床心理iNEXTでは、知能検査を発達障害(特にASD)の理解と支援に活用する方法を学ぶことを目的とする事例検討会を開催することとしました。もちろん知能検査は、発達障害の診断に用いることはできません。この点については、いまだに下位検査得点に凸凹があると発達障害であるといった誤解があり、混乱を招いています。したがって、ここで改めて、知能検査では発達障害の診断はできないことを確認しておきます。その上で、知能検査は発達障害の状態をより深く理解するのには役立つこと、そして支援の方向を見立てていくために参考になることを確認したいと思います。
では、発達障害か否かの判断には使えない知能検査を、発達障害の状態を理解するためにどのように役立てることができるのでしょうか。発達障害の理解と支援において知能検査を活用するポイントは、彼らの“生きにくさ”を構成する「自己組織化の混乱」(DSO:Disturbance of Self-Organization)※)に対処することです。そこで、副題を『“自己組織化”の理解と支援』としました。
※)「自己組織化の混乱」は、複雑PTSDで生じる問題として知られています。しかし、これは、精神症状ではなく、心理的な問題です。英語はDisturbanceとなっています。そこで本稿では、無用な病理化を避けるために、敢えて自己組織化の“障害”とはせずに“混乱”と訳しました。このような「自己組織化の混乱」は、複雑PTSDのみで起きるのではなく、発達障害などでも起きやすいことが知られています。
2. 「生きにくさ」としての「自己組織化の混乱」
臨床心理マガジン52号では「発達障害支援の最前線」をメインテーマとして、「重なる発達障害&トラウマ」(52-1)、「カモフラージュする女性発達障害」(52-2)の特集を組みました。発達障害には、特性に基づく一次的な困難があります。
しかし、それだけでなく、特性がある故に虐待や虐めなどでトラウマを受け、トラウマ反応としてさまざまな精神症状を呈し、自己組織化の混乱が生じます。あるいは定型発達とは異なる特性を隠すために無理に適応しようとしてカモフラージュをすることで、本来の自己を見失い、2次的問題として自己組織化の混乱が起きます。この自己組織化の混乱こそが、発達障害やトラウマを受けた人の「生きにくさ」の正体なのです。
「自己組織化の混乱」は、下記に示したように「感情制御困難」「否定的自己概念」「対人関係の混乱」で構成されています。いずれも精神症状ではなく、心理的な問題であるので心理職の心理支援の対象となります。これらは、「生きにくさ」として日常生活でさまざまな支障をきたす要因になっています。しかし、発達障害といった診断がついていると、ASDやADHD様の問題行動に気を取られて、これらの「自己組織化の混乱」を見逃してしまうことがあります。
「自己組織化の混乱」は、個人的、家族的、社会的、教育的、職業的、またはその他の重要な領域における機能に重大な支障を引き起こし、いわゆる「生きにくさ」が慢性的に継続する要因になります。その結果、「生きにくさ」に関連する多様な心理的問題がみられることで、心理職が相談を受け対応することになります。ただし、「生きにくさ」が前面に出ることで、単なる性格や人間関係の問題で片付けられ、その問題の深刻さが見過ごされてしまうこともあります。その点には注意が必要です。
3. 発達障害における自己組織化の混乱
臨床心理iNEXTでは、「こんな事例検討会があったらいいな」アンケート※)を参考にして、最前線で活躍されている中堅・ベテランの心理職が事例発表し、参加者で協力して問題理解を深めるiCommunity「事例検討会シリーズ」を実施していくことになっていました。とりあえず今年度は、iCommunity会員以外も参加できるオープン形式の事例検討会としました。
(ただし、先述の通り、心理職または院生であることが参加条件です。)
※)https://note.com/inext/n/nc6a7e622127d
そこで、上述の「発達障害における知能検査活用」事例検討会を、その“さきがけ”として12月7日(土)の夜に開催します。知能検査は、発達障害の特性を理解した上で「自己組織化」を支援することができます。逆に不適切な知能検査の利用をしてしまうと、クライエントの「自己組織化」の、さらなる混乱を招くことになります。クライエントは自己を傷付け、自己否定をさらに悪化させ、二次的な障害や精神症状を招くことになります。
事例発表は、「発達障害のある人のものの見方・考え方」(ミネルヴァ書房)の著者高岡佑壮先生です。発表事例は、「軽度知的障害があるASDで、心理支援に知能検査を使った事例」です。どの領域でも心理職が担当することが多い、幼児童期には虐待や虐めを経験しやすいタイプの事例です。以下に、今回の発表事例と関連して「発達障害と知能検査」について高岡先生へのインタビュー記事を掲載します。
https://www.minervashobo.co.jp/book/b592118.html
なお、iCommunity「事例検討会シリーズ」ですが、次回以降は、心理職にとっては最重要テーマとなりつつあるトラウマ対応をテーマとする検討会を開催します。いずれも皆様が参加しやすい夜7時30分〜9時30分です。申込方法などの詳しくご案内は、随時本マガジンでご紹介します。
4. 結果の伝え方によっては自己組織化の混乱を引き起こす
【下山】 12月7日の事例検討会では、よろしくお願いします。まず知能検査と自己組織化の混乱の関連性についてのお考えを教えてください。
【高岡】私は、「知能検査は、その人が自分の特徴をより詳しく理解するため、つまり自己理解を深めるために活用されるべきもの」と常日頃考えています。しかし、知能検査が間違った使い方をされることで、かえって自己理解が滞り、自己を作っていくことが難しくなった方も多くいるように思います。
知能検査の結果に、その人の能力の全てが現れているわけではないし、その人の特徴とか持ち味の全てがそこに現れているわけでもないのです。だから例えば、知能検査の結果が「点数が低めだった」とか、「デコボコがあった」とか、「いわゆる多数派的な結果ではなかった」といった場合に、結果説明を丁寧にやらないと、説明を受けた側が「よくわからないけれど、自分は何か劣っている人間らしい」と誤解してしまう場合がよくあります。つまり、結果説明者が「これがあなたの特徴の全てではない」といったことをはっきり伝えず、「いろいろ苦手さがあるようですね」とか、「障害があるようですね」ということだけを漠然と伝えたりすると、そのような誤解が生じやすくなるわけです。
だからこそ、「点数が低めだからといって能力そのものが低いとは限らない」ということなどをしっかり伝える必要があるのです。検査を受けて「自分は劣った人だ」という、間違った漠然としたネガティブイメージで自分を捉えてしまうと、結果として自信がなくなり、自信がなくなると人とも積極的に関わらなくなり、引きこもりがちになります。そうなると経験を積み重ねて自己を形成すること、自己の組織化ができなくなります。「自分はできない人だから」というイメージによってどんどん引っ込み思案になり、いろんな社会的な経験ができなくなります。
5. 自己理解の機会を奪わないための検査の伝え方
【高岡】社会的な経験ができないということは、「自分がどんな人なのか」について、いろいろな体験を通して学ぶ機会が失われるということです。知能検査の結果を正確に理解できず「自分はできない人」というイメージを持ち、その結果いろいろな社会的経験ができなくなると、「自分は何が得意で、どういうことが好きか」とか、「どういうときに頑張れるか」とか、そういうことが全然わからなくなる、つまり自己組織化ができなくなる場合が多いです。実際に私は、受付面接において、「以前に知能検査を受けて以降、自分はできない人と思っている」と語る人にお会いすることが多くあります。
【下山】ベースに発達障害があったり、知的な障害があったりすると、自己に自信が持てないだけでなくて社会経験ができなくなります。まさに自己組織化の混乱が起きやすくなりますね。そのような場合には、知能検査を適切に使わないと、逆に自己組織化の混乱を悪化させてしまいますね。
【高岡】ただ「発達障害や知的障害があると物事が上手くいかない、逆にその特徴がなければ問題はない」という単純な話でもないと思います。別に発達障害や知的障害があっても、その人の持ち味を認めてくれる周りの人が大勢いたり、環境が整っていたり、あるいはその人が障害とはまた違うその人ならではの特徴をうまく生かす力を持っていたりするならば、さらには障害の特性そのものも一つの持ち味として生かすことができたら、上手くいく場合はもちろんあります。
そのように大きな問題なく過ごしている当事者の方も実際にいます。逆に、発達障害や知的障害がない人でも、家庭環境がすごく悪いとか、「障害の特性は顕著ではないけれど検査結果の説明の仕方がまずかった」といった場合などは、「自分はダメな人なんだ」という漠然としたネガティブイメージを持ってうまくいかなくなることはあるわけです。
6. 自己組織化に関連するケースの発表
【高岡】今回の事例検討会で発表するケースは、障害による苦手さに焦点を当ててはいますが、「障害がある人はみんなうまくいかない」とは思わないでほしいです。別に定型発達の方でも知能が高い方でも、環境の恵まれなさとか、度重なるトラブルとかがあったりすると、いわゆる自己組織化に失敗することはよくあります。だから今回のケースが、「発達障害があると必ずうまくいかなくなる」という短絡的な偏見にはつながらないことを願っています。
【下山】今後、私たち心理職にとって自己組織化の問題は非常に重要なテーマになりますね。この自己組織化に取り組む場合は、医学モデルとは全く違う考え方で対応しないといけないですね。では、具体的にどのようなケースなのかを教えてください。事例検討会用にプライバシー保護を考慮して再構成いただいたケースと聞いています。
【高岡】ASDと診断されていて知的な低さもある、男子中学2年生のケースです。医療機関にも通いながら、私が心理面接を担当しています。IQは境界知能と言われる程度で80前後です。通常の学級に通っています。ただ、知的な低さがあるので学校生活、勉強、人間関係などでつまずくことが起こりやすいです。そのような状況において検査結果に基づいて、つまずきを防ぐために何ができるのかを伝えて、生活の中で実践してもらう、ということを続けているケースです。
【下山】検査をするまでは、そのあたりの境界知能というのは見えてなかったケースですか。
【高岡】そうですね。検査実施前に問題なくやってこられたのかというとそうではなく、障害の特性や知的な低さに由来するトラブルはあったりしたようですが、厳密に知的な高さがどのくらいなのかは検査を受けて分かりました。
【下山】ASDの診断は、いつされたのでしょうか。
【高岡】診断自体は、早い段階に児童精神科でされたのですが、本人への告知は丁寧にされているわけでもなかったようですね。家族には診断名が示されていました。
7. 事例の主訴とケースフォーミュレーション
【下山】このケースの主訴ですが、どのようなものでしょうか。
【高岡】最初は「人目が気になるのをどうにかしたい」ということでした。いわゆる浮いた言動みたいなものをしがちで、それで人から悪く思われるのが怖いと。しかし本人としては、「自分の言動が周りにどう受け取られているか」の丁寧な振り返りは難しいようで、「なんだかよくわからないけれど周りから笑われている、周りから冷たい目で見られている」と感じていたようです。それで、「人目がとても気になるのは、もともとの特徴として、そのようなことを気にしやすい傾向があるからかもしれない」という親御さんの心配に基づいて検査を実施しました。
【下山】高岡先生はこのケースの担当になって、問題をどのように見立てられましたか。ケースフォーミュレーションはどのようなものだったのかを教えてください。
【高岡】いろいろな苦手さが重なっているように見受けられて、そこがこのケースの難しいところであると感じました。ASDらしい特徴として「周りの人の意図を察することの苦手さ」があるのに加えて、知的な苦手さもあるので、理詰めで物事を理解することがうまくいかない傾向も強いです。
ASDの特性が強くても、言葉で論理的に説明されたことについて知的に理解することが得意であれば、その力を生かして苦手な部分をカバーできる場合は多いです。例えば、先生や心理師などから、「社会的な場面ではこのように振る舞うと良い」とか、「こういうことに気をつけたら良い」と、論理的な説明を受ければ、ASDの特性があっても知的な能力でカバーして、社会的にそれほどつまずかない行動ができる場合もよくあるわけです。ですが、このケースは境界知能を伴うので、周りの人からの言葉での説明をスムーズに理解することの難しさがあります。
さらに、知的な低さによる勉強の苦手さも見受けられています。一般的に中学、高校と学年が上がってくると、勉強の内容が難しくなるので、知的なハンディキャップのある人は周りの人との差が際立ってきて劣等感を感じやすくなる場合が多いです。このケースでも、本人が決して頑張っていないわけではないのですが、境界知能の特徴によって「よくわからないけれど何かうまくいかない」と、劣等感をかなり感じているように見受けられました。そこで、本人が漠然と「自分はできない子だ」と思い込まないように、健康な自我を作っていくためのサポートをしたいというのが、私の意図したところでした。いろいろなハンディキャップによって本人が「自分はできない人だ」と思ってしまわないように気をつけていくことが、心理支援のポイントであると私が思っているところです。
8. 発表事例における介入のポイント
【下山】努力しないで成績が悪いのではなく、知能的な限界があってうまくいかないことは、本人にとっては辛いですよね。自分はダメだと思ってしまう。実はこういうケース多いですよね。
【高岡】そうですね。劣等感はある。しかし、どういう仕組みで上手くいかないのかを周りから説明されない。説明されてもその人の知的能力的にはその内容の理解が難しい、ということもよくある。結果、自己イメージが漠然と「僕はできない人」になってしまう。今回のケースは、そういう漠然とした自分へのネガティブイメージを作らないように、もっと健康的な自己イメージを持ってもらうためにどうすれば良いかについて試行錯誤してきたケースです。
【下山】分かりました。参加を考えている方には少しイメージが見えてきて、「自分もこういうケース持ったことあるが、どうしていいのかわからなかった」と感じる、そんな事例ですね。詳しいことは当日の事例検討会でお話いただいて、質疑応答の中でより明確にしていくのですが、この後の経過としては、どんなことがポイントになるのかを簡単に説明いただけますでしょうか。
【高岡】目指しているのは、その子自身で勉強の計画とかを決めて実践していくことです。それを少しずつ促すようにやっています。基本的には、私が、その子の苦手な部分を少しでもカバーするために、「これやりましょう」、「あれやりましょう」とリード役をしてはいます。一方で、もしそれをひたすら私がやるだけとなったら、結局それは「本人主体で何か決める」とか、「本人主体で何か選ぶ」ということを完全に無視してしまうことになってしまいます。つまり、私がリードするばかりになると、結局その関わり自体が、その子の劣等感とか、「どうせ自分で決められない」・「自分の力ではできない」というネガティブイメージを強めることになりかねません。
だから、私がリードしつつも、少しずつ「君が決めてみよう」と促してはいます。そして、その結果どうだったか、自分で決めて試してみてどうだったか、その結果を振り返るということを少しずつ促しているという経過です。
ただ、こうやって言葉にするとそれがスムーズに進んでいるように感じられるかもしれませんが、実際はそれほどスムーズにはいかなくて、一進一退で苦戦はしています。
9. 自己組織化に向けての知能検査の活用
【下山】こちらで決めてやる典型的なものとしてSSTがありますね。最近のASDの指導は、「こちらのプログラムでやりましょう」ということになりやすいですね。認知行動療法も「このように適用しましょう」とマニュアルに従って進めることも多くなっているように思います。そうではなく本人が考えて決めていく、そこを重視するサポートですね。
【高岡】心理職がリードして「これをやりましょう」と明示的に伝えるディレクティブな関わりも、ある程度は必要だと思いますし、実際私もそれをやってはいます。でも、さじ加減の問題で、そればかりにならないように気をつけてはいます。大まかに指示はするのですが、本人に選んでもらう度合いをちょっとずつ増やしていくイメージですね。
【下山】それをするときに知能検査も活用するということですね。そのあたりのご説明をお願いします。今回の事例検討の一つのポイントとして、知能検査の活用があります。高岡先生の知能検査活用論を教えてください。
【高岡】まず、「こういう知能検査の使い方はしないようにしている」ということを話しますと、「知能検査の、この点数が低いので、あなたはこういうことが上手くできないです」という安易な決めつけはしないように気をつけています。
つまり、知能検査の結果のフィードバックが、「こういう検査結果だからあなたには○○という障害があって、だからあなたは□□がうまくできないから、サポートが必要です」というように、あまりにも単純にその人の「できる・できない」を判定してしまうものにならないように注意しています。言いかえると、「できない人」というレッテル貼りにならないように気をつけている、ということです。
私は、基本的には必ず「この検査結果があなたの特徴の全てではない」「この結果であなたの能力の全てが分かるわけではない」と伝えます。
その上で、検査結果の活用の仕方ということに関しては、「その人と話すときは、検査結果を手がかりに、できるだけその人がインプットしやすそうな伝え方をすること」を気をつけています。
10. 知能検査の結果に基づく「伝え方」の工夫
【高岡】知能検査では、検査を受ける人が何らかの図などを見たり、検査者の話を聞いたりしながら回答するので、検査結果には「その人の見聞きの仕方の癖」みたいなものが表れるわけです。見聞きの苦手さが顕著である場合、「その人には、周りの人が思っているほど、周りの人の話の内容が正確に伝わっていない」ということがよくあります。
例えば、知的障害や境界知能のある人に「作動記憶の顕著な苦手さ」がある場合は多く、そのような場合は一度にたくさんの情報を頭の中にキャッチすることが難しかったりします。そこで、その人と話すときは言葉を短く区切ったり、場合によっては要点を短い言葉で紙に書き出して見せるなどしなければ、話に追いついてもらえなかったりします。
あと、知的障害や境界知能のある人が「抽象概念」の理解を苦手とする場合も多いので、なるべく具体例に基づいて話をすることも意識してやっています。
検査結果の説明をするときなども、抽象度の高い一般論や、「発達の偏りとは〜〜」という「概念」の話ばかりをするのではなく、できるだけ相手の生活の中で起こっている身近なトラブルなどに即して、「そのようなトラブルはこのような理由で起きているかもしれません」と具体例ベースで話す場合が多いです。知能検査の結果は、そのように「どういうインプットの仕方がやりにくいか・やりやすいか」を考える手がかりとして活かせるものだと思います。
【下山】それは、その人とのコミュニケーションでも大事にするということですね。また、その人の生活のあり方を向上させるためにも、情報を上手に使って心理教育や指導をしていくというサポートですね。
【高岡】そうですね。先ほど述べたような苦手さがある場合、学校でたくさんの情報を一気に言われたらつまずく可能性も高いので、例えば「周りの子と同じペースでの学習などは無理強いしないようにしましょう」と保護者の方々に伝えたりします。検査結果はそのように、その人にとって負荷が大きくなりすぎないような環境調整をしていくための手がかりにもなります。
11. 健康的部分を支えるための検査の活用
【下山】そうしますと、今回の事例検討会では、そのような知能検査のプロトコルなども出していただいて、それをどのように活用するかといった議論もしていただけるということでよろしいでしょうか。
【高岡】そうですね。事例に関係している代表的な部分については、こういう検査でこのような回答が見られたということに基づいて議論していきたいと思います。
【下山】今回の事例検討会では、まず発達障害の理解と支援について事例を通して学ぶことができることに加えて、知能検査をどう理解し、支援に活用するのかを具体的に学ぶことができるわけですね。
【高岡】そうですね。主旨としては「発達障害の支援と知能検査の活用」をテーマとした事例検討会です。私自身としても、どうすれば検査を受けた人や発達障害の特徴がある人たちなどを必要以上に傷つけずに、その人たちの健康的な部分を支えていけるのかを、一緒に勉強したいと考えています。
【下山】知能検査では、その人に「知的な障害がある」という烙印を押して終わってしまうともあるわけですね。それが支援とは違う方向に影響を与えてしまう危険性もありますね。
【高岡】そうですね。検査を活用するケースは、検査結果によって相手にショックを与えてしまうというリスクといつも隣り合わせであると常々感じています。検査を受けた人が、検査結果説明の内容次第で「自分はできない人だ」・「自分は普通ではない人だ」といった否定的自己イメージを持ってしまう危険性が常にあるわけです。知能検査をはじめとする心理検査は、便利だけれど危ないツールであると思っています。
【下山】最近、検査、特に知能検査の実施依頼を受けることが、心理職の仕事として非常に多くなっています。ある意味で知能検査がちょっとしたブームになっているとも言えます。しかし、本当に注意しないと、検査を受ける人の問題をさらに深刻化させてしまう危険性があります。ただ検査をして結果を伝えるだけと思っていても、実際には被検者様を傷つけている場合が少なからずあるということですね。
■記事校正 by 田嶋志保(臨床心理iNEXT 研究員)
■デザイン by 原田優(臨床心理iNEXT 研究員)
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