酒造りのすべてを学ぶために、稲とアガベへ──村田祐基さん
かつて、新政酒造で岡住代表に出会ったのをきっかけに、稲とアガベの仲間入りを果たした村田祐基(むらた・ゆうき)さん。瓶詰めを担当していた当時、「酒造りのすべてを知りたい」と思ったために入社を決めたといいます。
醸造家としての岡住代表にリスペクトを寄せながら、日本酒とは異なるクラフトサケならではの楽しさを日々体感しているという村田さんに、お話を聞きました。
稲とアガベで酒造りのすべてを学ぶ
──岡住さんと同じで、以前は秋田市にある新政酒造にいらっしゃったという村田さん。ご出身も秋田なんですか?
村田:はい。現在(2023年)35歳ですが、生まれてから今までずっと秋田ですね。ちなみに岡住社長と同い年です。
──新政酒造にはいつごろ入ったのでしょうか?
村田:26歳くらいで入りました。当時は瓶詰めの担当をしていて、(岡住)社長は麹の担当だったので、直接の関わりはあまりなかったんですけど、時々飲みには行っていました。
──そこから、どうして稲とアガベに入ったのでしょうか。
村田:新政の時から、社長は「自分の酒蔵を作りたい」と言っていました。その時は軽いノリで受け止めていましたが、私が新政を退職したころに、改めて声をかけてもらって、醸造所が立ち上がる時期の2021年9月に入社しました。設備が入ったばかりのころだったので、はじめは製造の準備をして、10月の後半から洗米や蒸しなどの本格的な酒造りがスタートしました。
──稲とアガベに入る決め手はなんだったんでしょうか?
村田:新政では瓶詰めだけを担当していたので、具体的な酒造りに関わったことがなかったんです。稲とアガベは比較的小規模ですから、すべての工程に携われるところに魅力を感じました。
引き出しが多い岡住代表を尊敬
──新政時代の岡住さんはどういう人でしたか?
村田:お酒が大好きで、よく飲み歩いてましたね。だから、朝はとにかく眠そうでした(笑)。あとは、麹の担当としてひたすら麹造りをやっていました。杜氏の方も安心して見ているようでしたし、これぞ師弟関係といった感じでしたね。酒造りの現場で熱く向き合っていた当時の社長を知ってるからこそ、今自分も稲とアガベにいるのだと思います。
──稲とアガベでの岡住さんはいかがでしょうか?
村田:社長が蔵にいてくれるとやっぱり安心感があります。最近は忙しくて不在が多いですが、本音を言えば、もっと社長が蔵に入ってる姿を見て学びたいですね。
──岡住さんの酒造りは、村田さんから見てどうですか?
村田:とにかく情報の引き出しが多くて、とても頼りになります。製造チームがわからないことでも、「⚪︎⚪︎をすれば△△になって、そしたら後の工程は◻︎◻︎になるから」という感じで、すべてを把握しています。どこかで思い通りにいかないことがあっても、あとでリカバーが効くというところまで想定しているんですよね。
──もともと、岡住さんは酒造りへの探究心が強い方であるはずなんですが、メディアなどでは経営者としての姿の方が取り上げられることが多いので、貴重なお話です。
村田:社長は、“日本酒らしさ”と副原料の個性とのバランスを真剣に考えています。副原料をいつごろ、どのくらい入れるかを、もろみを細かく見ながら見極めています。
搾る前後で味わいが変わることももちろんありますが、まだ使ったことがない副原料でも、はじめのレシピの段階から最終的な味をイメージしていて、それを実現できているのが本当にすごいなと尊敬していますね。
クラフトサケだからこそ辿り着いたホップサケ
──酒造りに携わってみたくて稲とアガベの仲間入りをしたという村田さん。実際に酒造りをしてみてどうですか?
村田:日本酒造りの用語は知っていても、クラフトサケは新たなジャンルですから、まだまだわからないことばかりです。でも、その中で新たな発見があって、今後に活かしていけるように日々勉強させてもらっていますね。
──稲とアガベはいろいろな種類のお酒を造っていますが、村田さん自身のお気に入りはありますか?
村田:ホップのお酒は、どぶろくも澄み酒※1も衝撃的でした。それまで、クラフトサケは日本酒の味わいより副原料が強く出てしまうと思っていたんです。でも、ホップのお酒には、「これがクラフトサケだからこそ辿り着いた飲み物か」と思わせるインパクトがあったんですよね。もろみの時点で香りがすごくて。日本酒と副原料のどちらの特徴も活かせているお酒だと思います。
──酒造りで大変なことはありますか?
村田:搾りの工程ですかね。もろみを袋に入れて、それを重ねて、圧力をかけて搾るんですが、最高で約200枚の袋に入れなければなりません。しかも翌日には袋に残った酒粕をすべて剥がすので。
特にシロップ系の副原料は沈殿して取れにくいので大変ですね。ブドウなどは匂いがどうしても残ってしまうので、醸造用の洗浄の薬品によく漬け置きして落としています。
──クラフトサケならではの苦労ですね。
村田:クラフトサケはいろいろな可能性を感じる飲み物ですが、特有の大変なところもありますね。
──最後に、やりがいを感じる瞬間はどんな時ですか?
村田:いちばんは搾りたてのお酒を飲んだ時ですね。「あ!今回はこういう感じか」と、楽しさと感動が入り混じった感覚になります。そして、できたお酒がお客様の手に渡って、「美味しい」という感想が聞こえてくると、お酒造りをやっててよかったという気持ちになりますね。
この記事の担当ライター
たろけん
沼にハマりすぎて、蔵人になってしまった日本酒好き。近年はクラフトサケを応援しており、特に稲とアガベは、土田酒造からプロトタイプが出ていたころからのファン。このメディアを通じて、表向きは稲とアガベの魅力を伝えつつ、裏テーマとしてはまだ訪れたことがない男鹿を疑似体験したいと思っている。
note/Twitter (X)