3Dプリンターで山の立体模型を作る話
こんにちは。オリエンティア裏アドベントカレンダー(今年もオリエンテーリングを語ろう(裏版))の12月3日の記事を書きます稲森です。
テーマは3Dプリンターで山の立体模型を作る話です。
最近、3Dプリンターはとても身近な存在になっています。製造業や研究における試作ではごく普通に用いられています。また、家庭用でも、3、4万円のものから1万円代のものまであり、金欠学生でもその気になれば手が届くくらいの値段で売られています(遠征1回分くらい!)。
昨年末、ANYCUBIC I3 MEGAという機種をAMAZON(後継機種リンク)で29000円くらいで購入しました。オリエンティアが3Dプリンターで何する?と言われれば、もちろんテレインの模型作製ですよね!
というわけで、この記事では3Dプリンターでテレインの模型を作る方法と実用例について紹介します。
作り方
作り方の手順は、次の3ステップになります。
①STLファイルを作成
②スライサーソフトで造形用のデータ作成
③造形
①STLファイルの作成
3Dプリンターでモノを造形するためにはSTL形式のファイルが必要になります。地形のSTLファイルの作成方法には(A)地理院地図のSTLデータ作成機能を用いる方法、(B)Shape Map Makerを使う方法の2つがあります。
(A)国土地理院の自動STLデータ作成機能
地理院地図には3Dデータ(STL、VRML)のエクスポート機能があります。範囲を指定して、ボタンを押すだけでSTLファイルを作成することが出来ます。かなり簡単にSTLファイルを出力することが出来ます。利用方法はこちら。
高さ方向の倍率を変更する事も簡単にできます。
しかし、縮尺が分かりにくい点と範囲の指定がきっちりできない点が欠点です。地理院地図のQ&Aによると縮尺は「地図上で計測して計算してください」だそうです。そのため、手軽に縮尺を気にせずに作成する場合には、このように地理院地図からSTLファイルを作成するのがおすすめです。
(B)SMM(Shape Map Maker)でSTLデータを作成
縮尺と範囲をちゃんと決めて作成したい場合はShape Map Maker(ダウンロードサイト)を使うのがおすすめです。Vector Map Maker(VMM)はご存じの方も多いと思います。基板地図情報からO-Mapを作製する時に良く用いられているあれです。こちらは過去の坂野さんの記事が分かりやすくて良いです。このソフトを用いることで基板地図情報のレーザー測量データからSTLファイルを作成することが出来ます。縮尺の指定や範囲の指定を数値でできて便利です。
この前のインカレロング2020のテレインのデータを作成する想定で、具体的な操作方法を説明します。東西3.6km、南北3.0kmの範囲を縮尺2万分の1で高さ方向は2倍(1万分の1)にして作製する想定です。
(B.1)基板地図情報のダウンロード
国土地理院の基板地図情報ダウンロードサービスから作りたいエリアを含む数値標高モデルをダウンロードします。基本項目もダウンロードしておくと、模型の範囲の地図をOCADで作成するときに便利です。
作製したい範囲が含まれているエリアを選択して
ダウンロードします。
(この段階でVector Map Makerを使って模型を作成したい範囲をOCADにして、グリッド表示をさせて、作りたい範囲の座標を把握しておくと便利です。この場合は第9座標系の西端-1500~東端2100、北端97900~南端94900を範囲とすることにしました。)
(B.2)Shape Map Makerの設定
i)STLファイルを出力するフォルダを指定
ii)ダウンロードした数値標高モデルの入っているフォルダを指定
iii)座標系(都道府県ごとに指定されている座標にすればOK)
iv)範囲(地図で指定も可能)
v)標高Mesh5m
vi)ファイル形式:STLファイル。STL尺度:実際の地形に対する模型の比率(1万分の1⇒0.0001、2万分の1⇒0.00005)
vii)標高強調倍率。高さ方向に何倍にするかの指定。1だと平べったくなって地形がよく分からなくなるので、テレインに応じて2~10倍程度にするのがおすすめです。
以上の設定をして処理開始を押すとSTLファイルが出力されます。3.6km×3.0kmの2万分の1模型(18cm×15cm)のSTLファイル出力にはおよそ1分かかりました。
②スライサーソフトで造形データを作成
3Dプリンターでは、下から厚さの薄い層を積み重ねていくことで立体的なものを造形しています。スライサーソフトでは、3次元のSTLファイルから、3Dプリンタで積層していく1層1層のデータを作成します。通常、3Dプリンターの機種によって指定のソフトが付属、もしくはフリーでダウンロードできます。私が持っている3DプリンターではUltimaker Curaというソフトが推奨されています。
ここでは、造形の条件を設定します。
i) 配置の決定をします。この時にステージの底面に潜り込ませるように配置することで地形の無い部分を除いてプリントすることができます。Shape Map makerで基準の標高を決めることもできるのですが、地形図を見て最低標高の場所を探すのも面倒なので、このタイミングで実際の3Dモデルを見ながら調整するのが楽ちんです。
ii) 積層間隔の設定をします。0.06mm~0.6mmで指定でき、細かい方が精細な模型を作成することができます。しかし、敢えて粗くした方が等高線っぽさが出てオリエンティア的には嬉しい模型になります。例えば、2万分の1で高さ方向2倍にしている場合、高さ方向の縮尺は1万分の1です。そのため、0.5mmに設定すると、実際の5mに対応するようになり、O-Mapの等高線間隔と一致します。
iii)壁の厚さiv)上面の積層数v)底面の積層数vi)内部の密度
⇒造形物の強度に影響します。壁の厚さ=1mm、上面の積層数=3、底面の積層数=2、内部5%~10%くらいで十分です。
以上の設定が終わったらsliceボタンを押してスライスします。造形に必要な時間と材料の量が表示されます。
③造形
スライスすると出力されるファイル(家の3Dプリンタでは.gcodeファイル)を3Dプリンタに移して造形を開始すればあとは完成を待つだけです。
造形中の動画です。気が付くと長い時間見入ってたりします。
使い道
オリエンテーリングにおいて3Dプリンタの使い道ってどのようなことがあるでしょうか?いくつか挙げてみたいと思います。
レース対策
旧図が無いテレインの地図を基盤地図情報から作成して読むというのは結構行われているのではないでしょうか。地図だけではなく立体模型を作ったら、より多くの情報が得られるのではと思います。
実はこの前のインカレロングではKOLCのエリート選手内で希望した人に立体模型を配っていました。
正直、立体模型があっても余り対策できないのでは?予想地図を読む方が対策になるのでは?という疑問もありました。実際に使ってみた感想のアンケートを取ってみました。
やはりまだ、立体にしたからと言って強力な対策ツールになるわけではないようです。アンケートで出てきた意見として、
・大体の地形を把握するのに良い
・道のアップダウンが分かりやすい(道を書き込んでくれた人が何人かいました)
・モチベーションが上がる
・色がついてないからよく分からない
・細かい特徴が無いので予想コースには使えない
・計曲線が欲しい
・色が欲しい
・立体模型に慣れてないから斜度の感覚が分からない
といった意見が多かったです。やっぱり色がほしいですよね
現状フルカラーの3Dプリンタは業務用の物がほとんどでとても個人で買えるものでは無いです。受注プリントサービス(Kinkos, 3dayプリンターなど)もありますが、10~20cmサイズのテレインの模型を作るのに5~10万円くらいはかかります。また、27万円という破格の安さのフルカラー3Dプリンターもありますが、まだまだランニングコストやメンテナンスの手間が大きそうです。単色の3Dプリンタの価格も急激に下がったように、数年後には家庭用として手の届くフルカラー機種が出てこないかなぁと期待しています。
大会グッズ
参加した大会のテレインの模型、欲しいと思いませんか?テレイン模型コレクターとか面白そう。例えば、下の画像のような筏場國有林と天城山の模型があったら欲しいですかね。。?
新入生に地形と等高線の説明をする用に
新入生に尾根や沢やピークや鞍部の地形を説明するのって、いまだに結構難しいなと思います。手を山と見立てて「指の部分が尾根で、指の間が沢」なんて苦し紛れの説明をよくしています。等高線の形を明らかにした立体模型を3Dプリンタで作成すれば、かなり楽に説明できるようになるのではないでしょうか?
中級者に地形の説明をする用に
もしかすると新入生に地形を説明するよりも中級者に地形を説明する時の方が役に立つかもしれません。そこそこミスらずにコースを回ってこれるようになったけれど、なかなか速くなれない人は、尾根沢という言葉では説明しきない微妙な山の形(傾斜変換だったり、斜面の向きだったり)の認識力が足りていない気がします。そういった地形について学ぶのにも使えそうだなと思います。
オリジナルコンパスプレート作成
これはまだ将来の話ですが、自分の手に合ったコンパスのプレートを作製するとかもできるようになると思います。今の家庭用3Dプリンタではコンパスのプレートとして用いるには強度も熱に対する耐性も透明度も足りない物しかできません。高強度で透明度の高い物が造形できるプリンタが家庭用として買えるくらいの値段になってきたら、自分の好みの形をしたコンパスのプレートを作製できるようになると思います!
終わりに
今後、3Dプリンターはますます身近な存在になってくると思います。オリエンテーリングは、競技人口が少なくて、オタクな人(OCADオタクとかテレインオタクとか)が結構いるスポーツということで、なんとなく3Dプリンタと相性が良さそうな気がしています(笑)
また、3Dプリンタで何か作ってほしいという依頼がありましたらお気軽にご連絡ください。そんなに頻繁に動かしてあげれていなくて、家の3Dプリンタも暇そうなので!
最後までお読みくださりありがとうございました!