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『LGBT異論』

 先日紹介した斉藤佳苗氏の『LGBT問題を考える』に続き、トランスジェンダリズムの問題点を考える良書が相次いで出版された。キャスリン・ストックの『マテリアル・ガールズ』(慶応義塾大学出版会、9月20日発行)に、女性スペースを守る諸団体と有志の連絡会編『LGBT異論』(鹿砦社、9月28日発行)である。なお、キャスリン・ストックについては、『LGBT問題を考える』の中でも紹介されていた。
 ここでは、先に読み始めてまだ読み終わっていない『マテリアル・ガールズ』ではなく、一昨日入手して昨日読み終えた『LGBT異論』を紹介したい。
 
 著者および対談者の数は11名で、このうち滝本太郎氏が1つの対談と5本の論考を書いている。オウム真理教信者の洗脳を解くため、自ら空中浮揚をする写真まで撮った闘う弁護士、滝本太郎氏が「トランスヘイトの発言をしている」という記事を初めて見たのは、東京新聞夕刊の匿名コラム「大波小波」においてであった。その頃はまだトランスジェンダリズムとトランス活動家の実態を知らなかったものの、トランスジェンダー概念については疑問も持っていたので、「大波小波」のコラムも眉に唾を付けて読んでいた。その後、「大波小波」が相次いで『あの子もトランスジェンダーになった』というタイトルでKADOKAWAから翻訳出版される予定だった本の出版中止(その後、『トランスジェンダーになりた少女たち』というタイトルで産経新聞社から出版された)問題で(明らかに本を読むことなく)出版中止を肯定する記事を相次いで出したことから、疑惑を強め(「トランス“批判”本出版中止の件」)、その後、『情況』夏号「トランスジェンダー特集」と『LGBT問題を考える』を読んで、遅ればせながら、ようやく私もトランスジェンダリズムの本性を理解するに至った。滝本弁護士がこの問題に関わって以降、トランスジェンダリズムに洗脳された人々から浴びたバッシングや懲戒請求については、本書で初めて知ることができた。
 
 また、三浦俊彦東大教授がトランス差別だとしてバッシングを浴びたという話は聞いていたが、その具体的な内容については、本書で初めて知った。興味深いのは、三浦教授に対する批判声明を出した東大関係教員有志の所属と反応である。例によって(?)批判声明は三浦教授の記事に対する不正確な理解に基づいたものであり、翌月、三浦教授が出した応答・反論に対して誰一人応答していないのである。批判声明に名を連ねた東大関係者は35名で、そのうち総合文化研究科が16名と突出して多く、次いで教育学研究科と情報学館が7名ずつ、あとは先端科学技術研究センターが2名のほかは、人文社会学研究科、東洋文化研究所、医科学研究所が1名ずつとなっている。理系の研究者が少ないほか、法学政治学研究科と経済学研究科は0名である。署名者の中には、「さもありなん」と思う名前もあれば、「この人もそうか」と若干意外に思う人もいるが、いずれにせよ、署名者のうち、三浦教授の記事をきちんと読んだ人はそれほどいないだろう。読んだうえで署名をしたとすれば、大学教員としての読解力が疑われるし、読まずに署名をしたとすれば、その無責任さが問われなければならない。しかし、この国の“有識者”と呼ばれる人々にはその程度の、つまりは自分の頭で考えることなく、時流に乗る(get on the bandwagon)ことだけは得意な付和雷同型が大半を占めているのであろう。
 
 本書の中で最も興味深かったのは、フランス文学者の堀茂樹氏と滝本氏との対談であった。その中で滝本氏が紹介している話で、「女性スペースを守る会」に対して「トランスヘイト絶対殺すマン」とツイートした人がいたそうだが、その人は在日朝鮮人差別に対して頑張ってきた弁護士だったという。そういう人が、女性スペースを守る会を罵倒し、脅迫までしているというのである。滝本氏によれば、その弁護士は、(実際に会ったこともない)トランス女性の方が女性一般よりも弱い立場にあると決めつけており、現実に女子トイレのような閉鎖スペースの中で、ペニスを持つ身体男性のトランス女性と、女性や女児のどちらが(一般に)強いか、具体的に考えようともしないというのである。
 昨年10月25日、最高裁は性同一性障害特例法第3条4項の、性別変更のための「生殖不能要件」を違憲無効と判断したが(この判決についてはいずれ詳しく分析したい)、申立人の代理人である南和行と吉田昌史の両弁護士が裁判終了後、司法記者クラブで記者会見したときの様子を、斎藤貴男氏が『情況』夏号の中で報告している。以下、抜粋引用すると――。 

そこで私(斎藤)は質した。(……)じゃあ、これからは(トランスでない)女性のほうが、もっと負担しろと(いう意味ですか)? (……)(あなた方は)デマゴーグだと一蹴するが、海外では現実に事件も多く起きている。単に(性犯罪の)ハードルが下がった、と受け止める人間もたくさんいるのでは?
 すると吉田弁護士が、
「いまの件、女性のほうが不利益を被る社会にしろということかと言うと、それでも私は構わないんですが・・・。いや、そうです。(外観要件も違憲だという反対意見を書いた)草野意見はそうだし。5号(外観要件)が違憲とされるということは、トランス女性の人が、生来の女性の人に踏みつけにされていると判断するから違憲なんです。
 人権と人権がぶつかる時に、平穏に暮らしたいという女性、脅威を感じるという女性がたくさん、仮にいたとしても、それを守るために、その脅威を除去するために、虐げ・・・恒常的に抑圧されている人の状態を見た時に、どちらを優先するんですか?っていうのが人権。憲法に反するから。今の質問は、もう仰るように、その通りですよ」
 

『情況』夏号、23頁

 この吉田弁護士の発言には、私も仰天した。現実認識としても、憲法解釈としても、理論的にも、とんでもない間違いである。堀氏は吉田弁護士のような発言を生み出すトランスジェンダリズムのさらに背後にある思想を、10年ほど前から北米と西洋を席巻している「ウォーキズム」だという。それによれば、世界はマジョリティとマイノリティに分かたれ、前者と後者に加害者と被害者、強者と弱者、悪と善という単純化されたレッテルが貼られ、結果として前者がシステマティックに断罪されることになる、というのである。このような恐るべき単純で幼稚な世界観に立っているからこそ、「トランス女性の人が、生来の女性の人に踏みつけにされている」などという発言が平然と出てくるのである。
 
 堀氏はさらに、西洋諸国でこうした問題が起きている背景として、左翼が軒並み「文化左翼」に変貌してしまった結果、大衆の現実には目が向かない一方で、「マイノリティ救済」の名の下でのアイデンティティ・ポリティクスの犠牲者競争、「傷つきました」戦争が起きている結果だという。
 
 政党レベルでは、(個々の党員は必ずしもそうではないとしても)日本共産党、社民党、れいわ新選組、立憲民主党などすべてトランスジェンダリズム(性自認至上主義)に嵌ってしまっており、それに対する批判に耳を傾けるのが自民党や日本維新の会といった右翼政党しかないという悲惨な状況になっている。マスコミも同じで、朝日、毎日、東京、NHK、共同通信などみな性自認至上主義に嵌ってしまい、批判的な意見を載せるのが、これまた右翼の産経新聞くらい、という情けない状況なのである。
 
 一方、オウム真理教事件で活躍し、カルト問題の専門家である滝本弁護士は性自認至上主義をカルト的思想運動である、と断言している。これは、『トランスジェンダーになりたい少女たち』で紹介されていた脱トランスした女性たちが、自分たちがかつていた世界を「カルトだった」と口をそろえて証言している事実と完全に符合している。
 
 「日本人の大半は、私たちが論じている現象を、まだまだ社会のごく一部分でしか発生していない些細な問題だと思っています」と堀氏が言うと、「まさか、と思っていますよ。私も最初はそう思っていましたけど」と滝本氏が応じているが、私もつい最近までこの深刻な問題にほとんど気づいていなかった。しかし、最高裁までトランス・カルトに乗っ取られた今、日本全体がカルトに呑み込まれるのか、それとも正気を取り戻すかの瀬戸際に立たされていると言っても過言ではあるまい。
 

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