猫のいる暮らし(2)
われわれ飼い主夫婦が二人とも出勤する日は、レオン(猫の名前)は当然お留守番である。しかし、「留守番」などという人間に都合のいい概念は猫にはないに違いない。猫にとっては、あくまで「(なぜか)自分だけが置き去りにされ、長時間独りぼっちにされる」という経験でしかないだろう。“置き去り”にされる日は、レオンもうすうす感づいている。小さかった頃は、玄関までついてきて、切なそうにこちらを見つめてくるので出勤するのがつらかった。おやつやオモチャで気を逸らしている間に家を出る、などという姑息な手段もよく使った。しかし、大人になった今では玄関までついては来ない。わざとふてくされて寝ているのである。その分、こちらとしては多少なりとも辛さが軽減される。そうやってレオンも協力してくれているのかもしれない。
話は変わるが、日本のキャットフード業界は何か大きな勘違いをしているのではないだろうか。日本人が魚好きだからといって日本の猫が魚好きというわけではない。雑種系の犬と違って、猫は100%肉食系である。この場合の「肉」とは、決して「魚肉」ではなく、鳥獣の肉のことである。猫には鳥や小動物の狩りを行う本能があるが、魚の漁をするなどという本能はないだろう。犬と違って猫は元来、水が嫌いである。ペットフードのラベルに「ネズミ」とか「ハト」とか「スズメ」とか書いてあるより、「マグロ」「カツオ」「ツナ」などと書いてあった方がおいしそうに感じるというのは、人間(日本人)の好みを勝手に猫に押しつけているだけであろう。
長時間「留守番」させた後、連れ合いが帰宅すると、じっと見つめて「ニャン!」と鋭く一声鳴くという。これは私にはしない反応だが、まるで、「どうして僕を一人にしてたんだ!」と抗議しているようだという。私が遅く帰宅したときは、私の足や手に飛びついてきて、噛んでくるのである。これも「留守番」が長くなったときにだけ見せる行動なので、やはり抗議行動なのだろう。「痛いよ、痛いよ」と言いつつ、遊びに誘ってやると満足するのである。
レオンは3ヶ月(人間なら4~5歳か)のときから我々夫婦とだけ暮らしているので、我々の行動を見て、寝るときは仰向けになって寝るのが正しい姿勢だと思っている節もある。もっとも人間の寝相が多様であるように、猫の寝相はもっとはるかに多様なのだが。
完全室内飼いのためか、レオンは身近に危険が一切ないと思っているようで、猫なのに警戒心がゼロで、完全に安心しきって暮らしている。そのため、ふと気づくと、いつの間にかレオンが足元で寝そべっていることも多く、こちらが細心の注意をしていなければならない。
レオンの寝場所は時期によって変化するが、最近のお気に入りは私のベッドの下の床の上である。レオン専用のベッドも用意してあるのだが、ベッドの中では寝ない。カーテンの裾に半分隠れて寝ていることも多い。私が寝るとレオンも寝て、私が起きるとレオンも起きてくる。本当に可愛いやつである。